緋弾のアリア〜影の武偵〜

□Bullet44
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修学旅行Tも終わり、無事にチームの登録を完了させたオレは、修学旅行Tの後に来た連休を比較的のんびりと過ごしていた。

オレが修学旅行Tから帰ってきてから、今までより妙に頑張るようになった戦妹の小鳥が武偵として少し良い顔になったことが気になったが、何かあったのかと聞いても「秘密です」の一点張りなので、もう諦めた。調べようにも『民間の依頼』をこなしたことくらいしか出てこなかったしな。それしか出てこない辺りがまた怪しいが、きっと小鳥にとって価値ある依頼であったことは表情からもうかがえたから、オレも戦妹の成長を素直に嬉しく思った。
そうしてゆっくり過ごした連休の最終日。9月19日の夕飯時に、事は起こった。

いつものように小鳥が夕飯を作っていた時に、誰とも見当のつかないインターホンが鳴り、それにオレが対応して玄関のドアを開けると、そこには……


「お、お久しぶりですね、京様」


若干青みがかった長い黒髪が一際目を引くオレの元ご主人の妹、真田幸帆が、『防弾制服』を着て丁寧なお辞儀をしてきた。な、なんで幸帆が……。


「あ、明日から私もこちらの学校に編入が決まりましたので、教務科より京様の住居をお聞きして訪ねさせていただきました」


「…………いや、それはいいんだが……いや、良くないんだけど……あー! 何から聞けばいいんだよ! 突然すぎるわ!」


そんなオレの混乱を表す叫びに、ビクッと肩を跳ね上げた幸帆と、キッチンからの「きゃっ!」という小鳥の声を聞き、我に返ったオレは、とりあえず幸帆を中へと通して状況を整理しに入……ろうとしたのだが、リビングに入った幸帆は、キッチンから出てきた小鳥を視界に捉えると、ピシリ、と音がしたような錯覚がするほどの挙動で立ち止まり表情も固まる。


「……あれ? 幸音さん? じゃ、ないですよね……」


幸帆を初めて見た小鳥は、そこで一瞬幸姉かと思ったようだが、すぐに違うことがわかりオレに視線を向けてきて、固まっていた幸帆もギチギチと首を回して顔をこっちに向けてきた。幸帆、お前は幸姉から聞いたりしてないのかよ……。


「あー、幸帆。こっちはオレの戦妹の橘小鳥。簡単に言うなら師弟関係の先輩後輩。んで、こっちが幸姉の妹の真田幸帆。歳は小鳥と同じだ」


そうやって互いの簡潔な自己紹介をオレがしてやると、2人は互いの顔を見合ってから、流れとしてのとりあえず握手を交わす。


「あの、京様。橘さんの立場はわかりましたが、こちらは男子寮ですよね? それなのにどうして橘さんは普通にお邪魔しているのでしょうか」


「わ、私は京夜先輩の戦妹としてせめてもとここで身の回りのお世話をさせていただいていて……」


「身の回りのお世話を……そ、それってつまりど、同棲!? 京様! こんなことを認めている理由はなんですか!」


「いや、理由も何も別に含むところとかは一切ないし……ああ! ちょっと2人で話してろ! 幸姉と話してくる!」


次々と質問が飛んでくるので、幸帆を落ち着かせる意味でも1度小鳥と2人きりにして、ベランダへと出たオレはすぐに幸姉に電話をした。


『どうしたの京夜。も、もしかしてこ、声が聞きたかった、とか?』


開口一番にそんなことをもごもご言う幸姉は、確実に『乙女』だとわかったが、今はどの幸姉でもいい。


「どうもこうもない。幸帆だよ幸帆。今オレの部屋に来てるんだけど、何でこっちに来てるんだよ。しかも明日から東京武偵高(ここ)に通うって……」


『それは幸帆が自分で決めたことよ。武偵になることも、そっちの武偵高に通うこともね』


「それならそれで身の回りの情報くらい教えてやってほしかったよ。今質問攻めで大変な目に遭ったんだからな。いや、現在進行形だけど……」


言いながらリビングで小鳥と言い合っている幸帆を見るが、まだ軽い興奮状態っぽくて小鳥に迫っていた。


『幸帆から聞いたのよね? 私と幸帆がそんなに良好な関係じゃなかったって。私は選択肢を与えてはあげたけど、まだそれで仲良し姉妹とはいかないの。あの子との関係も、これからなのよ』


「だから2人でゆっくり話ができなかったって? はぁ……わかった。幸帆の件はもういいよ。それで一応確認しとくけど、誠夜は来てないよな?」


『誠夜にも選択肢を与えたんだけどね。あの子は猿飛のお役目に誇りを持ってるみたいで、結局私の従者になっちゃった』


よ、良かったぁ。これで誠夜までこっちに来てたら、面倒臭いことになってたからな。学校で「京様」に加えて「兄者」なんて呼ばれたらオレが死ぬ。


「誠夜に言っておいてくれ。『猿飛は任せた』って」


『じゃあ私からもお願いね。妹を頼みます』


「頼まれた。それじゃ」


『いつでも帰ってきてね。あなたの帰る場所は、東京武偵高(そっち)だけじゃないから』


最後に優しい声でそう言った幸姉に、短く一言で返したオレは、それから通話を切って携帯を仕舞い、ベランダからリビングへと戻る。そこではようやく状況の整理が終わったらしい幸帆と、質問攻めでくたっとした小鳥が同時にこちらを向いてきた。

ピンポーン

そんなタイミングで、またしても部屋のインターホンが鳴り響き、一応の正規住人であるオレがそれに応じて玄関の扉を開けると、そこには……


「君が猿飛京夜で間違いないな?」


肩甲骨辺りまで伸ばした黒髪をひとまとめにした髪型に、蒼色の瞳をしたロングコートの中性的な容姿と声の男がそこに立っていて、いきなりそんな確認をしてきた。その男の近くには、何やら多めの荷物まである。


「そうだが、お前は誰だ?」


「ロンドン武偵局から東京武偵高に留学に来た、羽鳥・フローレンスだ。今日からこちらの部屋で同居することになった。専門は尋問科だが、担任の綴先生がこの部屋は学科は関係ないと言って案内された次第だ」


確かにこの寮は本来探偵科の寮で、諜報科のオレがいるのも変な話だったが、この部屋だけはその例外らしいことは入寮前に聞いていた。おそらくこういった転入受け入れ時にすぐに提供できるようにしているのだろう。


「ロンドン武偵局。アリアと顔見知りだったりするのかね」


「アリアとは共に欧州の治安を守った仲間だ。聞けばこの下の部屋がアリアの拠点の1つらしいね。それはそうと、まずは部屋に通してはくれないか? 日本人は玄関で立ち話をするのが普通なのかい?」


言われて確かにと思ったオレは、羽鳥を部屋に通して、置かれていた荷物も少し気を遣って中に入れてやった。よく考えたら羽鳥の言葉に少しトゲがあったが、イギリス人ならと特に気にしなかった。



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