<短編−弐−>
□泣きたいときは泣け
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悔しくて情けなくて、それを出来なかった自分に辟易する。
失敗したのはこれで何度目かしら…。
楓ばあちゃんや珊瑚ちゃん、村の人たちは、気にするなとか次頑張ればいいと言ってくれる。でも、同じことを何度も失敗しているあたしって……。
失敗した言い訳ならば、幾つでも並べることが出来るわ。仕方ないじゃない、まだ慣れていないんだもん、とか、覚えることが有りすぎるのだもの……とか。
わかってるわ。そんなことは、いつの時代でも許されない。言い訳したって、自分の立場が優位になるなんて殆どないことも。
奥歯を噛み締めて、涙を堪えて…。泣いているひまはない。次こそは、上手くやらなければならない。
俯けた顔をあげて涙を拭うと目の前には、今一番会いたくて、最も会いたくない夫(ひと)
「…今は…慰めないでね。多分今、犬夜叉に慰められたらあたし、絶対に甘えちゃうから」
キッと上を向いて、あたしより頭ひとつ分大きい彼を見詰める。犬夜叉は懐手にしていた腕を解くとクルリと後ろを向いた。
「慰めたりはしねえよ。だが、……泣きたいときは、思う存分泣いとけ。後で後悔するぞ」
一瞬ポカンとした。
今、言ったのに。『慰めないで』って。
ヤバ…もう心の中がぐちゃぐちゃ……。
急激に目の奥が熱くなる。気がついたら、犬夜叉の背中に顔を押し付けて泣いていた。
「…っ…ふっ、くっ…」
暫くの間、泣いて泣き続けて、少し落ち着きを取り戻した頃に、犬夜叉はあたしの頭にポンと手を置いただけで何もしなかった。そして、あたしが泣いている間、犬夜叉は一度として振り向かなかった。彼のその心遣いが、今のあたしには凄く嬉しかった。
「…犬夜叉」
「ん?」
帰りは犬夜叉に手を引かれて家まで帰った。
「…あたし、諦めないわ。頑張るから」
「………」
犬夜叉は何も言わなかった。代わりに、繋いでいた手を更に強く握りしめられた。
犬夜叉の手が、とても、あたたかった。
Fin
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