「3人とも初めてにしては上出来じゃない!」
満面の笑みの千鶴に少々、恐怖を覚えるがそれは後で機嫌とるとしよう。今はさらに機嫌を損ねないようにするのが一番だ。
「これどうすんだよ?」
「お前はアホか!14日に井上と朽木に渡せ。たまには二人に感謝しろ。先ほどの行動を忘れたと言わせないぞ」
知らないとはいえ、黒崎の度胸は買う。こいつに臆せずことなくそう言えるのはおそらくお前だけだ。そろそろ、こいつの機嫌も直せねえと。ひょいと千鶴を米俵のように担ぐ。
「へぇ?」
「阿散井、黒崎。頑張れよ」
「ちょっと!降ろしてよ!」
すでに暴れているがこれ以上、暴れられても困るのでさっさとその場から離れた。
「あの千鶴を簡単に」
「あの人の暴走は止められねえとか言ってるけど、なんだかんだ言いながら日番谷隊長しか止められないからな。それより千鶴に感謝しないと」
「そうだな」
そんな話をされていることはつゆ知らず、隊長の二人は今にも言い合いが始まろうとしていた。
「下ろせって言ってるでしょうが!!!」
千鶴の蹴りが思いっきり、後頭部にあたる。こいつ、忘れがちだが斬術だけじゃなかった。
「何しやがる!」
「それはこっちのセリフ。いきなり、米俵のように担ぐとかおかしいんじゃないの?もっと違う攫い方あるでしょうが!」
怒りの論点はそこか。珍しくこいつにツッコミを入れたくなったが、ここは穏便に済ませることにしよう。
「じゃあ、姫抱き…「あーもういい!」
プイッと顔背けた。こんな風に感情を出すようになったのはいつからだろうか。千鶴と呼べばこちらに向き直してくれた。昔は目線もほぼ同じだったらが彼女も多少背が伸びたとはいえ、今では彼女が見上げるくらいだ。それが気に食わなかったのか、今度は足に蹴りが入った。
「千鶴…てめぇ…ふがっ、!?」
放り込むように口に何かを入れられた。そんな俺を悪びれもなく冷静に見ている。飲み込んだのを見届けると小さな箱を渡してきた。
「あんた達が悪戦苦闘してる時に私は私で作ってたのよ。甘さ控えめにしてあるから。ハッピーバレンタイン」
そういうとまた顔を背けた。その仕草が先ほどと同じとは言え可愛いくみえた。再び名前を呼び、こちらに顔を向けるように促す。
「おとなしく、それ食べ…」
続きを言う前に彼女の唇を奪う。いきなりだったので彼女は目を丸くさせた。すぐに状況を把握するあたりはさすがだ。しばらく堪能して解放すると睨まれた。
「いきなり何?こんな人通りが多いところで!何考えてるの?」
「そう言ってる割には抵抗しなかったよな?」
「それとこれは違う。今日はやけに意地悪だよね?」
「気のせいだろ。それより今日と明日、休みにしてあるからとことん、俺に付き合ったもらうからな」
「昼間の土下座の時から感じてたけど、予想通りね」
差し出した手に素直に千鶴は手を置き、ようやく並んで歩き始めた。
ハッピーバレンタイン
(ところでなんで理由を言わずに土下座したの?)
(どうでもいいだろ)
(どうでも良くない)
(お前がよくなくても俺はいいんだよ)
(あっそ)