小説

□旅行先にて、入浴中の悪戯はほどほどに
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 死を寸前にした人間の魂を審査し、それを狩ることを仕事にする死神。

 休息すらないかのように思われるが、死神界では数年に一度選ばれた地区の死神たちが社員旅行に行くという企画があった。毎年それぞれの地区の死神たちが数日間の休暇を与えられ、旅行へと出かける。

 今回はロンドン地区を担当するウィリアムたちが選ばれたのだ。

「やぁ〜ん♪ウィルと旅行だなんて嬉しい〜!新婚旅行とかだったらもっとよかったんだケド。ンフッ、でも行き先が温泉だなんてぇ〜……覗き見しちゃあ、ダメよ?」

「……誰が覗きますか。それに私は嬉しくないですよ。まったく。仕事が立て込んでいるというのに、何故このような面倒な旅行などに行かなければならないのか」

「ちょっと〜、せっかくお上から頂いたありがた〜い休暇なのよ?仕事の話しはノンノン!ねぇねぇ、ウィル。夕食前にお風呂へ入りに行かない?ここのお風呂って物凄く広いみたいよ?」

 旅館に到着をしてから、割り当てられた宿泊部屋にウィリアムとグレルは移動をする。

 一一一ちなみウィリアムとグレルは別部屋だ。もちろん相部屋ではなくヒトリで泊まることになっていた。

 ウィリアムが荷物整理を行うその横で、自分の荷物などそっちのけにパンフレットを広げるグレルの表情はとても楽しそうだった。そんなグレルはウィリアムと違って立場は下だが、クジ引きの結果、ツイン部屋にヒトリでグレルは泊まることになってしまったのだ。

「……それより、グレル・サトクリフ。いい加減に貴方も部屋へ戻ったらどうです?荷物だってまだ片づけていないのでしょう?」

「荷物ならいつだって片づけられるワ。……ねぇねぇ、それより見て?ミルク風呂があるのよ?お肌がツルツルになって美容にいいんですって」

 何を言われても部屋に戻らないと決め込んでいるのだろう。グレルは頑なにその場に居座るつもりでウィリアムに話しかけてくる。

「……まさか、誰もいない部屋に戻るのが嫌だとか言わないですよね?」

「………へ?」

 裏返った声でグレルは返事をする様子に、図星だろうとウィリアムは確信した。

「そ、そんたことないわよ!!やーね、ウィルったら!」

「……そうですか」

 あえてツッコミは入れなかったが、代わりにウィリアムは溜め息を一つ漏らす。

「あ!アタシはココのミルク風呂に入ってみたいワ!お肌がツルツルになって美容にいいんですって。ウィルはどこに入るか決めた?」

 明らかに強がる様子を見せるグレルは話題を逸らすように、パンフレットへと目を移す。仕方なくウィリアムはそれ以上何も言う気にもなれず、話題に付き合うことにした。

「何かオススメはありますか?」

「んーと……あ、これなんてどうかしら?体がリラックスして疲れもとれるみたいよ?あ、サウナもいいかもしれないわネ。ウィルって読書好きでショ?あとはー……」

 まるで遠足を楽しむ子供のようにグレルは興奮をしている。

 一一一まったく。

 自分のことではないのに熱心に考えてくれるのは一向に構わないが、その熱心さを仕事へと向けてほしいとウィリアムは心の中で思う。

 暫くウィリアムの部屋に入り浸っていたグレルだったが、荷物整理のため仕方なく部屋へ帰ることになった。

「……ねぇ、荷物整理が終わったらまた来てもいい?」

 グレルにしては珍しく控え目に尋ねてくる。いつもの調子で断ろうとしたウィリアムだが、その様子に暫く言葉を考え一一一。

「私が迎えに行きます。お風呂に入りたいのでしょう?夕食前ですから、あまり準備に時間を費やさないで下さい」

「ええ、わかったワ!」

 先程の様子などまったくなかったかのように、すっかり元気になったグレルは嬉しそうに自室へと帰っていった。


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