染まらない華
□Bitter Suite
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忘れることは出来ない。
ならば、表に出さなければいい…。
「何やってんだ?お前…」
ここにいるはずのないあの人の声に、ゆっくりと振り返り息を呑んだ。
音もなく開かれた戸口に、あの人は立っていた。
「授業はどうしたんだ?」
戸を締め、近づきながら問い掛けてくる。
「…宍戸さんこそ…どうしたんですか?」
動揺を隠したまま、聞き返した。
近づきピアノをそっとなぞる、宍戸さんのその指にくぎづけになる。
「…お前の様子が変だったから、気になった」
見られた…。
あの光景を見ていた自分の姿を…。
汗ばむ手を握り込み、力を篭めた。
「なんの事なのか…」
「それ、俺の目を見て言えるか?」
ごまかそうとした言葉を遮り、トンと俺の胸に軽く手を当て宍戸さんは静かに呟いた。