魔法少女リリカルなのは〜魔の探求者〜

□STAGE02
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「そんなことないよ! 和人君、私を助けてくれた優しい人だもん!」


なのはの突然の言葉にオレは動かしていた箸をピタリと止める。アリサとすずかもそれには口を開けたまま固まる。


「あ! ユーノ君をね! 拾って渡してくれたから、和人君は悪い人じゃないよってこと! アリサちゃんもすずかちゃんも迷惑なんかじゃないよね?」


「私はそんなこと思わないよ。なのはちゃんがそう言うなら本当なんだろうし」


「……まぁ、こいつが悪評を受けてるのが妬みとかそんなのが理由だってのも噂で聞いてるし、なのはが助けてもらったっていうなら、悪い人じゃないんでしょ」


「いやいや、悪い人だぞ? なんたって人様のプライドをズタズタにして回ってるんだからな。心の弱いやつは精神病棟送りも嘘ではないかも」


「なのは! やっぱりこいつ悪い人よ! なのはを助けたのだって何かの間違い! 何かの偶然が重なっただけ!」


「アリサちゃん、和人さんは私たちのために言ってくれてるんだと思うよ? 今のだってあえて嫌われようとした言葉なんじゃないかな」


……いや、そんなつもりは微塵もないんだが、なんかすずかのポジティブ解釈だとオレが良い人になってる。アリサは弄りやすいけど、すずかはどうやら苦手なタイプのようだ。いや、弄りやすさという意味でな。


「どう解釈してくれてもいいけど、オレは君達とはもう関わらないよ。人付き合いは基本的に苦手だし、女の子と話すっていうのも慣れてないからな」


もうどう思われてもいいと考えながら、今後この子達と関わらないことをはっきりと告げる。そのあとすぐに弁当を食べ終えたオレは、去り際になのはに念話を飛ばす。


《オレの携帯番号を教えとく。都合がつく日にでも連絡してくれ。ユーノってやつとも話がしたいし、何か出来るなら手伝ってやる》


《あ、はい。じゃあ今日の夜にでも連絡しますね。それと、あんまり一人になろうとしないで。一人は『寂しい』よ……》


《……慣れちまったんだよ、一人でいることに。電話待ってるよ。それじゃあな》


念話が終わると同時にオレは屋上の扉を閉めて教室へと戻っていった。一人は寂しい、か。あの言葉はそれを味わったことがある人にしか言えない言葉だ。不覚にもその言葉にオレの心は揺らいだ。他人の言葉を気にしないこのオレがだ。

そしてあっという間に放課後となり、オレは昨夜パァになった食材の再調達のために走ってスーパーへ行き手早く買い物を終えた。また帰宅途中に化け物が現れたらたまったもんじゃない。オレの生活を奪われるのはさすがに困るからな。
そんなことを思いながら割と急ぎ足で家へと帰ったオレだったが、玄関に来てその異変に気付く。
オレの家は無駄に広い庭があるだけの普通の一軒家で、今はオレが一人で住んでいる。のだが、家の玄関の鍵が開いているのだ。音もなく扉を開けて中を確認すると、もう履けないんじゃないか? ってレベルに傷んだ靴が一足、丁寧に置かれていて、オレはこれ以上ないってほどのため息を盛大に吐いてから中に入ってリビングに足を運んだ。
そのリビングのソファーには、緑色のツンツン頭をした初老の男性がいて、新聞片手にテレビのニュースを見ていた。どっちか一つにしろや!


「おいじじい。帰るなら前日までに連絡寄越せって言ってるだろ。泥棒が入ったのかと思うんだからよ」


「なんじゃ和人。帰ったならまずただいまじゃろうが。相変わらず礼儀がなっとらんのぅ」


「じじいに言われたくねぇよ」


この目の前にいるじじい、霧島和臣(きりしまかずおみ)は、オレの現在の唯一の親族であり、60間近でありながら現役バリバリの武道家でもある。オレも小学校に上がった辺りから色々と指導されてそれなりに武道の心得はある。だがまだこのじじいに勝てたことがないのが悔やまれる。


「口の悪さもそのままか。これは少しお灸を据えねばならんのぅ」


じじいはそう言ってからソファーから立ち上がって庭へと出られる大窓を開けてオレを首を振って出るように促してくる。


「上等だ。いつまでもじじいに負け越しのままだと思うなよ」


安い挑発ではあるが、このじじいにだけは感情を一切押さえたことがない。オレにとってじじいは些細なことで爆発する起爆剤の点火スイッチなのである。
オレは持っていた買い物袋と鞄をテーブルに置いてから、地震でも起きそうな足取りで庭へと出てじじいと対峙する。


「死にそうになったら救急車くらいは呼んでやるよ」


「何を言っとるか。むしろお前さんが救急車に乗る羽目になるのじゃぞ?」


「知ってるかじじい。今の時代そーゆーのは虐待って言うんだぜ?」


「教育の間違いじゃろ?」


くそじじいが。あんたのその老体と思えない身体から放たれる技は凶器そのものなんだよ。まともに当たれば冗談抜きで病院送りだっての。


「鉄拳制裁ってか? だがオレが殴られたくらいで反省すると思ってんなら、じじいも甘いな」


「なら骨の一本くらいは折っておくかの。なに心配するな。ちゃんと利き腕とは逆の腕にしておいてやるからの」


孫の骨折る宣言するじじいなんてこの世に絶対ここにしかいないな。断言できる。頭まで筋肉でできてるようなじじいだ。確実に考えないで物を言ってる。困ったじじいだぜ。


「もう話すのはやめだ。さっさと夕飯作っちまいたいんだから、いつでもかかってこいよ」


「そうか。なら遠慮なく殴らせてもらおうかの」


じじいはオレの言葉を聞いたあと、地面を軽く踏み鳴らしてから勢いよくオレに突撃してきた。
先制パンチは右の正拳突き。オレはそれをじじいの外側に避けてすかさずカウンターの左ブローを脇腹に叩き込んでやろうとする。しかしじじいは正拳突きを放った右腕を打ち切ると同時に外側へ開きオレの後頭部目掛けて裏拳を放つ。慌てて身を屈めてそれを躱すと、オレの頭の上をブォン! という音が通りすぎる。
その音に肝を冷やしたのも一瞬。今度は四つん這いに近い状態になっていたオレにじじいの裏拳からの遠心力を利用した左足が迫る。急いで前転してじじいの間合いから抜け出て体勢を立て直したオレは、相変わらずの……いや、会うたびに磨きがかかっているじじいの強さに嫌な汗が噴き出す。
実力差が一向に埋まらないこの最悪の相手にオレは、防衛本能が危険だと警鐘を鳴らしていても笑わずにはいられなかった。



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