虹入り水晶

□第九部
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〜1話〜


  マサラタウン


「博士ー、いますかー」

ロケット団の襲撃で屋根が破壊された研究所はもう修復されている。
家の中の主に声をかけてドアを開くとパソコンの前に博士がいた。

「おお、ホワイト!」
「お久しぶりです博士!
屋根の修理もう終わったんですね」
「あれから二週間も過ぎたら流石にもう直っておる。
しかし、ちょうどいいところに来た」
「ちょうどいいとこと?」
「うむ…」



博士の話によると、近頃森では生息しないはずのポケモンがトキワの森でよく見かけると言う。
そのせいなのか、森全体が不穏な空気に包まれていてトキワの住民は困っているという。

「まさか、その原因を探ってこいなんて言わないでしょうね」
「はっはっは、人助けも立派なトレーナーだからこそできることじゃ」

つまりは行けと…

「はあ、別にいいですけど…あぶないって感じたら無理せず逃げますからね!」
「構わんよ。わしもそこまで無理してこいとは言わん。
それに、ホワイトの実力を買っての話じゃ。頼んだぞ」
「ふう…この調子だと話はそれを解決してからの方がよさそうですね。
その依頼受けました!」

トキワの森は博士の報告の通り、以前来た時とは雰囲気が違って殺気がピリピリしている。

「ドガースにマタドガス、サンドパンにゴローニャ…っと」

メモ帳に不自然に生息しているポケモンを書き込む。
一応調査は真面目にしている。

「ん?こんな所にスケッチブック?」

川沿いを歩いていると座るのによさそうな岩の傍にスケッチブックとクレヨンが置いてある。

何となく中身を見てみると、スケッチブックらしく絵が描かれている。
しかし持ち主が見当たらない。

「トキワの人のかな?一応持って行こっか」
「ブイ」



「あああ〜〜〜!!!
あのオニスズメしつこいなあもう!!」

適度に調査して一度トキワに戻ろうとするホワイトだったが、異常に気が立ってるオニスズメの(本人もよく知らない)不興を買ったらしく、追いかけられている。

「カグヤ、電光石火!」

ある程度の距離を測って攻撃に切り返す。逃げてばかりと思うなよオニスズメ君。
適度に相手をすると疲れたのか落ち着いてきた。

「ねえねえ、オニスズメ君。マタドガスやサンドパンっていつ頃からここに生息するようになったか分かる?
ちょっと前までそんなポケモン居なかったよね?」

こういうときこそポケモンとの会話能力だ!とオニスズメに話しかけてみる。
悪態ついてるっぽいことしか分かんなかった。

「この会話能力もあんまり役に立たないよね。
聞こえるときは急なのに聞きたいときには使えないって意味ないよ」

ついついため息が出る。

「言ってても仕方がないか。リュウイ、飛ぼう」



「ハハハ。あんなにいっぺんに来られたんじゃあ上に逃げるしかないもんな!」
「うん、逃げるのは別にかまわないけど、安全飛行でお願いね」

リュウイで飛んでいると森からプテラが急上昇して来て驚いた。
プテラの持ち主は分かっている。レッドだ。
腕に十歳前の女の子を抱えてて見ていて危なっかしい。

「奇遇だなホワイト!リーグに行く途中か?」
「行く前に博士からの頼まれ事。それより落とす前にリュウイに乗せたら?」
「っと、そうだな。乗れる?」
「う、うん、だいじょうぶ」

おそらくリュウイほど大きなポケモンに触れるのは初めてなのだろう。忙しなく女の子は視線をさまよわす。

「あ、私のスケッチブック!」
「これ君の?川の傍に置いてあったんだよ」
「あ、やっぱりあそこだったんだ。よかった〜」

女の子の様子を見てたレッドがなるほどと納得する。

「そっか、スケッチブックを探すために森に居たんだ。見つかってよかったね」
「うん!おねえちゃんありがとう!」
「あはは、どういたしまして」

「それじゃあ用事も済んだことだし…キミお家どこ?」
「トキワシティ」
「トキワシティだね。よし、ホワイト送っていこう!」
「もちろんそのつもり。レッツゴー!」

女の子をトキワシティ無事送ると、集まった町の人たちが女の子に注意をする。

「どこへ行ってたんだよ」
「最近のトキワの森は変だから気をつけろって言っただろ!」
「心配したんだぞ」

口々に出てくる中尉は心配の裏返しだというのが伝わり女の子も殊勝な態度でお説教を受ける。

「ちょっと、森が変ってどういうこと?」
「よく分かんないけど…とにかく変なんだ。
今まで見たことのないポケモンがいっぱいいるし…」

レッドは「やっぱり…」と呟き図鑑を開く。

「レッドも森の異常に気付いた?」
「ああ…ホワイトも?」
「私は博士から森の調査を頼まれたの。でも、頼まれてなくても気づいちゃうよあの状況」

図鑑を見ながら話していると女の子が「それなあに?」と図鑑を見て言う。

「ポケモン図鑑さ!
俺たちは博士に貰ったこの図鑑にポケモンのデータを集める旅をしてるんだ!」

旅先で何度も聞かれたセリフだったからか、レッドの口調は堂々としている。

「博士と言うと、あのポケモンの権威、マサラタウンのオーキド博士!?」
「そ、オレはマサラタウンのレッド!セキエイ高原を目指してる。
強いトレーナーと戦って、目指すは最強のポケモントレーナーってね!!」

レッドの話を聞いた住人はこの町にトレーニングの相手になる人はいないと言った。

どの町にも「この町で一番は○○だ!」というような人は結構いる。もちろんジムリーダーでもトレーナーでも。
だが、開口一番に「いない」発言は不思議でならない。

「居ないって…どうしてですか?」
「ジムはずっと閉鎖中。ジムリーダーが行方不明なんだよ」

ジムリーダーがいないジムなら旅先で三つもありました。(マチス、キョウ、カツラ)

「無敵…と噂されているリーダーなんだけど、姿を消しちゃって…。
誰もその正体を知らないんだ」
「無敵?」

あ、レッドが反応した。

「そのジムってどっち!?」
「あの川の向こうだけど…」
「よし、あの川の向こうだね!」
「レッドいってらっしゃ〜い」

レッドはボールからギャラちゃんを出す。
マタドガスやサンドパンさえ見たこと無かったトキワの住人はもちろん驚く。

「!!うわああ!?」
「でけええ!」
「おっと、そうだ!一つだけ」

レッドは女の子に向き直る。

「いいかい?
ポケモンは優しくて、でも怖い生き物だ。
ポケモンを使って悪いことをしようとする人が持ち主では、ポケモンも悪い子になっちゃう。
正しい、優しい気持ちで育てれば、いつまでも友達でいてくれる…分かるよね?」
「うん」

その言葉は、レッドが旅に出て感じたことだろう。
その言葉の一端にロケット団の影が見える。

レッドの言葉にコラッタを抱いて、曇りのない笑顔で女の子は応えた。

「うん、それさえ分かれば君もポケモントレーナーの仲間入りだ!
さてと…行くか」
「ちょ、ちょっと。橋はずっと遠くにしか…」

「あーらよっと!!」

話を最後まで聞かずレッドはギャラちゃんの体の長さを利用して向こう側まで一気に渡った。

「じゃ〜な〜!
ホワイトもお使いがんばれよ〜!」
「分かってるよ〜。気をつけてね〜!」

「……」
「…すごいなあ」

ポケモンセンターで皆の回復を済ます。
電話で博士に報告して、報告をまとめた紙を送る。

『ある日突然姿を現したポケモンのお…』
「やれる範囲での調査はしましたよ」
『…ホワイトはこの件をどう思う?』
「…野生のポケモンがニュースにもならずに大移動できるって普通に考えてありえないですよね。
人為的なものを感じます」
『うむ…わしもそう感じておる。
もしそうならきっと、もっと大きなことが必ず起こる。そうなってしまっては遅いかもしれん。事前に止められたらいいんじゃが…』
「なんか、私って知らず知らずのうちに大事に巻き込まれてますよね」

自分で言うのもなんだけど不憫っていうか…。

『じゃが今は待つしかない。ホワイトもなにが起こるかわからんのじゃ。気をつけるんじゃぞ』
「分かってますよ博士!それじゃあ今度は個人的に調べてみるんで切りますね」
『個人的にか?…まあ、何か分かったら連絡を頼むぞ』
「もちろん!それじゃ」

電話を切って画面が暗くなって自分の顔が映る。

「博士…ごめんなさい」

もしかしたら私、この件の…少なくともポケモンの異常に殺気立ってる原因を分かってるのかもしれない。
前にも、あんな様子のポケモンを見たことがあるから。

「うわああぁ!!」
「きゃああ!?」
「!?」

ポケモンセンターの外から悲鳴が聞こえる。
何だかんだと考えていても考えるより先に体が動くから巻き込まれていくのをホワイトははたして理解しているのだろうか。


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中途半端かもしれませんがここで区切ります。
女の子は言うまでもなくあの子。
良くも悪くも大人になってしまっう人公でした。
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