<短編−弐−>

□時には昔の話を
1ページ/2ページ



陽射しが少しずつ穏やかなものになり、深緑色が山奥から裾野に向かって梔子色、紅色へと色付き始めた今日この頃。如何にも、この季節は外でも過ごしやすい。風も暖かいものへと変わって、良人の髪が、銀色から時折鴇色に色を変えて、彼の頬をさらりさらりと撫でた。

「ねえ。あの子たち、泣いてないかしら」

ちょっとだけ、子どもたちの事が気になりはじめた。あたしの言葉に、彼が気にすんな、と手を横に降る。

「あ〜?あいつらなら大丈夫だろ、楓とりんが見てくれているし。それに、人懐っこいのが売りなんだ。そんな簡単にピーピー泣いたりしねえよ」
「『売り』って……。あのね、人懐っこい点は、あの子たちの良いところだと思うんだけど」
「そんなの、別にどうでもいいじゃねえか。今は…ゆっくりしようぜ」
「もう…しようのない人ね」

あたしの膝に懸かる銀色の髪を撫で、梳きながら父親の顔から、瞬く間に少年のような幼さをちらつかせる彼に苦笑して、あの頃によく見たと、懐かしさに愛しく思った。

「旅を始めた頃は、犬夜叉と一緒になるなんて思いもしなかったわ」

その言葉に、犬夜叉が、くくっと悪戯っ子のように笑った。

「同感だな。俺もあの頃は、考えもしなかった」
「こんな風に、犬夜叉が笑うことも余りなかったし………あんた、いつも仏頂面だった」
「…それは生まれつきだ」
「そう言ってごまかさないの。あ、そうそう。出会ったばかりの頃の犬夜叉って意地悪だったわ。封印を解くなり、爪をふるってきたし」

不満ありげに、ジトと目を細めて視線を落とすと、急に彼が居心地が悪そうに身じろいだ。

「む、昔のことだろっ?!それにあの時は、誰も信じなかったんでいっ!!」




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ