けいおん! 放課後の仲間たち
□幕間2
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タン、タタン、タタタン。
乾いたシンコペーションが響く。
途轍もない深海に迷い込んだようにペダルを踏む足がうまく動かない。
溺れそう……こんなに乾いているのに。
「ストーーーップ!!!」
また、だ。
透んでよく通る声、繊細だが力がたくさんこもっている声、私のビートに割り込んだ。
シンバルのサスティーンが気だるく伸びて、すぐ消えた。
「律、また水分足りてないでしょう」
私がぼうっと顔をあげると、たった今私のドラムを強制終了させた声の持ち主が髪をかきあげながら私を心配そうな顔で見つめている。そんな動作がいちいち艶めかしく感じる男のくせに。
でも私、現在そんなことにいちいち反応している余裕はないんでした。もう死活的にね。
夏音が演奏を途中で止めるのはこれで三回目。
もう慣れたもので、私は水分を補給しにのろのろとベンチの上に置いてあるペットボトルの元までたどり着いた。
それを一気に呷る。げっ。
「ぬっりー」
これまた、当然なんだけど。
溜め息が止まらない。
ハイこちら、音楽準備室(またの名を軽音部部室)はやっとこさ梅雨が明けたと思いきや、どうやら雨雲が隠していたらしい夏の日差しのせいで、ひたすら熱気がこもる温室と化しちゃっています。
窓を開けても涼しい風が入ることはなく、がんがんと遠慮なく射し込んでくる太陽光線のヤツが木造の校舎の床さえも鉄板のごとく熱している。
焼き肉ができそうなくらい。ますます熱気は増すばかり。焼けんじゃねーか……? 焼いてみてー。
さあ、季節は順調すぎるくらい夏に近づいていたのでした。
この目の前の女男(非常に侮辱の意)―――夏音は不思議なことに、私の叩くドラムを耳にしただけで、私の状態がすぐに把握できてしまうらしい。それは包み隠しようのないくらい正確に空気を伝わってしまうみたい。
それで今みたいに明らかに集中力が切れていたり、私の意識がどっか白いもやがかかった世界に突入しかけた時なんか、一発。
薄い刃で斬りつけるようなストップの声が容赦なくかかる。
まあ、それでずいぶん助かっているのは事実で、ましてや無理して脱水症状なんか起こしてしまうなんてとんでもないことだし。
感謝しているというか、まあ……ご迷惑おかけしておりますって感じ。