※本文中より一部抜粋。


「本当に俺が、アッシュの夢に出たのか…?」
「ああ、話した通りだ。俺が覚えてないお前との過去に、何か関係があるのかと思ったんだがな」
「………」

 翌日、一本桜の元に訪れたアッシュは、やはりあの夢が気になって落ち着かず、自分が見た夢の内容をそのままルークに話してみていた。
 だが、何故かそれを聞いていたルークの顔色はどんどんと青ざめていき、やがて何かを考え込むように無言で俯いてしまった。

「おい、ルーク?どうかしたのか」
「あ、いや…大丈夫だ」

 アッシュが不思議に思って声をかけてみれば、完全に上の空だったらしいルークは、驚いてビクリと両肩を跳ねさせながら顔を上げる。
 そして、怪訝そうに眉を顰めているアッシュと視線が合うと、誤魔化すようにひきつった笑顔を浮かべみせながら口を開いて。

「それで…?その夢を見てから何かあったか?それから何か体調が変だとか…」
「俺か?いや、特に変わりはないが」
「…そ、そっか。いや、それならそれでいいんだ。別に何も関係ないから、そんな変な夢は早く忘れた方がいいよ」

 逆におずおずとそう聞き返してくるルークに、アッシュが驚いたように瞳を瞬かせながら答えれば、ルークは安心したように一息ついてそう言い含めた。
 そうして一方的に話を終わらせると、さっさと鞄を胸に抱えて立ち上がり、何かを恐れているかのようにアッシュの側から後ずさっていって。

「……?お前、さっきから何か変だぞ。やはり何か心当たりが、」
「アッシュ、ごめん。俺、そういや用事があったんだ」
「おい、ルーク」
「だから、今日はこれで……じゃあな!」
「ルーク!!」

 結局アッシュの疑問は何も解決することなく、ルークもアッシュが呼び止める声を振り切り、そのまま逃げるようにして走り去ってしまう。
 ルークがそんな風に突然態度を豹変させた理由も判らず、アッシュはその後ろ姿を呆然としたまま見送ることしか出来ない。

「……一体何だっていうんだ」

 くしゃりと前髪を掻きあげ、苛立ったようにそう呟いたアッシュに答える者は誰もおらず、釈然としないものを感じながらも校舎に戻ることにしたのだった。
 一方、あらぬ方向へと駆け出したルークはどうしたのかといえば──。

(ダメだ、ダメだダメだっ!!)

 心の中でただそれだけを何度も繰り返しながら、ルークはあてもなく学園内の裏道を走っていた。
 やがて、アッシュが完全に見えなくなったところでようやく立ち止まり、ゼェゼェと息を切らせながら校舎の壁にもたれかかる。

「どうして…なんだ」

 アッシュから聞いた夢の内容から、自分と接触したことで、覚えていないはずの過去の記憶を刺激してしまっているのは明らかだった。
 このまま会い続ければ、いずれアッシュも自分と同じように記憶を取り戻してしまうかもしれない。それは、今のルークが最も避けたいと思っている事態であった。
 また会えたことがただ嬉しくて、例え自分を覚えていなくても良かったのだ。この学園に在籍している間だけの限られた時間であっても、アッシュを側で見ていたい。
 それだけが望みだったはずなのに、それすらも許されないのかと、悲しみと怒りとが綯い交ぜになったような、暗い感情がルークの胸に込み上げてくる。

(ごめん、アッシュ)

 あの戦いの記憶を思い出すことで、今のアッシュの平穏な暮らしに暗い影を落としたくはない。アッシュが歩み始めた新たな生が、己の存在によって壊されてしまうというならば、ルークのとるべき道はただ一つだけ。

(俺はアッシュから離れよう。けど、その前に……)

【A.全部話そう→**ページへ進む】
【B.やっぱり話さない→このまま進む】


※本文中、このように2箇所の分岐点があります。
続きはコピー本でお楽しみ下さい^^


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