<短編−弐−>

□それも愛ゆえに
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「かごめ……身体を冷やしちまうから、早く中に入れ」
「はいはい、わかったわよ」


碧と乳色が混ざり合う空の下、すべての洗濯物を干し終えて、冬の冷たい風に霹(はため)くそれを避けながら、彼の後に着いていく。
洗濯物を入れていた大盥は、あたしが取る前に、犬夜叉が持っていってしまった。
夫に続いて家に入る。火を絶やさないでいてくれていたのかしら、囲炉裏の火は埋火にならずにユラユラと踊るようにゆらめいていた。彼はその火の前にドカッと座った。

さぁ、次は繕い物をしようかなとあたしは引き戸の棚から、針箱と縫いかけの小さな白い衣を取り出そうとした時、スッと大きな手が横から伸びて、針箱と衣を先に取った。


「だから……重てぇもんは持つなって、いつも言ってるだろうが。お前、ちゃんと人の話を聞いてんのか?」


眉間に深く皺を寄せる夫。彼に針箱と衣を取られたまま、あたしは腕を取られて囲炉裏の前に座らせられた。そして、眉根を寄せて口許を引き結んだままの仏頂面で睨まれる。また、夫の説教が始まるのかと、あたしはうんざりして肩を落とした。


「かごめ」
「ごめんなさい…」
「……まだ、何も言ってねぇだろうが」
「…毎日言われてるし」
「ならば、人の話を聞け」
「…でも、犬夜叉は過保護すぎよ?妊娠してるからって、あれはダメ。これはダメ。それはするな、じっとしてろ、だなんて窮屈すぎるわよ」


膝の上に置いていた手をギュッと握って犬夜叉を見る。彼は何も言わない。

犬夜叉の子どもを身篭った………そのことを伝えた時、夫なりの表現ではあるが、それはそれは凄く喜んでくれた。あたしも、犬夜叉の赤ちゃんを授かったことは嬉しかったんだけど、それからが大変だった。元々、心配性で過保護な面のある彼だけど、あたしが妊娠したと分かった途端、更にそれに拍車が掛かってしまった。
心配してくれるのは嬉しいんだけど、妊娠して、もう六月(むつき)に入っている。そろそろ安定期に入る頃合いなのに、流石に行動を制限されてばかりだと、ストレスが溜まってくるというもの。

犬夜叉が懐手にしていた手を解いて、一度立ち上がるとあたしの隣に腰を下ろした。スッと腰に腕を回されてやんわりと引き寄せられる。


「…心配で仕方ねえんだよ……」
「だから、犬夜叉は心配しすぎよ」


やだわ、と犬夜叉の頬を摘んでクイっと軽く引っ張る。これでいつもの短気な彼に戻るかなと思ったら、意外にも犬夜叉の表情は真剣そのもの。あたしは気まずくなって頬から手を離した。彼の顔が少し曇る。


「…かごめに何かあったら、と思うと無意識に行動に出ちまうんだよ。もう、お前を失いたくねぇ。それに…」
「…?」

そう言って、犬夜叉はあたしのお腹にそっと手をそえた。
もう険しい顔つきじゃなくて、優しくとろけるような甘い笑顔になっている。


「おれも楽しみにしてんだぞ。ガキが生まれるのを」
「じゃあ、犬夜叉の心配性で過保護なところは、あたしと赤ちゃんへの愛ってことで解釈しちゃうけど、いい?」
「お前な…そんな恥ずかしい台詞をサラッと言うな」


夫が頬を紅くさせて、言う。

肩を引き寄せられて、あたしはその広くて逞しい胸に頬を擦り寄せた。守られるように抱きしめられる。

とても愛されてるよね…あたしって。

過保護すぎるというのも、一種の愛のカタチなのかも。


それにしても……。


犬夜叉のお説教を聞かずにすんで良かったわ。彼には、申し訳ないけどね。



Fin



後書き

お粗末さまにございましたm(__)m
単に、心配性かつ過保護な犬夜叉を出したかっただけのしょぉーせつでして……犬夜叉って、アニメでも原作でも、過保護な面があるなぁ……と思いつつ、つらつらと綴っていました。

ザ 愛の為に生きる男、犬夜叉←意味不明


しっかし、スランプ真っ只中で書くと、余計酷い文章になるなぁ…(≧ω≦)


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