緋弾のアリア〜京の都の勇士達〜

□Reload11
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「海だー!」


来たる季節は夏。今年もあの祇園祭の警備依頼を無事にやり遂げて迎えた夏本番の8月。その頭にオレ達はゴールデンウィークにも訪れた京都府宮津市へと足を運んで、日中の時間で天橋立海水浴場に海水浴をしに来ていた。
例の強盗犯が逮捕されたことで、例年通りの賑わいを見せる海水浴場を見てると、なんだか少しホッとするが、今のオレの状況はホッとしてる場合でもない。


「京ちゃん京ちゃん! 一緒に泳ごうや!」


「ちょっと待ってください愛菜さん。今パラソルとか取り付けてるんですから」


「やかましどすなぁ。やから連れてくるんは反対やったのに……」


「まぁまぁ眞弓。みんなで来た方が楽しいやろで納得したんやから、ここに来てグチグチ言わんといてや」


ビーチへと来てから開口一番に海だー! と叫んでいた愛菜さんは、その抜群のスタイルを見せつけるかのような青色のビキニを身に付けていて、ハイテンションで早速オレと一緒に海へと乗り出そうとするが、場所の確保を優先しなければならないためにやんわり断ってみれば、白のレースタイプの水着に上着を着た眞弓さんが、早速持ってきたベンチを置きつつ座ると、うるさい愛菜さんに文句たらたら。それを狙ってるのかわからないが、紺色のスクール水着を着た雅さんがなだめていた。


「はいはい、アイは私らと一緒に先に遊んでような。京は設置し終わったら合流しいや」


眞弓さんをなだめる雅さんの横で、その眞弓さんに噛みつきそうになっていた愛菜さんの背中を押してオレにそう言ってきたのは、赤と白のボーダーのビキニを着た早紀さん。そんな早紀さんにわかりましたと返して、その2人のあとで、水色のビキニを着た幸姉と上下で分かれるフィットネスタイプのグレーの水着を着た千雨さんが一言オレに言ったあと、愛菜さん達を追っていった。

どうしてオレ達が海に遊びに来ているのか。それは前回のゴールデンウィークでの1件を解決して、今年の来客減少の危機を救った追加報酬ということで、宮津市から1泊2日で各施設利用を完全無料にしてもらったことによる。もちろん買い物などは別だが、宿泊するホテルの宿泊費、食費に、ここまで来るのにかかる往復費などは宮津市が全て負担してくれるとあっては、行かないわけにはいかないとなり、依頼に関わっていない愛菜さんと千雨さんは自己負担ではあるが、少し強引に同行してきたといういきさつであった。

そんなわけで日中は海水浴へと乗り出して、荷物などを置く場所にシートにパラソル、簡易テーブルを設置し終えると、眞弓さんはパラソルの下で読書を始め、雅さんは何やらノートパソコンを起動してシートへと座ると、怪しい笑い方で何かの作業を始めてしまう。
その2人がとりあえず荷物番をしてくれるということで、オレは約束通り幸姉達と合流を図るために移動を開始したのだが、その幸姉達は何がどうしてそうなったのか、数人の大学生くらいの男を組み伏せて周囲の人達から注目を集めていた。セクハラでもされたのか?
状況はわからないながらに近付いてみれば、オレに気付いた愛菜さんが組み伏していた男から離れてスキップしながら近付いてきた。


「何やってるんですか?」


「一緒に遊ぼうって誘ってきたんやけど、こっちが断ってもしつこくてな。それでキレて乱闘になる前に制圧したわけや」


「これで穏便に済ませたと? 」


「千雨なんてグーで行く手前やったからな」


などと笑って言う愛菜さんだが、完全にオレの方に向いていたために、拘束を解いた男が立ち上がって殴りかかろうとしていたのに気付いていなかった。なので瞬時に愛菜さんの手を引いて位置を入れ替わると、男の拳を片手で受け止めて踏み込んでいた足を内側へと払って転倒させる。この人喧嘩したことないタイプだな。


「いくら辱しめを受けたからって、女の人に殴りかかるのはカッコ悪いですよ。たとえこっちが武偵だったとしても、ね」


そこで倒れた男性に対して自分達が武偵だということを教えてあげると、倒れていた男性は途端に血相を変えて拘束されていた他の男性達を連れて逃げるように走り去ってしまった。


「キャー! 京ちゃんおおきにー!」


それを見送っていると、後ろから愛菜さんがのし掛かるように抱きついてきてバランスを崩しかけるが、なんとか踏みとどまって支える。しかし、普段とは違って露出の多い水着のせいで生々しい体温が直接伝わってきて、胸の感触も鮮明に……と、意識がそちらに向きかけたところで幸姉がジト目でオレを見ていたことに気付き、ちょっと慌てて愛菜さんを引き剥がした。なんか怖いって幸姉……

それで騒ぎの中心だったこともあるのだろうが、海水浴の客から注目を集めていたオレ達……というより愛菜さん達が男性の視線を独占している感じがして、一部の女性からも羨望のような眼差しを向けられていた。
いつも一緒にいるから感覚が麻痺気味になっていたが、愛菜さん達はよく考えなくても美人の部類に入る。それで強くてカッコいいが加われば、周りの反応は至極当然と言える。
そんな美人の4人と仲良さげなオレはといえば、お前は何者だ的な視線を一身に浴びつつ、周りの視線などお構いなしの愛菜さん千雨さんと、愛想を振り撒く幸姉と早紀さんに引っ張られる形で海へと突撃していった。

涼むのと適度にはしゃぐのが目的の幸姉と愛菜さんは、始めこそ仲良く水の掛け合いをしていたのだが、なんか知らないうちにエスカレートして2つの巨大な水しぶきを上げるバトルへと発展し、小さな子供も巻き込んでのプチ戦争をしていて、そうなるまでは千雨さんと早紀さんのガチの遠泳勝負を観戦していたオレは、半ば強制的に第3勢力としてプチ戦争に参戦することとなり、どうやって勝敗をつけるのかも不明のままに子供達と一緒にその身を投じていた。
それからしばらくして今度は遠泳勝負から戻ってきた千雨さんと早紀さんに両腕を絡め取られてプチ戦争から脱出すると、勝負に負けたらしい早紀さんを砂埋めにするのを手伝わされ、早紀さんが完全に顔だけを残して砂に埋まったタイミングでツバ広な白い帽子を被った雅さんがノートパソコンを首から提げて近寄ってきて、その画面に表示される画像をオレと千雨さんに見せてきた。
画面の画像にはそれはそれは有名な京都市内にある金閣寺が写っていて、何の意図かをすぐに理解したオレはげんなり。千雨さんはノリノリでプチ戦争中だった幸姉と愛菜さんを呼び戻して早速4人で作業開始。要は早紀さんの上に金閣寺を建てようという雅さんの提案である。
監督雅さんの下でああだこうだと作業すること1時間。あまりにやることがなくて――文字通り手も足も出ないから――途中から寝てしまった早紀さんを他所に完成した砂製の金閣寺は、なんか余計な手を加えようとする幸姉達によって似ても似つかないが、とりあえず形だけは金閣寺な建造物が完成。その出来映えで幸姉達は年甲斐もなく文句の言い合いを始めて、ここまでの作業行程を見ていた他の海水浴客からは苦笑が上がり、子供達には「なにこれ」と言われる始末となった。ホントになにこれだよな……作った当人達が本気でそう思うんだから。



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