雪の妖精

□第三章
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「みんな御苦労さま。あたたかいお茶でも飲んでゆっくりして行ってね」

ポフィン作りも終え、使用した調理器具や食器を片付けるとロズレイドとチコリータがツボミと共にお茶を運ぶ。
サトシはスボミ―から飲み物を受け取り、お礼を言うと慌ててロズレイドは物陰の方に逃げていく。

「…ロズレイド、なんかオレのこと怖がってるみたいだなあ…」
「サトシが何度も脅かすからよ」
「ごめんなさいね。あの子、昔から気が弱くて引っ込みじあんなとこがあるの」
「そうなんですか?」
「ええ、出会ったのは進化前のまだスボミーの頃なんだけど…」

元は怪我によりポケモンセンター保護されていたスボミーは同じく保護されていたポケモン達との中に上手く溶け込めずにいたものの、花が好きだということでツボミさんと共に暮らすようになった。

「スボミーはお花の世話が本当に好きだった。やがてスボミーはロゼリア、ロズレイドに進化したの。今では大切な私のパートナーよ」
「運命的ですね……どうしたの、チコリータ?」

ツボミさんの話を聞いてる時からずっと感じるチコリータからの視線。害は感じないがずっと見られては気になる。

「ああ、チコリータはシオンちゃんのファンなのよ」
「ファン?」
「何でファンなんだ?」

言われた当人とサトシがそろって首をかしげた。

「シオンちゃんこの前コンテストで優勝したでしょう?その時のあなたの演技にチコリータは魅せられたのよ」
「え、シオンコンテストに出てたの!?しかも優勝って」
「二回目のコトブキ大会でね。うん、確かに優勝したよ」
「すごい!ねえねえ、リボン見せてもらってもいい?」
「いいよ。はい」

コンテストと聞いて真っ先に反応したヒカリがすごいすごいと目を輝かせて憧れのコンテストリボンへの希望に応えて鞄からリボンケースを取り出して見せる。

「わあ〜、きれ〜い」
「チコ〜、チコチコ〜」

テーブルに飛び乗ったチコリータがヒカリと一緒にリボンを見る。テレビでシオンを知ったことを含めてコンテストへの興味が強いようだ。


  ドカン!!


住宅街で聞くには明らかに異質な音が聞こえた。

「なに!?」
「果樹園の方からだ!」
「行ってみましょう!」

シオンの言葉にうなずいた一同は慌ただしく席を立ち、果樹園に向かうと大きなメカが木の実を盗んでいる。
出て行けと言うサトシに大人げない態度を示すロケット団だがサトシ達の対応も慣れたもの。付き合いの長さを感じる。

「いくわよドクケイル!」
「マスキッパ…(パク)あー!!サボネア…(スリスリ)あー!!お前たち、だからそれはやめろって!?」

ムサシがドクケイルを、コジロウがマスキッパとサボネアを繰り出すも熱いコミュニケーションを受けて悲鳴をあげる。

「ドクケイル、"毒針"攻撃!」
「グレッグル、毒針には"毒針"だ!」

技の打ち合いを見て感化されたチコリータはシオンに指示を仰ぐ。

「私に?…そっか、あなたもここを守りたいのね」
「チコ!」
「マスキッパ"タネマシンガン"!サボネアは"ミサイル針"だ!」
「ポッチャマ"バブル光線"!」
「じゃあ戦おうか。チコリータ"葉っぱカッター"!」

ポケモンの技での攻防に気を取られてる隙に木の実を積んだメカが逃走、しかしそれを攻撃するポケモンがいた。
突然の介入に皆攻防をやめて介入者を捜すと家の上に赤いマフラーをしたロズレイドが立っている。

「ロズレイッ!」
「何々?昨夜のような目に会いたくなければ即刻ここを出ていけ?」
「…あ!ニャースがしゃべってる!?」
「い、いまさら…」

ゴタゴタトシタ事態で今更ながらニャースがしゃべることに驚いたシオンにヒカリが肩の力が抜けたようにツッコむ。

「ロズレイ、ロレイ!!」
「俺がいる限りここを汚すことは許さん〜!?」
「かっこいーぜロズレイド!」
「一人称俺だったんだ…」
「シオン、注目するとこ絶対違うって」

はしゃぐサトシと一人称に驚くシオン、それをツッコむヒカリ。ハスボーが喜び勇んでロズレイドの武勇伝を語った。
ツボミの果樹園をトレーナーに知られることなく密かに守ってきていたようだ。

「ここの実がどこよりもすばらしい実をつけ、花がどこよりも美しいのは……あなたが守り続けてくれてたからなのね」
「でも、あの気の弱いロズレイドがどうして…」
「ハブハブ」

ハスボーの言葉を訳したニャースが言うにはロズレイドはマフラーをするとすごいパワーを発揮するらしい。

「よーし、ロズレイドを応援するぞ…ピカチュウ!」
「させないにゃ!ザル網ロケット発射ー!」

巨大なザルを飛ばしててきたニャース。ツボミさんと私はハスボーとチコリータの体当たりで何とか回避した。

「いたた…ありがとチコリータ……チコリータ!?」

お礼を言うもチコリータはザルに捕まってる。チコリータだけではなくサトシたちもザルで覆われていて動けなくなっている。
ロズレイドが屋根から下りてシオンの前にに降り立ちに無事であるか声をかけると、その隙をニャースにつかれた。

「マフラーをよこすにゃ!」
「ロズ!?」
「なにするの!?」

ニャースがロズレイドのマフラーを引っ張る。反射的に外させまいと私も引っ張る。

「邪魔するニャ!」
「…くっ、本当にニャースがしゃべってる。こんな時じゃなかったらもっとよく知りたかったのに…!!」
「ニャッ…ニャにやら怪しい視線を感じるのニャ」

一歩も引かないマフラーの取り合いにマネネが乱入してきた。
シオンの背後に周り、ポケモンの技、くすぐるを行った。
その実、シオンにはいくつか弱点がある。その一つが…

「ぷっ、あはははは!!」

くすぐりに敏感なのだ。

悲しいことにこれによってマフラーを取られたロズレイドが無力化されたものの、巨大ザル網から脱出できたヒカリとチコリータに回収されるまでうずくまっていた。

「シオン大丈夫?しっかりして!」
「チコチコ!」
「ヒカリ、チコリータ…うん、何とか大丈夫……あ〜い〜つ〜ら〜!!」

醜態をさらした自覚がある分ものすごく恥ずかしい。
沸点が高いと自覚しているシオンだがやられた恨みは返す主義だ。

「いっけーポッチャマ"バブル光線"!」
「グレッグル"毒針"!」
「チコリータ"葉っぱカッター"!!」
「ピカチュウ"アイアンテール"!」

四人の技で奪われた木の実を奪還する。
そしてロズレイドの花びらの舞でロケット団を追いやった。

「ありがとう、ロズレイド」
「ロズ…」
「しっかし、派手にやられたもんだなあ…」

抜き取られた木に盛り返された土。もはや果樹園の面影さえない。
するとロズレイドが空の向かって暖かな光を放った。次いでハスボーも水鉄砲を雨のように降らせた。

「これは…」
「"にほんばれ"……あったかくてきれい」
「見て!」

ヒカリの指す方を見ると荒れ果てた土から小さな芽がたくさんあった。ヒカリが指した所だけでなく、果樹園全体に芽が出てる。

「まるで、ソノオタウンの伝説みたい…」
「伝説は本当だったのかもね」

芽を出し、蕾を膨らませ、花を咲かせる果樹園の光景はお話ではなく暖かな現実のものだ。
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