緋弾のアリア〜影の武偵〜

□Bullet43.5(上)
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私とフローレンスさんは武偵とバレない服装へと着替えて、フローレンスさんが用意した青のミニバンに乗り、旦那さんの勤める会社の近くで作戦会議。
今回は隠密行動になるから、昴と煌牙にはフローレンスさんの車で待機と言うことが始めに決まり、それには昴も煌牙も後部座席から「えー」と文句を言ってきましたが、どう考えても一緒にいたら目立つし仕方ないよ。


「しかしどうしたものかな。小鳥ちゃんはどうやらまだ潜入調査(スリップ)での実績がないようだし、今回の会社にいるには見た目が若すぎる」


「あうぅ……幼くてすみません」


……私は子供体型ですからねぇ。自覚はありますよええ……泣いていいですか……。


「いやいや、小鳥ちゃんを幼いなんて思ってないよ。見方としては年相応だってことが言えるからね。会社内にいても不思議のない潜入法はあるかい?」


「えっと、清掃員とかなら中に入るのはたぶん問題ないですけど……私の戦兄なら……」


誰にも気付かれずに潜入して脱出、なんてやってみせたりするかもなんて、言えないよねぇ。


「戦兄? ああ、君達の選出基準になった人物の1人だね。小鳥ちゃんの1年先輩なら、私と同い年になるわけだ」


「え、フローレンスさんって17歳なんですか?」


「いくつに見えたのかな? おっと、それはいいとして、とりあえず清掃員に変装で潜入。ターゲットと外部の人間が接触できる可能性を調べ、できれば会話の盗み聞きなどができると好ましいね。私はその間にターゲットの車に発信器なんかを取り付けてくるよ」


テキパキと指示を出すフローレンスさんは、それで私を車から降ろすと、私を回収する時間を定めてどこかへと行ってしまった。
時間にして13時47分。一般的な清掃業って朝方の社員さんの通勤前にパパッとやっちゃう感じだよねぇ。どないしよ……。
そんなエセ関西弁が出たところで会社へととりあえず入ってみると、絶妙すぎるタイミングで清掃業者2人を発見。工具や作業着の社名からしておそらく修理業もやってるところかな。たぶんだけど、何かの機械のトラブルで呼ばれた感じ。
でもあの人達に混ざるにはまず作業着がない。機械知識が乏しい。幼い……うぅ……幸音さんから大人っぽさを分けてもらえばよかったよー! そんなことできないけどー!

と、ないものねだりをしてる場合でもないので、今できる私の精一杯でやれることをやろう!
そうして取り出したのはメモ帳とペン。こうなったら強引にいきます!

私は少し髪型をいじって、普段の印象を変えてから、意を決してその清掃業者の方に近付いていった私は、その中年の温厚そうなおじさんと若手っぽいお兄さんに話しかけた。


「あの、私こちらでお仕事をされる業者さんの現場風景をレポートにするように学校から課題として出されたのですが、お話は通ってますか?」


突然の私の話に困惑する2人は、互いに顔を見合わせて聞いていないと回答。当然です。嘘ですから。


「なにぶん急なお話でしたから、私としてもお邪魔になるなら後日改めてということで出直させていただきます。お引き留めして申し訳ありませんでした……」


「あー、いや、その、別にお邪魔だなんて思わないけど……まぁ、せっかく来たんだし、静かにしてくれるなら問題ないよ」


「あ、ありがとうございます! おじさま、お兄さん!」


よし! 作戦成功! 名付けて『ちょっと悲しげな少女に同情させてオッケーを言わせてしまおう!』作戦!
そしてオッケーが出た瞬間に明るさを見せる演技! 完璧です! 罪悪感はハンパないんですけどね……ごめんなさい、おじさんとお兄さん。

こうしておじさんとお兄さんと一緒に内部に潜入した私は、どうやら冬に備えての暖房設備の点検に来たらしいおじさん達の働きぶりをメモ帳に表面上は書きながら、セキュリティー面のチェックをしていく。
中に入ってしまうと意外とすんなり歩き回れるけど、要所では社員IDが必要な部屋もあるみたい。
そして調査対象のいるフロアにさしかかって、私は事前に確認していた顔写真を思い出しつつフロア全体を何気なく観察。すると普通にデスクワークをこなす対象を発見。そちらに意識を向けつつ、おじさんとお兄さんの跡をとことこついていくと、幸か不幸か近くへ接近できた。しかし接触は禁止。顔を覚えられるのもいただけないので、おじさんとお兄さんを影に使ってやり過ごした。
フロアでは社員同士の会話は全然なくて、得られるものはなかったけど、この会社内にいる限りは、直接呼び出しでもない限り外部との接触はなさそうで、今回のような業者さんが一番危険に思えた。

それから最後までおじさんとお兄さんについて回って、たっぷり2時間ほどかけてようやく終わった。
私は感謝と謝罪の混ざったお礼をおじさんとお兄さんに言ってから、逃げるように別れてフローレンスさんと合流。無線から潜入のことを理解していたフローレンスさんは、私の言った嘘をアフターフォローしてくれたらしく、ちゃんと業者さんの本社の方に生徒が見学に来ていたことを説明してくれていた。その手回しが早くて、無駄のない仕事ぶりに私は感心を覚えたのと同時に自分の至らない部分を痛感した。未熟だなぁ、私。

それでもフローレンスさんから言われたことはこなせたと思うし、全然ダメだなんて思っちゃいけないんだ。だってそんなことしたら、私の戦兄である京夜先輩に申し訳が立たない。戦妹(いもうと)が戦兄(あに)の面目を潰すわけにはいかないんだから、頑張らないと。最近京夜先輩も株が上がって人気急上昇中ですしね。

そんなことを考えて気持ちを上向きにしていると、会社の勤務を終えて対象が会社から出て駐車場へと向かい、その道中を私が尾行。フローレンスさんは同じ駐車場にてすでに待機。車に乗り込んだのを確認してから、私もフローレンスさんの車に乗り込んでその跡を追う。
その日はまっすぐに家へと帰り、セキュリティが万全のマンションへと入っていったのを確認。


「小鳥ちゃん。これから寝る時はその助手席になるけど大丈夫?」


「あ、はい。どこでも寝れるように鍛えられてますから」


主に京夜先輩の来訪者が度々泊まりに来るので、多少うるさくて寝づらいところでも寝れますよ。
そんな感じで夜は交代交代で仮眠を取ることとした私とフローレンスさんは、今日の陽菜ちゃん達の報告を聞いたあとに順に仮眠を取り始め、陽菜ちゃん達の方でもたくましい陽菜ちゃんのおかげで夜風はしのげてるとか。

そのフローレンスさんの仮眠中に、志乃さんからメールが届き、内容を見てみるとフローレンスさんについてのプロフィールが書いてあった。気になって調べたことを報告してきたのだ。


――羽鳥・フローレンス
昨年春からロンドン武偵局で働き始め、専門は尋問科(ダギュラ)。他にも強襲科・諜報科・救護科で高い評価を得ていて、専門においてはSランク。付けられた2つ名(ダブ)は『Dark Resident(闇の住人)』。
武器は主にサプレッサー付きのH&K HK45T。状況に応じてTNKワイヤーと手術用メスを用いる。
男性に対して強い攻撃性を持っていて、女性を優先して庇護(ひご)する傾向にある。
依頼や任務に関しては選り好みがあり、男女間トラブルの解決や男性犯罪者の逮捕に積極的。
尋問においてはその多様な手段と話術で多くの犯罪者を自白させている――


だ、尋問科……。しかも結構なアグレッシブ。普段は凄く落ち着いていて、そんな面を一切見せていないのに。人は見かけによらないんだなぁ。
そんなことを考えつつ、横で寝るフローレンスさんを見るが、志乃さんのメールにはまだ続きがあったようで、スクロールしてそこを読むと、


――女性に対して良く見せようとする言動や行動を意図的にする傾向があり、アプローチが積極的。
P.S.
簡単に気を許さないように気を付けてください――


……まぁ、私は女性として魅力ないし、問題ないよ志乃さん。ハハハ………はぁ……。

そうして夜は明けていった。



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