<短編−弐−>

□奇跡の子
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「眠ったか?」
「うん。たった今ね」


パチッと薪が爆(は)ぜる囲炉裏の側で、仲良く兄弟ふたりで眠る幼子の胸から、かごめがそっと、あやしていた手を離した。俺は規則正しい寝息とあどけない寝顔を眺めつつ、息子たちの頬を撫でた。桜色に色付くそれは、柔らかな弾力と瑞瑞しさを持っていて幼さを強調する。こいつらが生まれてニ年。もう二年、或いは、まだ二年。どちらで言い表すべきかはわからねぇが、その月日の中でこいつらはどんどんデカくなっていく。成長とはこんなにも目まぐるしいものなのかと心底驚いた。生まれた当初は、双子ということから一人児よりも身体はずっと小さく、ひどく軽かったなという記憶がある。それが今では、そこらの同じ歳頃のガキと、さほど変わらねえ。
父親になると、日々様々な事で驚かされる。いや、それ以前に俺が父親になったということ自体が驚きだ。ひとり、その思いに耽っていた時、かごめが躄(いざり)よって来て、俺の肩に頭を擡(もた)げた。


「ねえ、犬夜叉」
「ん?」
「あたしね、この子たちを見ていると、色々と思うことがあるの」
「…どんな?」


唐突に、かごめが思うことがあると言う。妻の頬にそえていた俺の手に、二まわりほど小さなそれが重なった。


「この子たちが生まれたのは、本当に奇跡的なことなんだなぁって思うの」
「奇跡?」


俺はかごめを見、次いでちはやとさくに目を向け見詰めた。


「うん。赤ちゃんがね、その子が生まれるということは、何億のひとつという途方もない確率の中から生まれてくるんだって。それだけでも凄いことなのに、この子たちは……犬夜叉とあたしの間に生まれてきてくれた。お互いに掛け離れた時代を生きて出逢ったあたしたちの間に。本来ならば、決して考えられない、有り得ないようなことよ。だからね、この子たちの存在は、あたしたちの存在を証明する証とも言えるんじゃないかなって。」
「………」


感慨深げに話すかごめ目は、何らかの美しいものを見ているかのように眩しげに細められては、嬉しそうに笑う。ちはやとさくを見詰める横顔はあまりにも優しい。かごめの言葉に大して何も言いはしなかったが、確かにそうだと思う。
かごめと出会い、旅をしていた頃は夢にも思わなんだ。生きる時代が異なるはずのかごめを妻に迎えることも。そして、この俺が、あどけない寝顔を見せるこいつらの父親になることも。半妖の身である俺が父親に……?という思いもあったが、かごめが在るべき國に戻されたからには、『父親』というものは俺の中で、消え去った。だのに、気がつけけば、弥勒や珊瑚を見て、羨望を覚えていた。
ひとつでも“かけ間違えれば"何一つ、この手にすることは、出来無かった。かごめの存在があってこその俺であり、きっとかごめも同じことが言えるだろう。ガキどもはある意味で、特別な存在とも言えた。二つの時代と二つの種族の血を持つということは、正(まさ)しく奇跡なことなんだろうな。


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