魔法少女リリカルなのは〜魔の探求者〜

□STAGE02
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今現在で、オレが相手の土俵の上で唯一勝ち星を上げられていない相手。それがこのじじい。
そのじじいが衰えることなく今もなおオレの目の前に威風堂々と立っていることに喜びを感じているのだ。
絶対に勝ってやる! そんな想いがオレの血をたぎらせ拳に力を込める。

そんなオレを見てじじいはフッ、と一瞬だけ笑ってみせてから、また突撃してきて先ほどと同じ右の正拳突きを放ってきた。
また同じ方向に躱すとさっきの二の舞。ならばとオレはじじいの右の正拳突きを左の手の平で身体の外側へ力の方向を流しつつじじいの懐へと潜り込み、突っ込んできた勢いを生かして右肘でじじいの腹に一撃入れようとした。
完璧なカウンター。それはオレが確信を得て放ったのだから間違いない。常人ならこれで沈むだろう。そう、『常人』ならな。
しかしじじいはオレのカウンターの右肘を当たる直前で左の手の平で受け流しじじいの身体の左側へと向きを変えてそれを躱す。そして交錯する時にオレの左側でぐるん! と身体を半時計回りに回して左の裏拳でオレの後頭部を狙ってきた。裏拳好きなじじいだ。
じじいの流れるような動きに一応慣れがあるオレは、空いていた左手で迫る裏拳を下から押し上げて後頭部直撃ルートから外して少し身を屈めてやり過ごし、次に迫った右のローキックをバック転で躱してから前へ出てドロップキックをじじいに放つ。フォロースルーに入っていたじじいはその右脇腹を完全にオレに向けている。くたばれくそじじい!!

パシィ!

しかしオレの渾身のドロップキックはじじいの忌々しい右手により両足を主軸からずらされてその向きを変えられ、じじいの背中を掠める程度で終わる。さらにそこで終わらないのがくそじじい。まだフォロースルーによって勢いを失っていなかった身体はもう一回転してオレの真横になった身体とご対面。回転途中に振り上げていた右手の手刀がギラリと光る。おおぅ……空中で身動きとれねぇよ……。
そして振り下ろされた手刀はオレの脇腹に深々と突き刺さ……ってたまるか!!
その手刀が当たる瞬間、オレは超がつくほどの無理矢理で身体を捻り手刀の落下速度と同じタイミングで身体を反転。結果手刀はオレの身体を撫でるように振り抜かれて、オレはそのまま受け身もとれずに地面に落ちるが、転んでたら死ぬのですぐに起き上がりじじいから距離をとった。
無理矢理に身体を捻ったことで身体におかしな痛みが走るが、たぶん大事には至ってないだろう。それより今は目の前の相手に隙を見せる方が百倍危ない。

互いにまだ『直撃』がない状況でありながら、オレは確実にじじいに追い詰められている。この事実がオレとじじいの実力差を示しているようで苛立つが、こんなことでくじけるオレでもない。

柳流柔術(やなぎりゅうじゅうじゅつ)

オレとじじいが今までの攻防で用いたその流派は、それなりに長い歴史があるらしく、じじいで二桁世代の継承者だとか。
この流派は柔術の名が示す通り、相手の攻撃、重心などを利用、または身体の外側へ『受け流す』ことに特化した流派で、諺を借りるならば『柔よく剛を制す』を体現した流派である。

同じ流派の戦いにおいては、その対策もされているため、オレとじじいの行動は必然として互いがある程度予測できてしまう。そこから相手を負かすためには、いかにして『避けられない状況を作るか』にかかってくる。
その先読みという部分でも、長生きしてるだけあって今のところじじいに軍配が上がってしまっているが、オレだって春休み前にボードゲーム部の奴らを将棋、チェス、オセロで打ちのめしてる。10歳なりに詰め方くらいは知ってる。

そんな理屈を頭で考えながら、おそらくチェスなどやったこともないじじいを見ていると、予想以上にオレが粘っていることが気に食わないのか、やっと本気を出すかのような柔軟体操を始める。
なんでもこのじじい。この辺の武道家の間では知らない人はいないとまで言われている実力者らしく、弟子であった父さんも生前『一度も勝てなかった相手』と言っていたし、母さんも『いつもはかっこいいお父さんを唯一かっこ悪いお父さんにできる人』なんて笑いながら言ってたっけ。
そこで少しだけ両親のことを思い出してしまったオレは、きっと今寂しい表情をしているだろう。らしくないな。頭を切り替えよう。

そう思った矢先、フワッと吹いた風に乗ってまたあの気配を察知した。そう、あの青い宝石が発動した気配を。位置は……


「何をよそ見しておる」


そうして意識を外に向けていたオレに声をかけながら目の前で拳を振りかぶるじじい。空気読めやくそじじい!!
完全に反応が遅れたオレは、本当に無意識のレベルで右手に魔力を込めてじじいの拳に掌底をぶつけて、威力などほとんどない風掌で相殺するが、踏ん張りが効かず自分が後ろに吹き飛ぶ。
地面をゴロゴロゴロと三回転してから片膝立ちで止まってじじいを見ると、じじいは何が起きたか理解できていないような顔をしながら、打ち合った場所から一歩も動いてなかった。せめて後退りくらいしろや。おっと、今はじじいへの説明はあとだ。


「じじい、悪いが用事ができた。続きは帰ってきてからだ」


「おい和人!」


じじいの制止の声が聞こえるが、それを無視してオレは全速力で反応のある場所へと走り出していた。人目がないところでは身体強化を施してさらに加速。その結果、普通に走って10分はかかる距離を半分の5分で駆け抜けることができた。飛べればもう少し楽なんだけどな。できないものはしょうがないか。

辿り着いたのは神社の境内。しかしオレが到着した時には丁度あの子、なのはが封印処理を終えたところだった。


「一足遅かったかな」


「あ、和人くん!」


なのはは封印した宝石をデバイスに収納すると、着ていた防護服を解いて下校中だったのか、聖祥小の制服へとその姿を変えてオレに走り寄ってきて、昨日のフェレット、ユーノも同じく近寄ってきてなのはの肩に乗る。


「終わっちまったならもう用はないんだよなぁ。話なら夜に電話でゆっくりしたいし、これから晩飯も作らなきゃならない」


「あ、そうなんだ。じゃあ引き止めちゃ悪いよね。ユーノくん、お話はまたあとででいいよね?」


「あ、うん。僕は全然。昨夜は助けていただきありがとうございました。のちほど詳しくお話を聞きたいのでよろしくお願いします」


「オレも君の事情とか諸々に興味があるし、こっちも話さない理由もないからな。それじゃまたあとで」


「うん、来てくれてありがとう和人くん」


「またのちほど」


それを最後にオレはさっさとその場をあとにして家へととんぼ返り。何しに行ったんだかわからないな。
さて、次に片付けなきゃならないのはじじいの方か。あれだけなら『魔法』と特定される可能性は低いが、普通なら起こり得ない現象だったのも事実。どう言って誤魔化そうか……そもそもじじいは母さんが異世界人だってことを知ってるのか? いや、知らないにしても、オレの記憶では家を留守にすることが多かった両親に疑問を持ったオレがじじいから両親が『研究職』だと聞かされた。自分の息子と息子の妻の仕事を知らない親というのもおかしな話ではある。
そういった疑問が帰る途中にどんどん沸いてきたオレは、いつの間にか誤魔化すことを考えずに、真実の追求に考えが方向転換していたのだった。


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