緋弾のアリア〜影の武偵〜

□Bullet43.5(上)
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「さて、猶予もないから短く、かつ分かりやすく説明するから、一字一句聞き逃しのないように」


「あの、フローレンスさん。日本にはいつ来られたんですか? 事前に話があればこんな急ごしらえな私達が呼ばれることもなかったのでは?」


会議の前にずっと疑問だったことを私が切り出せないタイミングになる前に尋ねると、フローレンスさんは少し呆れた表情をして大きな息を吐く。あれ? 何か変な質問したかな?


「全く以てその通り。私が日本に来たのはつい昨日のことだよ。それまで確証がないだの誰が行くだのとロンドン武偵局と警察がごちゃごちゃと言い合ってね、痺れを切らした私が強行してやって来たわけだ。そんな言い合いをしている間に犠牲者がまた出るだろ! ってね。まったく、アリアがいなくなってロンドン武偵局は日本に人員を出したくないだのと言った時は本気でキレかけたよ」


「アリア? アリアって神崎・H・アリアさんのことですよね? やっぱりお知り合いだったんですね。ロンドン武偵局と聞いて気にはなってました」


「ん? ああ、そういえばアリアは今君達の武偵高にいるんだったね。彼女とはあまり絡むことはなかったけど、久しぶりに会いたいものだ」


そうやって昔を思い出しているフローレンスさんは、とても楽しそうで表情からも見てとれた。


「大変申し上げにくいでござるが、時間のほどがないと申されていたかと」


「ああ、そうだそうだ。ありがとう陽菜ちゃん。では改めて説明するよ。今回の犯人、ウォルター・クロフォードは、元の顔を整形によって変えてしまっている。しかし犯行時にいちいち整形してるわけではなく、資料にもあるように何らかの特殊メイクかマスクでなりすます人物の顔を完全に再現し、声まで忠実に真似している。その辺りのブツが見つからないからどういったものかはわからないが、一緒に暮らす妻が違和感を覚えないほどの精巧さは脅威だ」


「犯行と犯行に間があるのは、その準備をするためでしょうか」


「標的を探すのに約1ヶ月。その夫の素性を調べながら特殊マスクの製作に約1ヶ月。潜伏に約1ヶ月。これが私の推理だ。潜伏に関しては必ず妊娠させるところから、女性の月経周期での計算で間違いないだろうね」


「犯行に及ぶまではいいとして、問題は誰を狙うかわからない点では? だから警察もお手上げだったはず」


「甘いよ志乃ちゃん。彼の犯行にはいくつかの共通点がある。それを踏まえればかなりの数に限定できる。まず1つ。彼の身長は誤魔化しが効かない点。今までなりすましを可能とした夫5人は皆、彼との身長が誤差1センチまでにあること。2つ。彼が狙うのは必ず結婚した夫婦であり、その全てが25から30歳の妻。3つ。子供がいない一世帯夫婦に限る。4つ。殺害された妻が皆、腰まである長髪で、専業主婦であること。ラスト。次の犯行は前の犯行からさほど離れていないところで起きる。以上の点から次の犯行の被害者になりうる人物を特定することができる」


すらすらと事務的に広げた手の指を折りながら断言したフローレンスさんに、私達はふむふむと相づちを打ち、それから日本で起きた事件の場所を確認すると、千葉県の八千代市内とある。


「考えてみれば簡単なんだよ。彼はかなり限定した女性を標的にしている。ここまで条件が当てはまる女性がイギリス国内にだってそんなに多いはずがない。日本に高跳びしたのは、西欧諸国ではすぐにこちらが動けるからと、彼が日本語も使える人物だからだ。それで先程の条件で近隣を調べると、これら全てに当てはまる女性が2人いることがわかった。そして彼が犯行に及んだ7月16日をスタートとするなら、9月14日になる今日から前後数日が、丁度潜伏開始の期間にあたるわけだね」


潜伏開始の期間。つまりは女性の旦那さんを殺害してなりすましを完了させる期間ということ。それならば確かに猶予はない。もしかしたらもう……。
そんな考えに志乃さんも陽菜ちゃんも行き着いたらしく、顔を伏せるけど、そんな私達を見てフローレンスさんは笑ってみせて、それから真剣な顔で今後の動きを説明する。


「君達についてはプロフィールと略歴ですでに知っている。その上で陽菜ちゃんと志乃ちゃんで1チーム。私と小鳥ちゃんで1チームとして、その2人の女性の夫の身辺を探る。私と探偵科の志乃ちゃんは夫に近づく人物を監視しながら、外での尾行と監視。諜報科である陽菜ちゃんと小鳥ちゃんは本人との接触(コンタクト)を禁じた情報収集。なりすますと言っても完璧ではないだろう。なりすましが完了しているなら、必ずどこかで不審な点が挙がるはずさ。何かわかったら必ず私に報告。独断での行動を絶対にしないこと。いいね?」


フローレンスさんはこの任務で私達の安全も保証すると言った。だから独断行動はかえってフローレンスさんに迷惑をかけてしまう。
接触を禁じるのは、警戒心の強い犯人が、それに気付き逃走されないようにするため。ここで逃げられると、足跡を追えなくなる可能性が出てくるのと、予測できない事態を避けたいのがあると思われる。


「あ、でもフローレンスさんが日本に渡ってきたのは警戒されるんじゃ? ロンドン武偵局所属の武偵が日本に、ですから」


「問題ないよ。心配性だな、小鳥ちゃんは。ちゃんと偽造パスポートといくつもの空港を経由して日本に来てるし、ロンドン武偵局でも『勤務』扱い。つまり私は今もイギリスにいることになってる」


そ、そうだよね。少し考えればわかるじゃない私。頭悪いとか思われたかな?
そんな調子の私にも終始笑顔を見せるフローレンスさんは、最後に疑問がないかの確認をしてから、私達にホットラインとなる無線やGPSを支給して作戦開始となった。
改めて考えるけど、難しそうなの引き受けちゃったなぁ。

フローレンスさんが調べた条件に当てはまる女性2人の所在は、それぞれさいたま市と横浜市。
旦那さんの職場はいずれもその市内のコンピューター関係の会社らしく、フローレンスさんと私が横浜市へ。陽菜ちゃんと志乃さんがさいたま市へと向かって、早速自宅と勤めてる会社の所在を確認。陽菜ちゃん達の方は一戸建ての住宅で、会社は近いらしく自転車での勤務とか。
対して私達の方は、高層マンション住まいで車での通勤。フローレンスさんが運転免許を持っていなかったら非常に困難になっていた。そこら辺もフローレンスさんの事前調査があった故の振り分けだったのかな。



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