虹入り水晶

□虹の空、銀の海 第一部
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まだ肌寒さが残る空気だが、日差しの温かさに春という季節を感じる。

「ホワイトくん」
「ワンッ!」
「ガウ!」
「ブイ」
「みんな、おつかれさま」

一つの大きな役目が肩から下りて少しさみしくなったホワイト。
だがしんみりする時間はあまりなく翌日には海を渡ってグレン島までウインディのフォン、カイリューのリュウイ、そしてイーブイのカグヤ等三体の健康診断に来ている。
この三体はそれぞれがロケット団の研究員だったカツラの生体実験を受けたポケモンたちだ。

リュウイは潜在能力を引きだす実験を、フォンは苦手な水タイプの克服を、カグヤは自由に三進化できるように。
直接体に手が加えられているため心配したホワイトはこうして健康診断に来ているのだ。

普通の健康診断ではポケモンたちの異常が見つかった時、カツラのことを隠し通せる自信がないからという理由はカツラ本人に語ることはないだろう。

「いつも通り、健康そのものだ。毛並みもいいし歯もきれいだ」
「褒められちゃったねカグヤ!」
「ブイブイ!」

女の子のカグヤに話を振ると耳がぴょこぴょこ動いて尻尾の動きも大きくなる。

「…ふむ」
「どうしたんです?」
「いや、それほどまでに懐いているのにレッドくんのブイのように進化しないのだな、と」
「あ、ブイ君はレッドとの関係がすごく良かったから進化したんですよね?」
「ああ、最近学会でもイーブイのなつき進化が話題となっている」

冬の寒さが増した頃、ハーツ家で預かっていたブイはレッドとの修行に出ていた。
だが次に帰ってきたのは美しい体躯のエーフィだった。

「かわらずの石の首輪をしてるからね」
「…ブイ」
「カグヤはそのままでも十分可愛いからいいんだよ」
「ブイブイ」
「しかし今回はずいぶんと急な診断依頼だったな」
「今度ジョウト地方にオーキド博士のサポートとしてついていくことになったの」
「ん?…ああ、新しい図鑑が完成したのだね」
「うん、一年前に私が試しに使ってた図鑑を改良してね。って言っても、一年前はほとんどグレイが使ってたけどね」

聞けば博士に無断で拝借したとか。
「オホホホ」と同じ年の友人の空耳が聞こえてくる。

「わうっ!」
「わっフォン!?いったーー!!」
「キャウッ!?」
「ホワイトくん!?どこか怪我でもしたのかね!?」

自分が話にいないことに不貞腐れたフォンが構ってほしいとホワイトの正面から飛びつく。だが触れたと同時にホワイトが悲鳴をあげて拒絶する。

「いっつぅー…」
「ワウゥ……」
「大丈夫かね?」
「あ、はい…最近ちょっと胸が痛くて…いつつっ」
「クゥーン……」
「いや、フォンが悪い訳じゃないよ」

ホワイトの痛みの原因を作ってしまったフォンは申し訳なさそうに頭を下に向け、ふさふさの尻尾も力なく地面に広がる。

「…カツラさん。私病気なんでしょうか?結構前から地味に痛いなぁーって思ってたんですけど、最近はちょっと走るだけで痛く感じるときがあるんですよ」
「…ホワイトくん。質問させてもらうが胸にしこりなどはないかね?」
「あー…はい、ありますね。触ると痛いです。この前健康診断受けたんですけど全くの健康だったんでそのうち治ると思ったんですけど…」
「ふむ…まあ心配はないだろう」
「?」
「二次性徴…女性としての胸の発達に伴う痛みだな」
「胸…ブルーやカスミやエリカみたいに胸が膨らむの!?」

ホワイト・ディ・マサラハーツ。今年で14を迎える。
同じ14才のブルーと並べるととても同じ年には見られない。というのも、ブルーの年に似合わない大人っぽさが実年齢よりも上に、そしてホワイトの旅に出た時からあまり伸びを見せない身長と丸顔が二人の外見年齢を引き離すのだ。

「ま、まあどれくらいかはわからないが、女性ならば誰にでも起こる痛みだよ」

身近な人物等の胸を例に挙げられてカツラは言いにくそうだったが、胸の痛みに暗くなっていたホワイトの心は晴れている。
この歳になってもまな板同然の胸にもしかしなくてもこのままなのだろうかと不安に感じていた時のカツラの言葉に胸の痛みも少し和らいだのだ。

「ブイ?」

そんな人間の女の子の微妙な感性には、さすがにカグヤも首をかしげた。
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