虹入り水晶
□虹の空、銀の海 第一部
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〜プロローグのプロローグ〜
「おとうさんっ…おとうさーん!!」
荒れる風と激しい雨の音に紛れて、小さな子供がかん高い声で泣き叫ぶ。
「ホワイト!」
ずぶ濡れになりながらも、子供のホワイトに走りよる男が懸命に声を出す。
だが子供の頼りとするその声も一羽の鳥の、神々しいまでに高らかな鳴き声にかき消される。
「シュオオォーー!!」
厚い雲で薄暗いその場を太陽の様に照らす大鳥は赤と金の煌びやかな羽に包まれている。
ひとたび羽をはばたかせればまるで虹の粉をふりまくような美しさだ。
その神々しいまでの大鳥が自身の娘をその足に掴んでいなければ、男もその神々しさに見惚れていただろう。
「くっ…いけっスピアー!」
「スピッ!!」
大鳥は荒れる海の向こう側へ飛んで行こうとする。
それを逃すまいと男がモンスターボールから出したスピアーは嵐の暴風に乗りながらホワイトに――いや、ホワイトを連れ去ろうと飛び立っている大鳥に殺気だつ。
「私の娘を返せ!ダブルニードル!」
スピアーの休みない猛攻が集中的に羽を襲う。
それを疎ましく感じたのだろう、虹色の鳥はすぐに去るのを止め、男の方を向く。
そして鋭いくちばしを大きく開き、鮮やかながらも猛々しい火のエネルギーが集束する。
「っやめてぇ!おとうさんを攻撃しないで!」
熱いエネルギーに気がついたホワイトはじたばたと鳥の足でもがく。
「スピアー!!」
「スピッ!」
子供の声にこたえるようにスピアーは迅速な動きで大鳥の足を攻撃した。
攻撃で力の緩んだ足を子供は小さいながらも立派な武器である歯で力の限り噛みついた。
「キュオォッ!」
「わっ!?」
大鳥がホワイトを落とす。
だが、海に落ちる前にスピアーが見事に救出した。
「ありがとスピアー」
「スピ!」
「よくやったぞスピアー!さあホワイト…」
「おとうさん!」
父親に腕を伸ばされホワイトは先ほどまでの恐怖を忘れたように満面の笑みで父親に手を伸ばす。
「シュオオォーー!!」
カッと周りが明るくなった。
そして何かの衝撃で体を吹きとばされる感覚に何が起こったのか理解できないまま、ホワイトは体中を痛めて、落ちていった。
「ホワイトーー!!」
唯一理解できたのは父親の悲痛な声。
おとうさん…
どこにいるの…どこ?
からだ、いたいよ…
あたまも、すごくいたい
いたい。いた…く、ない?
あったかい
「ぅ…」
ゆらゆら揺れている。
まるで船に乗っているようなゆらゆらとした感覚。
ひんやりと頬を冷やす甲羅の手触りになぜだか涙が出てきた。
分からない状況が続いて、混乱を極めた不安の涙。
「ぅう…っく」
だが、泣きだすよりも先に再び瞼が閉じる。
体力の限界だったのだ。
そして、再び子供が目覚めたとき、それまでの記憶をすべて無くしていた。
「クゥ〜ン」
「ん…」
「クウ?」
顔を何度も舐められるそれに耐えきれず、眼を覚ますと水色の体に、見たこともないポケモンが大きな瞳でじっと見つめる。
「だぁれ?」
「ク〜ン」
「あなたがたすけてくれたの?」
「クゥ」
「…ん?たすける…ってなにから?」
「わたし、なんでここにいるの?」