<短編−弐−>

□偉大なる
1ページ/2ページ


いつだったか、冥加じいじから聞いたことがあった。おれたちのお祖父さまは、西国一帯を支配下に置いた大妖怪だった、と。並み居る強敵を払い、大陸からの侵略者を打ち滅ぼして国を守った。そして、人望厚く、ひととなりは闊達で温厚な人であったらしい。
そして、じいじは話の最後には必ずこう言った。

『はぁ…。御館さまは、とてつもなく偉大な御方だった』と…。

だが、おれたちには、お祖父さまがどんな御方であったかなんて、想像するしかない。父上が生まれたときに、亡くなったと聞いた。父上とその母上−−おれたちにとっては、お祖母さまになるが…−−を助けるために。話を聞いたおれたちは、そのあとでまるで英雄伝説を聞いたかのようになかなか興奮が冷めず、母上に早く寝なさいと怒られるまで、さくとふたり、お祖父さまの話をした。

あの頃に、まだ幼かったおれたちが想像したお祖父さまは、今思えば、全て父上の姿から連想し、想像していたような気がする。牙を模した身の丈近くもある鉄砕牙を軽々と肩に担ぎ、大技を繰り出しては一瞬にして妖怪たちを薙ぎ払っていく。父上は大妖怪であったお祖父さまとは違い、半分人間の半妖だが、妖力は並の妖怪では比肩しない。人望もあったほうではないかと思う。性格は一言で言えば、短気……だが、それでも、いつも、優しかった。
そうだ…。『お祖父さまはきっと、父上のような……』ふたりで話したときは必ずこの言葉が出た。おれたちの基準は全て、父上−−犬夜叉−−だった。目指したのは父上の背中。この心に誓ったのは、いつか必ず父上を越えてみせるということ。
父上の背中は大きい。やり甲斐がある。
おれは、叫んだ。

「父上。おれ、必ず父上を越えて、あっと言わせてみせるからな」


おれと同じ白銀の長髪を風に靡かせながら、目の前に立つ男。


「……上等だ。その時が来るまで楽しみに待ってるぞ」


腕を組み、犬妖の牙をちらつかせながら不敵に笑うその男こそ…。


おれが、生涯目指してゆく、偉大な父親−−犬夜叉−−だ。




Fin


.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ