虹入り水晶

□第二部
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日が昇り以外にもちゃんと起きたイエローはグレイとともに朝食をとりタマムシに向けて足を進める。

しかし二人の間には会話らしい会話はなかった。
もちろん会話を試みるがどうあっても話がレッドとホワイトの二人に繋がる。この二人がイエローとグレイの共通点であるからして特に不思議なことではないが問題はイエローにあった。

「おれはもうお前のことを詮索するつもりはねーよ。お前が二人の…オレ達の味方でいるならそれ以上のことは気にしないことにした」
「はい…すみません」

これが二人の間で私的に交わした最後の言葉だ。



「そろそろ昼時だな…イエロー、準備するぞ」
「あ、はい。ならボク木の枝を拾ってきますね」

幸いすぐそばに川があり水には困らない。
朝は水分が足りなかったので昼はスープでもいいかもしれない…などとそんなことを考えているようには見えない綺麗な顔で折りたたみの器具を取りだす。

そういえば…イエローと一緒に行動してからというもの何故か自分が調理担当の位置に居る。毎度流れでそうなっているだけで不満があるわけではないが今度イエローにも作せてみよう。

「グレイさん薪持ってきました!あとおいしそうな木の実が実ってたのでとってきたんですけど…」
「ああ、ありがとう」

昼食は木の実を使ったさわやかなスープに決定した。



「グレイさん!あれって…」
「あれ?…なんかいるな」

スープを飲んでいるとイエローは幅のある川を指差す。
目を向けると川の水がバシャバシャとはねてる。まるでコイキングが水で跳ねるように。

「ポケモンがおぼれてる…助けなきゃ!」

言う前にすでに動き釣竿を持って川岸に走り持った釣竿をおぼれているポケモンに向けて振る。

「よし!」

手ごたえがあったらしくイエローは糸を巻いておぼれているポケモンを引き寄せる。おぼれていたポケモンは…

「イーブイか」
「イーブイって言うんですかこのポケモン?」

イーブイだった。

けほけほと可愛らしい咳で飲んだ水を吐き、体を震わせて豊かな毛に張り付く水分を飛ばす。
咄嗟にグレイとイエローは腕で顔を覆う。

そこでようやくイーブイはグレイとイエローに目を合わせる。するとかわいい顔を輝かせてイーブイはグレイに駆け寄りブイブイ鳴く。ついこの間にもこんなことがあったような光景だ。

「お前…あの時のイーブイか」
「ブイっ!」

覚えてもらえたことが嬉しいのか元気に鳴く。

「グレイさんの知り合いですか?」
「いや、そう言う訳じゃないが…」
「ブイブイっ、ブイ〜!」
「…ちょっとごめんね」

訴えかけてくるイーブイにイエローは掌をイーブイにかざして目を瞑る。
かすかにイエローから光が発せられたように見えた。

「!……」

「そっか…グレイさん。このイーブイはグレイさんの力になりたいそうです」
「…イーブイ、それなら前にも言ったよな。おれは“今の手持ちで十分”だって…なのにこんなとこまで追いかけてきて…」
「グレイさん?」
「見たところお前まだ子供だろう?もう一度言う。足手まといだ。帰れ」
「何言うんですかグレイさん!」

イエローはグレイの言葉にただ驚く。

「この子はグレイさんを追いかけてここまで来たのに…」
「おれは一度ちゃんと言ったんだ。それでもここまで来たのはこいつの勝手だろ?」
「この子は本当にグレイさんを慕ってるんですよ。ボクには分かります…だって、」
「おれはお前と違うんだよ!」

怒りとは違う、苛立ちが強く出た声でイエローの言葉を止める。

「おれにはお前みたいに不思議な力があるわけでもねえ、だからこいつが何でおれに付いてくるのか理由が分からねえ!」

灰色の瞳がきつくイエローに向けられる。次いでその目をイーブイに向ける。

「おれはお前を連れてかない。何度でも言う……おれはお前の期待するようなトレーナーじゃないんだよ」

ぎゅっとグローブにおおわれた左手を握り放った言葉の語尾には別の感情が宿っていた。


しばらく沈黙がさまよっているとイーブイはとことこと草むらに走りどこかへ行ってしまった。


「……グレイさん。なんであんなこと言ったんですか?」
「何度も言っただろ。おれには今のメンバーで十分なんだよ。ルーガとヴェルが居れば今はいい」
「ルーガとヴェルは確かに強いと思います…でも、グレイさんもポケモンが好きなんでしょ?」

イエローはあくまで強く責めなかった。
イエローの性格を考えればもっと言うところではあるがイエローは感じた。
グレイの中の浅黒い、よどみを。


その後互いに言葉を交わさず夜になり野宿をする。
タマムシシティはすぐそばだ。



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義弟は複雑怪奇。
前半いい雰囲気かと思いきや後半のどんでん返し。
いかん、二章は1話でも何が起こるか分からなくて怖い。
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