緋弾のアリア〜京の都の勇士達〜
□Reload17
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幸帆の部屋を出て部屋へと戻ってきたオレは、何をするわけでもなくベッドに仰向けで寝て天井をただ見つめる。
そうしていると、頭に浮かぶのはやはり眞弓さんのこと。
4年前、どんな理由があるにしろ、眞弓さんが人を殺めたという事実が受け入れられない。衛生科の首席で誰よりも人の命を助けてきたあの眞弓さんが。現代のナイチンゲールとでも呼べるだろうあの眞弓さんが、助けるべき命を自ら絶つなど、信じたくない。
――ピロリロリンッ!
どうしようもない気持ちをどう吐き出せばいいのかわからなくなっていたタイミングで、携帯にメールの着信があり、誰かと思いつつ携帯を開くと、相手は今のオレの頭の中で大半を占めていた眞弓さんだった。
メールの内容は『デートでもしませんか?』というお誘いのもので、次には待ち合わせの時間と場所の指定がされていたが、場所的に今から家を出て自転車を使って行っても待ち合わせ時間ギリギリ。選択肢、ないのではないだろうか。
別に断っても眞弓さんは怒らないだろうし、プライベートでまで眞弓さんにビクビクすることもないのだが、やはり昨日の件と今日このタイミングでのデートの誘い。ただの暇潰しというわけではない気がしたオレは、一言「少し待たせてしまうかもしれません」とだけメールを返してから家を出て、まずは真田家の居間で読書中の幸姉から外出の許可を取りに行く。これで幸姉が外出の予定があったりしたら行けないかもしれないが、まぁ今日は大丈夫だろう。
「どこに行くの?」
と思ったが、外出の理由が眞弓さんに会いに行くなんてどストレートに言ったら、ついてくるなんて言うかもしれないため、外出すると言ってから返された質問にどう答えるか迷う。下手に外食なんて言ってもついてくる可能性大だから、余計に困るなこれ。
「それはできれば内緒にしたいかな。幸姉へのちょっとしたあれも含まれてるし」
「んー? 誕生日はまだ先だし、幸帆ももう過ぎてるし、何か特別なことってあったかな?」
「それもサプライズってことでいいんじゃないか?」
「……まぁサプライズしてくれるならいっか。いってらっしゃーい」
と、なんとか上手い具合に誤魔化して外出の許可を取ったオレは、割とロスした時間を取り戻すように結構なスピードで自転車を漕いで待ち合わせの場所へと急いでいった。サプライズ、どうするかな……
時間にして昼の12時になるところ。夏休みということで家族連れの客も多いファミレスへとやって来たオレは、その店内に入って2人用のテーブル席に座る眞弓さんを発見。いつもの笑顔でオレを見て招いてくるので、促されるまま対面の席へと座って注文をしてから、優雅にコーヒーをすする眞弓さんと向き合った。
「もう、調べましたやろ?」
コーヒーカップを置いてから口を開いた眞弓さんの第一声はそれだった。まるでオレの心理と行動を読んでいたかのような言動に、オレは小さく頷きそれを肯定。
「まぁ自分のことどすから、どないすれば調べられるかは把握しとりました。雅からヒントをもろたなら、小1時間もあれば辿り着けます。そうなるように導いたのはさすがに気まぐれどすが、もう少し思惑通りに動かんよう注意するんも、大事なことどすえ」
言いながら眞弓さんは自分の携帯の画面をオレに見えるように差し出してきたので、促されるまま画面を見れば、そこには雅さんから送られたメールの内容があり、文章には「京くんが辿り着くかもしれない。ごめん」とだけあった。今の発言から察するに、オレが雅さんを頼って調べることがわかってたってことか。ということは雅さんも動かされたってこと、だよな。
「すみませんでした。どうしても気になってしまって」
「言いましたやろ? そうなるよう誘導したって。別に謝ることやありまへんえ」
「でも、そうだとして、どうしてそんなことを? 気まぐれと言うにはその……あまりに……」
「重い話やと?」
こくり。オレの言わんとしたことを先に言った眞弓さんにまた小さく頷いて返したオレ。それに対して表情を変えずに椅子の背もたれへと体重を預けた眞弓さんは、何か少し考える素振りを見せてから口を開いた。
「確かにベラベラと人に話すようなことやありまへんし、今こうしてのうのうと生活し続けてる自分が嫌になる日もあります。特に8月16日は無意識に、本能的に『誰かと一緒やないと耐えられん』ようになってしまっとるようでして、ダメなんどす。その日は毎年1人でいる時間を限りなく減らさな、自分を上手く保てまへん……。やから昨日のウチは少し調子が悪かったんどす。いつもなら雅にしか会わん日なんどすが、昨日はそうもいきまへんでしたから……」
ああ、そうか。今までは雅さんが一緒にいてくれていたから何の問題もなかったんだろうけど、昨日は修学旅行Vが被って雅さんと一緒にいられなかった。それで家に誰もいなくて危ないと感じたから、オレと幸姉のところへと来て気をまぎらわせていた。そういうことなのだろう。しかし、そうしてでも1人でいることを嫌がるほど、眞弓さんにとってあの記事にあった出来事が深刻な問題になったということ。その出来事の全てを知らないオレでは、何をどう口にしていいのかわからず沈黙していたのだが、自分を落ち着けるようにまたコーヒーを口に含んだ眞弓さんは、さて、と切り替えるように言ってから再び口を開く。
「まぁあれです。大まかな事情にしろ知ってしもた以上、気にならんわけはないどすやろ。事情を知らん人に話すんはこの上なく不快どすが、ある程度知る人なら質問に答えるくらいはやぶさかやありまへん。ウチも中途半端な記事や何かで変な誤解や印象を与えたままは嫌どすし」
つまりオレをここに呼び出した理由は、眞弓さんの過去を調べて絶対にモヤモヤしているであろうオレの心境を察して話をしてくれるということだ。もちろん、言うように変な誤解などを取り除くのもあるだろうが、やはりオレへの配慮がその割合を占めていそうだ。自分の事情でオレにそうさせたことへの。
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