長編

□想定外の出来事
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【08:想定外の出来事】



走る、走る。全くもって予定外にして予想外。見つかるとか完全にアウトでしょ。まー、子供連れて逃げてるって時点で十分予定外なんだけど。


『(どうする・・・?)
っ、ヤバい隠れないと見つかる』


さすがの私もこの子を囮にしようなんてバカげた事はしない。なにより、ここの連中が気にくわない。

とりあえず近くの部屋に身を潜める事にした。厳重にロックが架かっていたけど、私の能力で看破して侵入。

さらに物音をたてないように注意して物陰に隠れる。この際、連れてきてしまった子は私の腕の中にいる。


『(ここの連中は何やってんのかしらね
こんな子供に拷問まがいの実験を強制して
こんなに怯えさせて・・・、人間不信になるわよ)』


ギューっと私の服を掴んで放さない小さな手。私を見上げる双眼は、不安半分期待半分ってとこかしら。


『・・・綺麗なオッドアイ』


右頬にそっと手を沿える。怪しく光る紫色と、やわらかい色合いの淡緑色。互いに不釣り合いな双眼の雰囲気が、普通じゃないような気がしてならない。


「・・・・ん」
『???』
「ぼく、つれてるの、だめ
・・・ころされちゃう」

『私だって見つかってるんだから、今さら一人も二人もそんなに変わらないわ
(でもこの子を連れて逃げ切れるかは激しく疑問なところね
とても戦えそうにはないし)』


見つからないように声を押し殺し、小声で会話をする二人。さてどうしたものか、こんな状況じゃまともにブツの回収も出来ないわ。この子に手伝ってもらうっていうのはマズいかしら・・・?


『っ、はぁ・・・
(息が苦しい・・・?)』
「だい、じょぶ?」
『はぁ、っええ』


頭を軽くポンポンと叩き、優しく撫でた。子供に心配されるなんて何だか不甲斐ないわ。それにしてもこの息苦しさは何なの?目眩もしてきたし確実にヤバイわね。今見つかったら―――


「ここにいるのは分かってんぞ、侵入者とガキ
さっさと出てこい
・・・・・・ベツにィ、そろそろ“症状”が出るだろうからその後ゆっくり回収してやってもいいがなァ?オレはそんなに気ィ長くねえからよォ、今から即効であぶり出す!!」



ドカーン、とドアが吹き飛ばされる音がした。最悪だわ、症状っ何よ。ていうかこの倉庫内にバズーカ撃ち込むってどういう神経してるのかしら。薬品とかその他もろもろ置いてあるんじゃ・・・!!

私が倉庫から駆け出したのと爆発が起こったのとはほぼ同時。もくもくと煙が上がる中、私は転がり出た。


『っ、ゲホゲホ・・・
酷いわね、いきなり』
「オイ小娘、そのガキをさっさと渡せ」
『だ・・・れがっ・・・、』


息苦しさに加え頭痛が私を襲う。視界が霞む中、白衣の男に向かって攻撃しようと試みたがそれは失敗に終わる。鈍器か何かで打たれたような衝撃が頭を襲い地に伏せてしまう。


『(屈辱的だわ・・・
全快だったらこんなヤツ等に負けはしないのに)』
「・・・ガキを確保しろ」


バタバタ暴れて抵抗してるさっきの子。けれど大人と子供じゃあ力の差があって押さえ込まれてしまっている。

そしてここにいる人員は、目の前の司令塔らしき男と私の背に乗り押さえつけているヤツ、それに周りに銃器を突きつけている者が数人。

頭の中で術式を組み上げるも、酷い頭痛のせいでそれらが全て崩れてしまう。


「残念だったなあ、小娘
その“症状”ってのは全部あのガキから来てんだぜェ?オレ達はそれなりの対策をしてるが、部外者のオマエにはちょっとキツかったかァ?ククク」


薄々感ずいてはいたけど・・・。それに、あの子を殺さずに回収したって事は絶対何かがある。でもまずはどうやってここを切り抜けるかが先ね。


「そいつは牢にでもぶち込んどけ
実験体にしてやる」


ドスッと首に手刀を受け、そのまま意識を失った。最後に聞いたのはあの子の叫び声だった。


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