A.P.H短編

□何もない
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俺はもう国じゃねえ。けどずっと存在してた。でもそれも今日でお終いなんだな。消えていくのが分かる。
名前悲しむだろうな。ヴェストも、悲しんでくれっかな。
あの鮮やかな風景が遠ざかっていく。国である俺に死なんて無え、と思っていた。
それは間違いだとようやく気付いた。なあ、名前、ヴェスト、呼んだら気付いてくれるか?消えていくこの俺に。


いきなり視界が広がって懐かしい景色。そこには二人が。ああ、さっきまでのは夢だったんだな。良かったぜ。手を伸ばしたけど、すり抜けた。
それは一瞬だった。
何も見えなくなり、声も聞こえない。何も感じない。消えていく。
俺様という存在が消えていく。

数年の間は名前ぐらいは覚えていてもらえたかも知れねえ。
でもやがて新たな記憶に埋もれて、埋もれて、薄れてしまった。
ケセセッ一人楽し過ぎるぜー…自分の声すら聞こえない。
なんつーか、心で唱えてるような。そんな感じだ。ああ、もう少し、名前と話したかった。ヴェストに我が儘言いたかった。…名前にこの想いを伝えたかった。
でももう、全て手遅れ。お前の心に残ってるか?俺。
落ちていく様な感覚。暗くなっていく。

俺、みんなの為に何かしたっけ?してねえな。これじゃあ忘れられても無理ねえか。
他に何か、俺が居たという証。
…それも無え。何かしたくても、残したくても、手遅れ。俺にはもう、


何もない。

(じゃあな、この世界。)
 

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