【NL】短編
□いつかの夢
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気づけば見知らぬ竹林に居て、そして気づけば、目の前に幼い頃の私がいました。
--いつかの夢--
ある日の昼下がり、私は家の縁側でうたた寝をしていました。ぽかぽか陽気だったその日は目を閉じればすぐに睡魔がやってきて、眠りにつくのにさほど時間はかかりませんでした。
どのくらい眠っていたかはわかりませんが、瞳を開けると一面に竹林が広がり、そして不思議そうに私の顔を覗き込む、同じ顔のつくりをした幼い少年。
回らない思考を必死に動かして導き出した答えは、どうやら私は時間を巻き戻ったようです。
「貴方は誰ですか?」
私が私に尋ねる。
「…私は、未来の貴方です」
「…?」
納得したようなしてないような曖昧な表情を見せて過去の私は、口を小さく開いた。
「何故ここにいるのですか?」
「それは私には分かりません。ところで、此処は何処なのでしょう?私の家ではありませんよね」
そう問えば、私はどこか悲しそうに俯く。
「私は忘れてしまったんですか?此処はにーにの家…私とにーにが出会った場所ですよ?」
「そう、でしたか。すみません、あまりにも昔の事なので」
「いえ…ところで、あの、質問をしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、構いませんよ」
「私は…未来どうなっていますか?」
ミライ…
そう言えば小さい頃は何かと不安定で、不安で不安で、しかたありませんでしたね。
「心配ありません、ちゃんと大きくなっていますから」
「そうですか…それと、もう一つ…いいですか?」
遠慮がちに言う私に、何ですか?と聞く。着物の裾を握って、顔を赤くする。
「湾さんとはどうなって、いますか?」
「……」
すぐに答えることは出来ませんでした。
先日、湾さんとは喧嘩をしてしまい、今は距離を取っていますから。
この頃は確か純粋に彼女の事が好きでした。だけど、愛だの恋だのといったものをどうやら私は忘れてしまったようです。
「やっぱり、私じゃ力不足でしょうか」
「そう、ですね…私は…どうして湾さんを好きになったのでしょうか」
「未来の私は湾さんを好きじゃないんですか?」
「すみません、わかりません。ただ、貴方の中にある気持ちと今の私にある気持ちは少し違うような気がします」
大切なはずなのに、あの時私はどのような意志を持って、湾さんに好きと言ったのでしょうか…
「だから、忘れないでくださいね。今の気持ちを」
小さな少年の胸に手を添えて微笑むと、私は少し驚いた顔をする。滑稽なことを言ったかもしれません。だけど、忘れて私は、後悔していますから…
「菊さーん?」
遠くから聞こえた声に、幼い私が肩を震わせて顔を真っ赤にする。
「わ、湾さんっ//」
「迎えのようですね、出来るなら今を大切にしてください」
「……あの」
「はい?」
「私は湾さんが好きです。喧嘩する時があっても、私は湾さんが好きです!」
しっかりと意志のある言葉に、私は少しだけ目を丸くしました。
「菊さんー?」
近くに聞こえた声に、小さな私は私に頭を下げて、声の方に走って行く。私の目にも入って来る桃色のチャイナ服を着た髪の長い女の子。
「何処行ってたんですか?」
「すみません、少し…」
「心配したんですよー」
「本当にすみません」
楽しそうに笑う二人。其処に見えたのは、本当に楽しそうに笑う女の子の姿でした。
――その笑顔は、優しくて柔らかい。
長い間忘れてました。そうですね、私は――
* * *
「ん…」
目を開けると、見慣れた自分の家。どうやら、長い夢を見ていたようですね。
其の時、丁度玄関をたたく音がして、私は重い腰を上げました。
「はい、どちら様ですか?」
「あ、」
そこに立っていたのは、湾さん。二人で直立不動。
先に口を開いた湾さんはこうおっしゃいました。
「ごめんなさい、菊さん」
「い、いえ。こちらこそ!すみませんでした、湾さん」
くしゃりと顔をゆがませると、私の腰に手をまわしてくる湾さんをしっかりと抱きしめて。
「泣かないでください、湾さん」
「だってぇ…私、寂しかったです」
「すみません、もうこんなことはしませんから」
約束ですね、と笑う湾さんに、私も微笑む。
そうですね。私は大切なことを忘れていました。私は誰より、湾さんの笑顔を臨んでいました。
いつでも明るく笑う愛らしい女の子。
もう、泣かせたりしませんから。
了
あとがき
初菊梅!!!
ふ、ふぅ…疲れました。。
次は、あの子と兄ちゃんを書きたい…
いつかベラ嬢とイヴァンさんも書きたい…!!