<短編−弐−>

□こんな時がとても愛おしくて
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こんなにも、『穏やか』という言葉が、最も当て嵌まるかもななんて思うようになったのはここ数年くらいからだ。
常に闘いに身を置いていたあの頃には、凡そ縁遠かった言葉だろうな。


楓の家で、遠方でかなりな城持の城主の名代として来た妖怪退治の依頼話を一刻(約二時間)程聞いた後、弥勒といつ出立するかを話してから楓の家を出た。
また、面倒な仕事になりそうだと思いながら、家路につく。肌寒さが身に沁みるぐらいに秋が深まっても、昼下がりには調度いいくらいの暖かさになる。少しばかりの心地よさを感じながら、薦に手をやりめくり上げる。いつもならば、俺の帰宅を笑顔で出迎えてくれるはずのかごめが現れなくて、訝しく思って囲炉裏端を見遣ると、彼女が横たわっていた。傍によってみると、規則正しい寝息に、胸が上下していた。俺は一人ごちた。


「なんだ。寝ちまったのか?」


褥も何も敷いていない床板に、そのまま横になって眠るかごめの手は、同じく隣で二人で眠っている双子の赤子の腹の上に乗せてあった。
こいつらの昼寝に、横になってあやしているうちにそのまま眠ってしまったらしく、そして、深く眠っているのか、少し揺すっても起きねえ。よくよく見れば目の下にうっすらとクマが見え少々窶れて見えた。

よほど、疲れてるということか…。

何も羽織っていないかごめに掛布をかけてやってから、息子たちを挟んで対面に腰を下ろした時、つと、さくが起きた。


「なんだ、さく。起きたのか?」


そう言いながら、さくを抱き上げた。赤子特有の高い体温と甘い匂いを感じながら、あやす。息子を抱き上げたた当初は、おっかなびっくりで怪しかった手つきも、今となっては、板についてきたなと、我ながら思う。


「まだ、寝とけよ。かごめも当分は起きねえだろうからな」


さくの背を軽く叩くと、すうっと目が閉じて、また小さな寝息が聞こえ始めた。俺は、そのままさくを褥には戻さず、抱いたままこの静けさを感じた。静かな中に穏やかなものが流れ漂う。

こんなにも穏やかな時がくるなんてな……。

俺には、そう思えてならない。
奈落を追いつづけたあの頃には、決して考えられなかった。俺はそれを与えてくれたかごめに感謝しねえとなと思いつつ、これまた仲良く眠る妻と息子たちに愛おしさを覚えながら、俺は、静かに時が過ぎ去っていくのを見送った。



Fin


後書き

久々の仄々でした〜♪
かごめちゃんと、双子くんたちがスヤスヤとお昼寝をしている姿を見て和むというシチュエーション。当初は「俺の周りも、すっかり穏やかになったもんだ」ということを言わせたいな〜と思ったことが発端だったのですが、少し横道に逸れましたね…f^_^;


ここまでお読みくださり、ありがとうございました♪


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