<短編−弐−>

□時には昔の話を
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そんなことをムキになって言ってどうすんのよ。
ムキになってあたしを見上げる彼が可笑しくて可愛くて、仕方ない。こんな姿を見ていると彼は本当に変わったなと、しみじみと感じる。あの頃の犬夜叉は本当に誰も信じようとしなかったし、彼もそれを豪語していた。そして彼と接するうちに、彼が幼い頃より受けた仕打ちと言い、何度も裏切られた彼の心はボロボロになっていったのかもしれないと感じはじめた。でも、誰かを信じなくても、信じる心を彼は見失っていなかった。少しずつ、打ち解けるうちに全幅の信頼をよせてくれるようになった彼。あたしもずっと犬夜叉を信じつづけたからこそ、ひとり闇に放り出されて、心がくじけそうになった時も正しい答えを見出だすことが出来た。それに、長きに渡る離別の時があったとしても、こうして犬夜叉と一緒にいられる。それが、何よりも嬉しい。
あたしの膝を枕に、寝転がっていた彼があたしの手をとって自分の頬に添えた。その所作がとても優雅に見えて、彼が元々から持ちたるものなのか、貴人というか紳士的なものが見えた。思わずドキリとして、頬が急激に熱くなるのを感じる。

「本当に前の事だ。今じゃあ、誰よりもかごめを信じてる。お前は俺に色々と教えてくれたしな」
「…犬夜叉」

犬夜叉の言葉がとてつもなく嬉しくて、赤くなりはじめているだろう目を隠したくて、彼の額にあたしの額を重ねた。

「泣いているのか?」
「…誰のせいだと思ってるのよ」

顔を上げると、次いで犬夜叉も身体を起こした。その彼に手首を取られて、心の準備も何もしていなかったあたしは易々と犬夜叉の広い胸に倒れ込んだ。

「あれからもう、だいぶ経つのね」
「…あぁ」

急に閉じて無言を貫いていた井戸はいきなりの別れから3年後に、同じく急に風とともにその入り口を開いた。それからの後は犬夜叉と一緒に歩みながら、その中で、欲して止まなかった彼との子どもにも恵まれて、仲間や村の人に支えられながら日々を過ごす。毎日が新鮮で新しいものが姿を見せる。でも…。

「でも、こうしてたまに昔の話をするのもいいね」
「苦楽様々にあったけどな」

犬夜叉が優しく髪をくしけずってくれる。それがとても心地好くて、少しだけ肩を竦めた。こんな風に、夫婦から恋人に時節に戻る時もいいなと思う。

時に昔のことを語り合いながら、笑いあうことも。



Fin
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