雪の妖精

□第五章
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〚あら、それじゃあもうすぐ自然公園に着くのね〛
「うん、明日のお昼まえに着くかな。時間と場所はどこにする?」
〚じゃあディアルガとパルキアの像がある石板の前でどうかしら。時間は1時ごろで〛
「分かった。あ、そうそうチャンピオンリーグのゴヨウさんとの試合見たよおめでとう、シロナ姉さん!」



ポケモンセンターで部屋を借りて入浴を済ませ、服を洗濯し、鏡の前で念入りに髪の手入れをした。
服や靴がもっとおしゃれならさながらデート前の女の子と言える構図。シオンが鏡の前で身だしなみを確認してる姿を未進化三体は不思議そうに見てる。

「……よし!完璧!」

白い頬をパチンと叩いて出かける旨を皆に伝える。叩いたせいなのか、白い頬が桜色に色ずいていた。



「う〜ん、ちょっと早く来すぎたかな…」

約束の時間まであと三十分と少し。約束の人物は自然公園にある遺跡を見て回ってるだろうと予測する
歴史好きで遺跡好きのシロナの貴重な時間を邪魔したくないという気持ちがあり、さてどうやって時間をつぶそうかと悩む。

「あ、すみません。アイスください」
「はいまいどニャ……げっ!?悪じゃりゅっもががが!?」
「ありがとうございます。どうぞ好きなのを選んでください!」

近くにあったアイス屋さんでアイスを食べて時間をつぶしことに決めた。
だが、三人の店員のうち小さな店員がシオンを見て何か叫んで男の店員が口を押さえた。

「……あの〜…」
「まだですかにゃ…」
「う〜ん…こっちのミントチョコもおいしそうだけど…こっちのレモンシャーベットも捨てがたいし…」
「いっそ迷ってるのをドーンと買ってみてはいかがですかにゃ!」
「食べ合わせが悪そう」
「あ…そうですかにゃ…」

かれこれ三十分近くアイスを選ぶのに迷っている。アイス屋の店員、ロケット団はシオンを見て彼女の前にアイス選びに一時間かかった金髪の女性を沸騰させた。まさかその女性がシオンが姉と慕う女性であったとは思いもしないだろう。

「うん、決めた!フルーツ牛乳とメロンとレモンシャーベットのトリプルでお願いします」
「へ、へい!まいど!」
「ありがとうございま〜す!」

「おいこっちこっち!」
「ホントに来てるの!?」
「急げ急げ!」

店員からアイスを受け取ると自分と同じ年か少し下くらいの子供が走って通り過ぎた。
周りを見れば皆同じ方向に走ってる。

「どうしたんだろ…あっ!?姉さん待たせちゃう!」

そう言って待ち合わせの場所に走ったシオンは子供たちと同じ方法へ進む。

「何かしら?」
「あっちに人が集まってるな」
「売り上げ上げるチャンスニャ!行くにゃ!」
「「おう!」」

ロケット団も子供たちが向かう方向へ進む。



遊戯のない遺跡は普段は人気が少なく静かな場所だが、この時ばかりは人が集まっている。

「えー!チャンピオンがバトルするってよ!」
「一体どういうことなんだ!?」

チャンピオンがいる噂が広まって人が集まったことがわかる。人気の少ない遺跡ならば大丈夫だろうと思っていたがシロナの目立つ容姿とネームバリューはその上を行っていた。

「(シロナ姉さんが野外でバトル!?)」

遺跡前を見ると腰より長い薄金の髪を揺らす長身の美女がこの場にいるほとんどの人の視線を一身に受けて立っている。
クールな顔立ちをした独特な雰囲気をもった美女、シロナが見つめるのは

「シ、シンジ…?」

紫色の髪の少年。シンジだ。

「使用ポケモンは六体でいいですか?」
「結構よ」

「フルバトルだって!?」
「いい度胸だぜ」
「負けるにきまってるのに」

シンジの一言にざわつくギャラリー。完全にシンジが悪役だ。納得だが。
ヒーローかボスかって聞かれたら間違えなくボスの立ち位置になるだろうと一人で納得しているシオン。

シロナはガブリアスを、シンジはヒコザルを出した。
すると、ドラゴンと地面タイプをもつガブリアスに炎タイプで挑むシンジをバカにした発言が飛び交う。
批評というものはあれど、人の粗を探すような事が好きではないシオンはあからさまにギャラリーに嫌悪を示す。


二人のバトルはレベルが違いすぎるのに加えて相性も悪かったらシンジが負けるだろう。
穴を掘るヒコザルをガブリアスは同じく穴を掘るを使って一発KOとなった。

「やはりこんなものか」

聞き逃してしまいそうなほどあっさりと言った発言にシロナの目が試合中とは別の意味で真剣になったことに気付いたのはこの場に何人いただろう。

シンジは続いてマニューラ、ヤミカラスを出すがどのポケモンも一発で戦闘不能にされ今度はヨマワルを出した。

「ヨマワル、育て続けたんだ」

だが思い出に浸る間も短くヨマワルはギガインパクトを受けて戦闘不能になった途端シンジは口端をあげた。
シロナの顔も険しいものになった。

「…ん?」

その時シオンはヒカリ達がこの場にいることに初めて気が付いた。
バトルを見ながら食べてたアイスのコーンを飲み込み三人に「ひさしぶり」と声をかけた。

「シオン、来てたんだ!?」
「まあね、シンジの狙いなんとなくわかったかも…」
「やっぱりシンジの奴、何か狙いがあったのか」
「まあ、見てて」

シンジが次に出したポケモンはドダイトス。久しぶりに見たそのポケモンにまた場違いにも過去のバトルが走馬灯のごとく走る。

「ドダイトス、"ギガドレイン"!」

「決まった!?」
「でもどうしてガブリアスはかわさなかったの!?」
「……そうか!これがシンジの狙いだったんだ」
「私もタケシさんと同じ考えです。"ギガインパクト"は発動後はしばらく動けない。だからシンジは"ギガインパクト"が出るまで他のポケモンでしのいでいたんでしょうね」
「そして動けなくなったところを"ギガドレイン"で確実にヒットさせガブリアスの体力を奪うために!」

説明をしていると先ほどまで悠然としてたガブリアスが膝をついた。
野次を飛ばしていた外野の声もいつの間にか聞こえなくなり、勝利を確信した様子のシンジはとどめと言わんばかりに"ハードプラント"を命じた。"ハードプラント"はまっすぐガブリアスに向かい地面が衝撃で揺れ砂が舞う。地面の揺れにギャラリー達は騒ぐがすぐに収まった。
砂煙が晴れて皆が目にしたのは翼で"ハードプラント"を受け止めているガブリアスだ。反動が収まったガブリアスは"かわらわり"でドダイドスを戦闘不能にした。

「こ、これがチャンピオンの力…」

初めて目の当たりにするであろうチャンピオンの実力に全員が目を開く。
静まり返った遺跡で「ここまでにします」と言うシンジの声でようやく皆が我に返った。

「分かったわ。ガブリアス御苦労さま」

試合終了を聞いて静かだったギャラリーは我に返ると思いだしようにシンジをなじって笑う。
それが不快であったが、真っ先にサトシが「笑うな!!」と野次馬達に怒鳴りシンジの方へ駆けていく。

「サトシ…どうしちゃったんだろ?」
「堂々とチャンピオンに挑戦したシンジに感じるものがあるんだろう」

サトシの後に続くとシンジがサトシの労わりの言葉を無視して「鍛え直してまた挑戦します」と言った。

「楽しみにしてるわ」
「では」

一瞬シンジと目が合ったがすぐに外されてしまった。

「……シンジ、ポケモンセンターはそっちじゃないわよ」
「煩い」

シオンの言葉はあっけなく一蹴された。

「待ちなさいシンジ君」

流石にシロナの呼び掛けには止まった。
シオンは内心シンジに感謝した。ここでシロナの言葉さえも無下にしたら拳を振りかざす自信があったからだ。

「バトルを終えたポケモンをポケモンセンターに連れていくのはトレーナーの義務よ」
「…はい」

一度はポケモンセンターを通り過ぎようとしていたシンジに共に行こうと誘われ、シンジもここで拒否することはなく。知り合いならばとシオンやサトシたちにも同行を誘われた。

「シオンごめんなさい。わざわざ来てくれたのに…」
「ううん。久々に間近でバトルが見れてよかったって思ってるの」
「あら、そう?」
「あの〜〜…」
「どしたのヒカリ?」

ポケモンセンターに向かう途中で、遺跡で待ち合わせをしていた手前、予定外の行動にシロナが一言詫びるも、シオンは特に気にしていないことを告げる。
親しげな二人の空間にヒカリはおそるおそる声をかける。

「二人はどういったご関係で?なんだかとっても親しそうな…」
「ああ、シロナ姉さんは私の姉さんなの」
「ええ!?シロナさんってナナカマド博士のお孫さんなんですか!?」
「シオン、勘違いをさせるようなこと言っちゃだめよ。私はシオンの叔母にあたるの」
「でも姉さんのことを"叔母さん"なんて言えるないから姉さんなの」
「確かにこんな美しい人に"おばさん"なんて罪深い言葉を言えるわけがないー!!」
「タケシ落ちつけよ」
「ピッカチュウ…」

騒ぐタケシさんを余所にシオンとシロナを交互に見るヒカリはポンと手をたたく。

「そっか!シロナさんを見たとき見覚えあるな〜って思ってたけどシロナさんとシオンの髪が似てたんだ!」

ヒカリはシロナに見覚えのあるような引っかかりを感じていた。
シロナの後ろ姿、正確には髪がはじめて出会った時の髪の長いシオンと似ていたので見覚えがあったのだ。しかし、二人の関係性を聞いてみたら案外答えは簡単に出てきた。
シロナに比べて癖はおとなしめだが色素と光沢は瓜二つの美しいもの。よく見てみたら髪だけではなく肌質や華奢な手足など似ているところが多々ある。姉妹といわれても納得してしまうほどだ。  

「そうかな?私よりシロナ姉さんの方がずっとキレイよ」
「あら、シオンの方が昔の私よりもかわいいわよ」

シロナを女性としても、トレーナーとしても、さらには人としても尊敬するシオンの目には瓜二つのはずの己の髪は「姉さんと比べるなんて」と言わずにいられない。
かくいうシロナも、たった一人の姪っ子がかわいくて仕方がない。姪の肩を抱いて顔を寄せてる様は年の離れた仲のいい姉妹だ。
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