長編
□遺産と私と
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【14:遺産と私と】
夜空に昇った二つの光。神の遺産が出現したという合図だ。今回の遺産は二つ。二つが同時に出現したという事は、二つ有って力を発揮する類いのものだろう。
アルカナが続達の足止めをして皐と桃瀬が回収しに行ってる、の線が妥当かしら。でもさっきのアレを見る限り、皐は続を仕留めにかかっていたし・・・・。どちらにしろ時間を割いてはいられないから、すぐにケリはつくか。
『遺産の一つに向かおうかしら』
空を見上げ、先程出現した遺産の場所を大まかに推測する。地面に転がっている屍達を適当に蹴り飛ばし、遺産を目指して走り出した。
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「くふふ、第二の遺産。桃瀬が取っちゃうね」
十字に手を伸ばし遺産の片割れを手にしたのは皐の従者である桃瀬。床には傷ついた月宮が倒れており、今は気絶しているのか動かない。
遺産の一つが今桃瀬が手にしている鍵、そしてその鍵はもうひとつの遺産を開く為のものではないかと桃瀬は考えている。
………考えていたら、遺産が一瞬光を発した。手にしていた桃瀬ですらも気のせいか、と誤認してしまうほどに。それ以前に、この場には自分と倒れている月宮
しかいないのだからそう認識してしまうのも致し方ないのだが。
「皐、あっちの塔についたよね!」
二つ出現した遺産のもう片方を回収に向かった主のもとに手にする鍵を届けるべく、桃瀬は自らの影に沈んでいった。
誰かの足音が近づいている事に気づかずに。
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『遺産がないわね…』
急いで来たつもりだったのだけど、遺産は既に姿を消している。そして辺りには僅かに残っている神気が薄く漂っており、血を流している誰かがそこに倒れている。此処からでは分からないので、近づいて確かめる。
『……月宮?』
一瞬、何で?と首をかしげそうになるがそうする間もなく納得したので静かに辺りに目を配る。続に遣われてるって訳ね。そして誰かと遺産を取り合った末に負けた、と言うことかしら。
『…月宮が此処に倒れてるって事は、こっち側の誰かが回収して行ったのね。…来た意味なかったわ』
今更もう片方に行っても遅いだろうし引き上げた方がいいのかしら。それとも相手の手駒をひとつ潰しておいた方がいいのかしら。
足元の月宮に目を向け、思考
を巡らせる。
折角混血の呪いが解けたと言うのに、何をやっているのやら。確かに神の遺産を沢山集めておけば聖戦を有利に進めることが出来る。けれど、必ずリスクがついて回る。私だったら進んで近づこうとは思わないわ。近くで見物している方が面白いし、なにより安全だし。
ふと空に目を向けると、月がかけ始めていた。二つの遺産の回収が終わったようだ。再び月宮に視線を落とし、一つため息を吐く。
『……今回は助けてあげる』
と言っても、止血程度の応急処置だけれども。最後に自分の上着を被せ手当終了。
何故手当てをしたのかは分からない。頭の中で声がしたのだ。そしてだんだんと意識が遠退いていく。誰だ、私の中にいる私じゃない誰かは。抗い続けたが、虚しくも意識は暗転した。
「―――嗚呼、まだこの局面なのか」
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