<短編−弐−>

□Check mate
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現代に戻ってきて二人とも、暇を持て余していたこともあって退屈凌ぎに犬夜叉にチェスを教えると、思いの外、すんなりと彼はこのボードゲームを理解してしまった。生まれもっての性なのか、或いは日頃から最前線に立ってるせいか、戦術にはそれなりに長けていて、けれど本人はそれを自覚していない。ここまで来て、あたしと犬夜叉の勝敗は五分五分のお互いに引かない形でおさまっていた。

犬夜叉の骨張った長い指が、白のナイトを掴み、ゆっくりと斜めに動かす。ナイトが動いた先の、黒のビショップは呆気なく盤の上から消された。まぁ、いいわ。ビショップを兼ね備えたクイーンがまだ生きているから大丈夫。それに、白の駒は大分無くなっていて、守りが手薄なのに対し、黒は順調に白のキングをジリジリと追い詰めている。キングより少し離れた斜め前を守る白のポーンさえ落としてしまえば、斜めに何歩でも進むことの出来るルークで、キングを「チェック」出来る。けれども、形勢は、言わずもがな。端から見ても黒の駒を持つあたしにあるのに、さっきから、犬夜叉のあの不遜な余裕の笑みが気になってしかたない。
それ程までに、『罰ゲーム』で良からぬことを企ているのかしら。まだ、勝敗がついているわけでもないのに。それとも”まだ”何かあるかしら。
次に、あたしは空いてしまっているキングの前の穴埋めをするためにクイーンをそこに動かす。クイーンは縦・横・斜めの全てに動く最強の駒だから、どこから攻められても逆にこちらが取ることが出来る。黒のキングの周りにある犬夜叉の駒はひとマスずつ間隔を空けて、クイーン、ルーク、ナイトの三つ。これらよりも、あたしの黒のキングの近くにポーンがあるけど、チェックされてしまう範囲にはない。それにポーンは一歩ずつしか進められないから、キングを取られる前に盤上から弾くことができる。犬夜叉の出方次第にもよるけれど、多分彼はクイーンを弾きたいはずだ。ならば次は厄介なナイト或いはルークをもらうことができるかもしれない。
犬夜叉の番になって、彼の手が伸びた先には、白のナイト。近くには黒のクイーン。やはり……と思った。あたしの番になって、すかさずクイーンで盤上から弾き邪魔者を消していく。

「今回の勝利は、あたしがいただくわよ」

ナイトをつまみ上げながら、眼下で真剣な眼差しでチェス盤を見つめる犬夜叉にそう言って、ふふっと笑ってみせた。
初心者とは言え、チェスを今の今まで見たことも無ければやったこともない犬夜叉に、勝負を五分まで持って行かれてしまったことには、正直腹立たしい。
すると、彼がククッと笑った。

「それは、どうだかな……」

犬夜叉は、余裕のある声音で言うと、ルークでクイーンの隣にあったビショップを盤上から消した。ビショップは縦に何歩でも進めるから早めに消したのね。



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