<短編−弐−>

□巡りゆくときの中で
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また、ひとつ。無言を貫いたまま、季節が過ぎ去って行く。

秋から冬に向かう時節。山は、梔子色と緋色が我先にと先を競うように二つの色彩を醸し出していたのに、秋が深まり冬が近づくにつれ、燃えるように目にも鮮やかな紅に染まる。対して秋の空は、寒々しさを表すかのように青さが滲み出し、秋の寂しさを助長させる。


あの時。まだ、奈落を冥界に葬らんと、旅をしていた頃だった。かごめと一緒に紅葉を見に来た。
秋霖が降るなか、この季節にはやはり寒々しくみえるかごめの恰好に、呆れながらも火鼠の衣を被らせると、仄かに頬を染める姿が愛おしくて、思わず抱きしめたことを覚えている。


−−……来年の紅葉も、また一緒に見に行こうね…−−


そんな、かごめの小さな囁きでさえも。

だけど、突如として、考える間も、嘆く間も、慟哭に身を置く暇もさえ無くかごめと引き離され、もう。かごめには会えなくなった。あっという間に、俺はまた、『ひとり』に戻っていた。
それからというもの、かごめのことを考えなかった日は一度たりともなかった。彼女に会えない寂しさに堪え、傍に居ないことに心密かに泣いた。それでも、かごめのことを忘れようとした日もあったがそうすればするほどに、かごめの笑顔が脳裡に浮かんで染み付いて、その残像を振り払えずいた。

記憶の中で、俺とかごめはいつも一緒だった。
それは……俺が、そう願ったからか?





つと気が付くと、いつの間にか、雨は止み、隣で一緒に紅葉を見ていたかごめが、ひとつ嚔(くしゃみ)をした。


「かごめ、寒いのか?」
「ううん、大丈夫。犬夜叉がこれをかしてくれたから」


パタパタと、火鼠の衣の袖を振りながら、かごめが応える。


「ちゃんと羽織っておけよ、風邪なんて引かれたら困るんだからな」


小さく華奢なかごめには大きいぐらいの火鼠の衣の衿を掴み、しっかりと着込ませる。
三年ぶりに、あの時の紅葉をまた見に来たんだ。生憎、小雨がパラパラと降っていたが、かごめにまた、喜んで欲しかった。

三年間の別離を経て、再び再開した俺達。もう、生まれ育ったあの国には戻れないかごめに、俺は『嫁に来い』と、言った。『ともに、生きよう』という願いも込めて。


「犬夜叉!!」
「ん?」


見ると、かごめが泣いているような、けれど、その中の笑顔に不覚にもドキリと心の臓が高鳴った。


「ありがとう。約束、覚えていてくれて」


かごめが、つと背伸びをする。それが意味するものは、既に心得ていた。掠めるようにかごめの唇に俺のそれを重ねて、最後に頬を寄せてまた重ねた。



あの時、お前は少し泣いていたのか…?

今になって、もうその答えを聞けることはない。




Fin


後書き

シリアス→甘い→? な展開になっていましたがどうだったでしょうか?
ネタ元は、JUJUがカバーした曲の『Hello again〜昔からある場所〜』です♪
この歌詞の展開が、出会いから別離、邂逅、そして……と、犬夜叉とかごめの過去と未来の一部分を描いているように感じたため執筆してみました☆
『?』の部分は敢えて書きませんでしたが、まさかの『●にネタなシリアス話』と決まったわけではないですよ…(^-^;
解釈の人の分だけあると思いますから。


では。ここまでお読みくださり、ありがとうございました♪



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