雪の妖精
□第二章
2ページ/3ページ
クロガネシティに到着したシオンはポケモンセンターでポケモンを回復している間に慣れた手順でクロガネジムに挑戦の申し込みをすませた。
新メンバーを含めたパーティの調整もかねて試合は翌日に予約を取っている。
「火猿は火の粉!心(ココロ)はマジカルリーフにねんりき!」
ねんりきでマジカルリーフの威力を上げ、火の粉を相殺とまではいかなくとも技を受けることなく火の粉を抑えている。
「うん、技のキレもいいしこの調子で明日はよろしくね。心」
「ラルゥ〜」
ラルトス改め心(ココロ)は細い腕で頑張るポーズをとる。
ジムで前もって確認した使用ポケモンは三体、シオンは火猿、心、蒼牙の順で行くことにした。
入ったばかりの心を起用したのは特訓を見ていて心は技のキレはいいが威力がいささか控えめだ。だがなぜか炎、雷、氷のパンチが使えるため岩タイプのジムであるクロガネジムの弱点を突く氷技にかけている。
ちなみに性別は男の子――メンバーが全員男なのが少し気になる今日この頃。
―――――
―――
「ぼくがクロガネジムジムリーダーのヒョウタ。よろしく」
「はい、よろしくお願いします」
バトルフィールドで向かい合う相手は赤い髪にヘルメットをかぶり、メガネの似合う好青年だ。
「これよりジムリーダーヒョウタ対チャレンジャーシオンによるクロガネジムジム戦を行います!」
使用ポケモンは事前に聞いた三体で三体すべてのポケモンが戦闘不能になったら試合終了。ポケモンの交代はチャレンジャーだけ。
「では、バトル開始!」
「いけ、イワーク!」
「火猿、バトルスタート!」
開始早々体格差の激しい相手とのバトルだ。
「ほう、いわタイプに炎タイプで挑むとは、なかなか面白い挑戦者だ。イワーク、"ずつき"だ!」
「"あなをほる"!」
地中に避難し地面にぶつかったイワークの顔面を出てくると同時に攻撃する。イワークがその勢いで倒れた。
「"気合いパンチ"!」
倒れて起き上がるまでのタイムロスを逃さず弱点のタイプで攻める。
「なかなかやるね。イワーク"ずつき"!」
「かわして!」
しかしイワークの攻撃が当たる方が早かった。
「早いっ!?」
「もう一発!」
「……カウンターよ、"気合いパンチ"!」
火猿は頭突きを食らうもその突進力をつき返す。弱点のタイプということもあってか、イワークは倒れた。
「自分の技があだになった…か。お疲れ様イワーク。次は…イシツブテ!」
「火猿、無理はできないから戻ってね。
心、バトルスタート!」
「イシツブテ、"ころがる"!」
「テレポート!」
「まだまだ…"ころがる"!」
テレポートで移動を繰り返すも、だんだんスピードが増してきたイシツブテに心もぎりぎりの状態だ。
「"念力"で動きを止めるのよ。そこから"マジカルリーフ"!」
攻撃は当たるが、やっぱり威力が低め。
「もう一回、"マジカルリーフ"!」
「"ころがる"!」
「ラルゥッ!」
「心!?……もう一度"マジカルリーフ"!」
「無駄だよ。いけっ、イシツブテ!」
「そのスピードがあだになりますよ…"冷凍パンチ"!」
「え!?」
「っイシツブテ戦闘不能!」
ギリギリまで引き寄せて来たところで心自慢のパンチをもろに受けたイシツブテは戦闘不能になった。しかしカウンターのためとはいえ最大威力の"ころがる"を正面から迎え撃った心も体がふらついていて審判の判定を受けて互いのトレーナーはすぐにボールに戻す。
「心、あなたはできる子だわ。お疲れ様、ゆっくり休んでね」
「まさか、物理技で来るとはね。でも、僕の最後のポケモンは一味違うよ。いけ、ズガイドス!」
「…ズガイドス、ここまできたんだからバッジはゲットさせてもらいますよ。蒼牙っバトルスタート!」
これまでまともに強い相手と戦っていなかった蒼牙は手ごたえのある相手とのバトルに目が輝いている。
「"ドラゴンクロー"!」
「"しねんのずつき"だ!」
技がぶつかりあうも機転を利かせた蒼牙が尾を使ってズガイドスを弾き飛ばす。
パートナーの作るその隙を逃がすシオンではなく、流れるように指示を飛ばす。
「"ドラゴンクロー"!」
「かわせ!」
しかしイワークの時みたいにはいかず機敏な動きでかわされる。
「蒼牙、空中へ!」
「無駄だ"しねんの頭突き"!」
空中での立体的な動きでかく乱しようとするも驚異的なジャンプ力で頭突き技を当てる。
空中戦もできるとなると大技で仕留めるしかない。
「"もろはの頭突き"!」
「その技まで覚えてるの!…"すなあらし"!」
岩のフィールドを味方にして巻き起こした砂嵐が蒼牙の姿をくらませ、ズガイドスへの目くらましとなる。その視覚の優位性を取る。
「これで決める!"ドラゴンダイブ"!」
「上だ!"もろはのずつき"!」
頭にエネルギーを溜めたズガイドスに落下した蒼牙。
地面が揺れるほどの激しい衝撃にトレーナーも審判も膝を曲げて耐える。
そして激しい一撃を征したのは
――蒼牙だ。
「ズガイドス戦闘不能!よって勝者、チャレンジャーシオン!」
「蒼牙!私たちの勝ちよ!」
「ガアアアァ!!」
勝利の雄たけびを上げる蒼牙にお疲れ様と力一杯抱きついて祝う。リーグ以来の公式戦に蒼牙は得意気な顔で鼻を鳴らす。
「御苦労さまズガイドス。シオンちゃん、いい試合をさせてもらったよ。ありがとう」
「こちらこそ、楽しいバトルでした。ありがとうございます!」
「それじゃあこれがクロガネジム勝利の証、コールバッジだ」
「ありがとうございます。……あ、すみませんけどバッジケースはこちらのジムで貰えるんでしょうか?」
「それが残念なことに今バッジケースの在庫が切れてて無いんだよ。明日には届くんだが…」
審判をしてくてたイワオが言いづらそうに告げる言葉を聞いてそれなら仕方がないとシオンは笑って返す。
「分かりました。明日また来ますね」
「すまないね」
「いいえ、私まだこの街を見て回っていませんし、丁度いいですよ」
「街を見るなら炭鉱見学なんてどうだい?掘り出したばかりの化石もあるし見どころだよ!」
「…ヒョウタ、おまえって奴は…」
街の見どころならば、とヒョウタが明るい声で炭鉱現場を薦めたが、反対に審判のイワオは頭を抱えた。
「炭鉱…見学できるんですか?」
「興味があるならぼくが案内するよ。責任者はぼくだからね」
頼もしく自身の胸を叩いたヒョウタの好意に「それじゃあせっかくなので」と炭鉱へ見学に向かうことが決まった。
ジム戦で勝利を収めたシオンは翌日、再びジムを訪れた。
「はい、これがシンオウのバッジケースだ」
「ありがとうございます」
新しく貰ったバッジケースに早速勝利の証、コールバッジを収めるとふぅと息を吐く。
何度もバッジを受け取ってはきたがやはり何もないケースにバッジを収める感覚はトレーナーの醍醐味というもの。
「昨日の炭鉱見学退屈じゃなかったかい?」
イワオにそう聞かれたシオンは前日を振り返りいいえ、と頭をふった。
「炭鉱現場って初めてで、掘り出したばかりの化石も見せてもらって詳しく説明をしてくれたので全然退屈しませんでしたよ」
年頃の女の子に勧めるような所ではないと知っているイワオだが普通の女の子より物事への興味の幅が広いシオンはいい経験だったと笑顔で答える。
「ヒョウタは責任者としてもジムリーダーとしても文句なしなんだが、こと化石においては夢中になりすぎる所があるんだ。化石マニアなんだよ」
「よくわかりました。でも夢中になれるものがあるのは羨ましいです。私の疑問にも細かく答えてくれましたし…なかなか話が終わらないところはありましたけど」
それでも元来人の話を聞くのも知らないことを知るのも好きなシオンには苦に感じることは無かった。
そんな会話をしていると入口の自動ドアの作動音が聞こえ、挑戦者か、と後ろを振り返るとシオンがいることに驚いているシンジがいた。
「あ、シンジ。ジム戦に来たの?」
「…ああ」
「おや、知り合いかね?」
「腐れ縁です」
「絶対に倒したいやつです」
「…シンジ……」
「なるほど、ライバルというわけか」
いい感じに解釈してくれるイワオに乾いた声が出る。
ホントに腐れ縁としか言いようがないんですと心の中でそうつぶやいた。
そんな心の声が聞こえはずもないイワオはジムリーダーの不在をシンジに告げる。戻ってきたら連絡するということでシンジは一旦ジムを出た。
「え、シンジ?」
「なんだお前か」
「あ、シオン!」
「ヒカリ、サトシ。元気そうだね」
ジムの外にはサトシ達がいた。
イワオが一番近くにいたシンジに友達かねと聞くとシンジは即答でこれを否定した。
サトシはジムに挑戦したのか、バッジはゲットしたのかと尋ねるがシンジはお前には関係ないと言う。
イワオさんが君も挑戦に来たのかと聞いて、岩ポケモンの伝統クロガネジムにようこそと言った。
「岩ポケモンのジムなんですか?」
サトシの言葉にシンジがいら立ったのに気がついたのはシオンが隣に立っていたからだろう。
「それじゃあ、オレはこれで。ポケモンセンターにいますから」
丁寧にお辞儀をして去っていくシンジにお互い頑張ろうと声をかけるサトシ。シンジの返事は鼻で笑うことだった。