<短編−弐−>

□幸せ日和
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夏になれば現代では、毎日のように騒がれる地球温暖化も、この戦国時代には全く関係ナシ。おまけにヒートアイランド現象なんてものも存在しないから、木陰に入ってしまえば、冷たく、涼しい風が通り抜けて、額に滲み出た汗も直ぐに引いてしまう。昔の日本は、夏場だと云うのにこうして自然の涼を楽しめる。だのに、現代日本は便利道具を手にした変わりに、自然に身を任せ感じる、四季それぞれの楽しみ方を忘れてしまった……ようにも、思える。
この小高い丘から見下ろす村は美しい。夏の太陽に煌めく水田と、風に靡く白栲の衣。春に育んだ生命を更に強く見せる深緑の森。徐に、後ろ向きに身体を倒し左手に体重を預けて、右手をお腹に手を添えた。完全にリラックスモードだ。そして、とても幸せ。



「はぁ…。」

「かごめ、どうした?気分でも悪くなったか?家に帰るか?」



あたしの隣に腰掛け、同じように涼を取っていた夫が、あたしの溜息に反応し、焦りはじめた。美しい景色に感動し、幸せを噛み締めて、ついつい出てしまった溜息を気分不良と捉えられてしまったようだ。


「違うわ。ごめんね、勘違いさせて。ここから見える景色が綺麗だったから思わず…ね。」



「そうか…。なら、いいんだ。けどな、本当に悪くなった時はちゃんと言えよ。」

「うん、ありがとう。犬夜叉。」



犬夜叉の顔に笑みが戻ってきた。腰をさらわれ、肩を抱き寄せられる。その所作の全てが、ひどく優しい。

ああ、なんて幸せなのかしら。



「幸せ…。」

「ん?」

「すごく幸せなの。こうして犬夜叉と一緒に居られて………。それに、犬夜叉との赤ちゃんを授かることが出来て。」



そう、幸せ。いいえ、最早、幸せ過ぎるわ。ただでさえ、犬夜叉と一緒に居ることは、四魂の玉がない今は難しいはず。だのに、井戸は私に語りかけた。後に、彼に求婚され夫婦となり、同じ時間を共有するだけでなく、愛しい犬夜叉(ひと)の子をこの身に身篭った。女として最大の喜びだわ。悪阻も体調の変化も苦しいけれど、それも、彼の命とあたしの命を合わせ持つ愛し子を宿しているという証。その事実が、妊娠している今を幸せだと感じ、今後必ず来る産の苦しみにも、堪えられるように思わせる。そう、何かもが愛おしい。



「…かごめ……。」



肩をトントンと軽く叩かれ、こちらを向けと言われた。犬夜叉の方に顔を向ければ、頬に口づけを寄せられて、次に巧妙に唇を食まれる。苦しくならない程度の甘い口づけ。上唇をパクリと食まれ、下唇をキュッと舐められる。きちんと呼吸がしやすいようにと、優しい犬夜叉の配慮が、あたしの心を温かくする。

自然、涙が溢れた。



「かごめっ?!そ、そんなに苦しかったのか?大丈夫か?!!」



またもや、勘違いした彼が慌てふためく。嗚呼、なんて優しい人なのかしら。



「違うわ。犬夜叉ったら慌てすぎよ。涙が出ちゃうくらいに…幸せなの。」



彼がハッとしたようにあたしを見詰める。そして、次には、光を湛えた黄金色の瞳を細めた破顔。止まらない涙を、彼の長い指が掬い、拭う。犬夜叉の逞しい胸に頬を寄せれば、肩を軽く抱きしめられた。



「かごめ、一度しか言わないから、よく聞いておけよ。」



耳朶を撫でられ、サラサラという衣ずれの音とともに、彼の髪が頬に触れた。
耳元で、本当に小さく囁かれる。



「…−−−−……。」

「うん…あたしも…。」



夏の陽射しが、キラキラとした木漏れ日に変わる。
また、涙が溢れた。



Fin


また似たような小説を書いちゃったよ(笑)まあ、幸せ犬かごが書けたからいいや(いいんかい;)
先日、国試対策講義で、助産の先生が「妊娠していた時が本当に幸せでした。愛しい人の子どもを身篭ったんだからね〜。」と、笑顔で語ってくれたことが、とても印象的だったため、犬かご夫婦に当て嵌めて、プロット無しで携帯に打ち込みました(笑)
母性は難しいけれど、でも楽しいO(≧∇≦)o だって、行き着く先が犬かごだから←

犬夜叉の「…−−−……。」に何が入るかは、皆さんの想像にお任せします(*^_^*)




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