A.P.H短編

□刻みつけてやる、俺という存在を。
1ページ/1ページ

アーサー視点

あいつと名前が見つめあい、そして頬を染める名前。

…気にくわねえ。
視界を歪ませる液体。
嘘だとでも言うように乱雑に拭った。
そして目の前に名前がいた。

『大丈夫?』

「あ、ああ。大丈夫だ。気にすんな。」

『何かあったら言ってね?』

「分かった。」

胸の痛みを抑えて笑いかけた。これでいいんだよな?
名前にはあいつがいるんだから。今更俺の入る隙間なんてどこにもねえ。
俺の恋心に鎖をかけ封印して。二度と溢れないように。
僅かな思いすら押し込めて。





次の日、あいつとケンカしたとか言いながら名前が俺の家に上がり込んできた。

俺に愚痴を散々言ったら疲れたのか机に俯せる名前。

こっちのが疲れたっつーの…。
疲れた頭から洩れる言葉。

「もし、あれだったら俺に乗り換えても良いぞ。」

『あー、考えとくね。うん。ありがと。』

こいつは見え透いた冗談だと油断してんだろうな…。
もし劇薬が目の前にたくさん並んでたら紅茶を選ぶようにどれを飲もうか迷うだろうな。

恋心に掛けた鎖から溢れるこの想い。
それは次第に大きくなって、やがては鎖を錆び付かせていく。そう、それは
(やめろ!そんな事しても無意味だ!俺一人が我慢すれば済む話なんだ!)
頭の中で響く声に抗うほどに。

今俺が名前を犯してしまえばこれから先、今までのような思いをしなくて済むのか?



今まではありふれた恋心だったものが今狂気に当てられ何かに変わる。

俺の目の前で油断してるあいつの隙を突くのは容易かった。
そっと近づいてこっちに気付いた途端、

「捕まえた。」

俺の想いも知らずに油断してたからいけないんだぜ?
見せつけられた今までの分、しっかり返してやる。

俺のこの想いがどれだけなのか、

刻みつけてやる、俺という存在を。
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ