虹入り水晶
□第二部
2ページ/11ページ
〜1話〜
泣くなよしよし ねんねしな
山の鴉(からす)が啼いたとて
泣いちゃいけない ねんねんしな
泣けば鴉が またさわぐ
夜、人が眠りにつく頃に焚火の薪を枝でつつきながらホワイトは歌を口ずさむ。
坊や男児(おとこ)だ ねんねしな
親がないとて 泣くものか
お月さまさ…
「起きてるのかイエロー?」
薪をつつく手を止めて後ろに立てられたテントに向かって聞く。
「えっと…ばれちゃいましたか?」
「聞き耳立てるならもっとうまくやるんだな。おれももう寝るからお前も早く寝ろよ」
「あ、もう…歌わないんですか?」
「おれが歌ってたから起きたんだろ?なら歌わねぇよ」
持っていた枝を焚火に放り投げ髪をまとめていたゴムを乱暴に外す。
粗雑な扱いを受けているのにグレイの髪は焚火の火と月明かりを受けて艶やかな光沢を浮かべる。
「(黒ってきれいなんだな…)」
濁りのない黒は純粋に綺麗だとイエローは魅入る。もとより黒がこれほどまでに魅力的に思えたことは今までなかった。
いそいそと寝袋に潜り込むグレイは寝る気満々だ。
「グレイさん。さっきの歌って子守唄ですか?」
「歌の内容からしてそうだろうな」
「……優しい歌でした」
「 “親がないとて なくものか” …優しいか?」
「え、う〜ん歌の解釈はよく分かりませんけど…聞きなれない歌でしたね」
「母さんが昔よく歌ってた歌なんだ。毎日聞いてるうちに覚えちまって…覚えたら覚えたで一緒に歌おうとか、逆に寝れなかったな」
寝袋に入り星空を見ながら笑って語るグレイのたおやかな声。
「…グレイさんのお母さんは優しい人なんですね。だから聞いて覚えたグレイさんの歌も優しい子守唄になったんですね」
「なっ!?…お前さあ、恥ずかしくないか?」
「恥ずかしい?」
「優しいだのなんだのって…言ってて恥ずかしくないか?」
星空が良く見える場所を寝床にしたのをこの瞬間グレイは後悔した。イエローの言葉に恥ずかしい思いをしたのはグレイの方だ。
「特には…だってグレイさんは優しいと思いますよ」
「……もういいや。寝る」
「え、グレイさん?」
「寝る!」
「あ、はい…」
それじゃあぼくも寝ますと言ってテントの中に戻ったイエロー。頬に感じる熱が残る中グレイはふと疑問を感じたがイエローの“恥ずかしい”言葉を思い出してしまい頭がごちゃごちゃになった。