雪の妖精
□第四章
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森を出たシオンはポケモンの調整で日を置き。事前に連絡していたジム戦の時間に向かうとジムリーダーのナタネに緑華が捕まってしまった。
「いいわあ〜!!このチコリータの香りといい、毛並みといいもうサイコー!!」
「あ、あの…緑華のことを褒めてくれるのはうれしいんですけど苦しそうにしてるので離してあげてくれませんか?」
苦しそうと言うよりうっとおしそうにしてる。
おっとりした性格の緑華は基本的には寛容でボディータッチも嬉しそうに受け入れる子なのだがそれでもうっとおしそうにしているのだ。
「あははは、ごめんなさい。あたし草ポケモン大好きなのよ」
「そう、みたいですね」
「あ、そういえばあなたが挑戦者なのよね?」
うなずいて答えると、早速ジムの中へ案内された。
「使用ポケモンは三体、どちらかのポケモンが先に三体とも戦闘不能になった時点で試合終了とします。なお、ポケモンの交代はチャレンジャーのみ認められます…試合開始!」
「いくわよ…ズバリ、チェリンボ!」
「バトルスタート、火猿!」
「ヒコザルね。良い選択だけど相性だけじゃ勝てないわよ」
「でしょうね」
今までもたくさんのジムリーダーと戦ってきたんだ。シオンも相性でジムリーダーに勝てるとは思ってはいない。
「それでも私はこの子でいきますよ」
「いいわ。先攻はそちらからどうぞ」
「それじゃあ遠慮なく……火猿"火の粉"!」
「かわして!」
チェリンボとは思えない素早さで火の粉をかわしていく。
その素早さに驚いていると「驚いた?」と笑いかけるナタネは次の手をくりだす。
「それだけじゃないわよ。チェリンボ、"にほんばれ"!」
光の魂を上空へ放ち、太陽の輝きが増した。
草タイプは太陽があればより強くなるが、炎タイプの火猿も太陽が強くなれば炎の威力が上がるのが通説。
「…それほど自信があるってことね。火猿"かえんぐるま"!」
日差しで強くなった炎がチェリンボを襲うが、先ほどよりも素早い動きでかわされた。
そこでシオンはチェリンボの特性は"ようりょくそ"なのだと判断した。
「……戻って火猿」
「うん、引き際を見極めるのも立派なバトルよ。さあ、次はどんなポケモンでくるのかしら」
「ちょっと早いけど…お願いね緑華、バトルスタート!」
元気よく出てきた緑華にナタネさんが「チコリータ〜!!」と手を振ってくる。
「っと、可愛いけどバトルでは別よ。チェリンボ"たいあたり"!」
「"葉っぱカッター"!
「じゃあこっちは"マジカルリーフ"!」
"葉っぱカッター"と"マジカルリーフ"が相打ち。続けてチェリンボが"ソーラービーム"を発射。休みない連続攻撃にあわててかわす緑華。
「緑華やるわよ…"つるのムチ"!」
「かわして!」
「連続で"つるのムチ"!」
「全部かわすのよ!」
ナタネさんの指示通り、チェリンボは迫るツルを全部かわしていった。…かに見えたが、草葉のフィールドに隠れて伸ばしていたツルの一つに足元をすくわれ捕えた。
「チェリンボ!?」
「いいわよ緑華!そのまま"ギガドレイン"!」
「チェリゥ…」
体力を吸い取られ力を無くしていくチェリンボ。だが、ナタネが"マジカルリーフ"を指示し、"マジカルリーフ"をよけるためやむなくチェリンボをツルから離した。
「チェリンボ、"たいあたり"!」
「こっちも"たいあたり"!」
体力が乏しかったチェリンボと体力が満タンの緑華の衝突は緑華に軍配が上がった。
だが、ナタネの心には本人も気づいているか定かではない引っかかりを感じた。
「今のはこのフィールドを生かしたイイ作戦だわ。次はこの子…いけ、ナエトル!」
「私は緑華のままいきます…"葉っぱカッター"!」
「"リーフストーム"!」
単純な威力はナエトルの"リーフストーム"の方が上。"葉っぱカッター"をあっさりはじき緑華は攻撃を受けた。
「緑華!?大丈夫?」
「チコ…」
「…いきなり飛ばしますね」
「あなたを甘く見てると足元をすくわれそうだからね。手加減はナシよ!」
笑顔で言う言葉だろうか。
「ナエトル、"やどりぎの種"!」
「チィ!?」
「緑華!?」
ツルが緑華の体に絡みつく。徐々に体力が吸い取られているからか、苦しそうな顔をしている。
「"たいあたり"!」
「………"つるのムチ"」
緑華のみに聞こえるように囁いた。草葉に潜むように伸びた蔓に足をすくわれたナエトルは素早い動きの分激しく転倒し、チェリンボの時のようにツルで捕まえる。
「"ギガドレイン"!」
「そうはいかないわ。"リーフストーム"!」
「距離をとって!」
技を撃てるだけの体力が残っていたのは予想の範囲内だ。
私の作戦は『触れること』にあるのだから。
上空を見ると日本晴れの効果はなくなっている。
「…緑華お疲れ様。十分がんばってくれたわ。戻って休んでて」
ねぎらいの言葉を送って緑華をボールに戻す。
緑華は本当によく頑張ってくれた。かわすことも下手だった緑華がジムリーダーのポケモンを一体倒した上にナエトルへの置き土産も残したんだ。
緑華は頑張ったし、十分成長した。
「チコリータを戻したのね。"やどりぎの種"の効果も考えたら賢明な判断ね」
「ええ、あの子はよく頑張ってくれました。だから、あの子のがんばりのためにも負けることはできません! 出番よ火猿!」
「ヒコー!」
「ヒコザルね。でもさっきはチェリンボのスピードに付いていけてなかったのにどう対応する気かしら」
「それは見てのお楽しみです」
「じゃあ見せてもらうわよ。ナエトル、"葉っぱカッター"!」
「"かえんぐるま"!」
「かわすのよ!」
スピードは火猿にも分があるものの、驚異的な瞬発力をもってかわされた。
スピードは時に相性関係も覆す厄介さを持っている。けれどもし、そのスピードをメンバーの誰かが覚えたとしたら…。
「頼もしいんだけどね…、火猿休まず攻撃して、連続で"ひのこ"!」
「また何か考えてるのね…ナエトルかわして!」
連続で出す火の粉を正確に見切ってかわすナエトル。だが時間が経つにつれてナエトルの動きが鈍くなっている。
「今がチャンスよ。火猿、"炎のパンチ"!」
「ナエトルかわして……ナエトル!?」
うずくまったナエトルはナタネさんの声で何とか立ち上がる。だがうまくかわせず"炎のパンチ"を受けて戦闘不能になった。
ナタネはボールにすぐ戻さずナエトルの傍に寄った。
「ナエトルどうしたの?……この様子、まさか毒状態に!?」
ナタネはしばらく考えてはっとしたようにシオンを見て、「チコリータ…」と呟いた。その呟きに「ばれました?」と答えるシオン。
ナエトルの動きが鈍くなったのは毒を受けたからだ。
その毒は緑華の技"どくどく"で受けたもの。緑華のどくどくはツルから発せられる。
つまり、いちいちツルで捕らえて動けなくしたのは"ギガドレイン"が目的ではなく"どくどく"を当てるためだったのだ。
だが体力が減ってることをナタネや毒を受けた本人(本ポケ)にも気づかれないようにするためにギガドレインを使ったのだ。「疲れているのは体力を吸い取られたからだ」と勘違いさせるために。自分の状態に気付いているのといないのとではバトル中のペース配分が大きく違う。
「と言っても、もともとはハクタイの森で虫ポケモン達から学んだことなんですけどね」
毒状態になったことに気付かなかった火猿を見て思いついたのだ。
「完璧に裏をかかれた気分だわ。でも、あたしをここまで追い詰めた上にあなたのポケモンはまだ一体も倒れてない。素直にあなたは強いと思うわ!」
「光栄です」
「裏をかかれていてもあなたとのバトルは面白いわ。あたしの最後のポケモンはこの子!ズバリ、ロズレイド!」
ツボミさんのロズレイドとは一味違う雰囲気をもったロズレイド。
優美な動きはただならぬ緊張感を誘う。
「ロズレイド、"マジカルリーフ"!」
「火の粉!」
相殺、かと思ったら相殺しきれなかったマジカルリーフが火猿を襲う。
「ヒコ〜!」
「火猿しっかり!"あなをほる"!」
「その間に"あまごい"!」
さっきは晴天、今度は曇天。
ぱらぱら降り出す雨は炎タイプの威力を下げる。火猿には最悪の環境だ。
その火猿はロズレイドの真下から出てきてロズレイドを攻撃した。
「ロズレイド、"ウェザーボール"!」
「ヒコッ!」
今は雨だから"ウェザーボール"は水タイプになってるはず。
早々に決着をつけるべきだろう。
「一気に決めるわよ。火猿ダッシュ!」
「ウェザーボール!」
「"つるぎのまい"で切り捨てて!」
防御技として昇華した"つるぎのまい"で"ウェザーボール"をいなし、火猿はロズレイドを捕まえた。
「何をする気なの!?」
「火猿、ロズレイドごと穴の中へ!」
穴を掘るで出来た地面の空間に火猿はロズレイドと一緒に入った。
「一気に決めるよ、"かえんぐるま"!」
二つの穴から火柱が立ち上る。
地面の下なら天候の影響は受けないし"つるぎのまい"で上がった攻撃力ならこの一撃でロズレイドを倒せる。
火柱が収まり、穴から出てきた火猿と火猿に抱えられたロズレイドを見て審判がジャッジを下した。