緋弾のアリア〜影の武偵〜

□Bullet45
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幸帆と羽鳥の武偵高への転入から一段落した9月30日。
キンジ達もチーム登録最終日、23日の直前申請(ジャスト)で、キンジをリーダーに、アリアをサブリーダーとして、そこに白雪、理子、レキを加えたチーム『バスカービル(Baskerville)』を滑り込みで登録完了させたことを聞き、かなえさんの裁判の準備が整ったことも聞いた。
レキはあのエクスプレスジャックの後から直前申請までの間、ずっと京都にいたらしく、その時間を療養に当てていたとか。そんなレキと直前申請後に1度顔を合わせたが、以前と変わったような、そうでないような、つまりよくわからないレキだったが、ただオレに一言「ありがとうございました」と言ってきた時の表情は、少しだけ感情がこもっていた気がした。

しかし良いことばかり起きるはずもなく、新しく同居人となった羽鳥は、転入してから毎日のように小鳥を口説くし、夕飯までの時間に女子生徒を部屋に連れて来ることもあって、オレが部屋で落ち着かないことが増えた。
そんな日は夕飯までの時間を外で過ごすようにし始めたオレは、今まで以上に煌牙に小鳥のガードを強化するよう指示しておき、つい先日に情報科を履修することを決めた幸帆の住む第3女子寮を第2の拠点として入り浸り始めていた。ここにはジャンヌと中空知が一緒の部屋で住んでいるから、チーム間での連携もそれなりに取れるため、結果的にプラスになってるのは喜ばしいことだが、オレの部屋と逆で男子が敬遠される場所。あまり長く入り浸るわけにもいかない。

そんなわけで今日も羽鳥のやつが部屋に救護科の女子を2人連れ込むということをジャンヌから聞いていたオレは、放課後まっすぐに幸帆の部屋へと向かって現在くつろぎ中。女子寮は個室率が高いので、幸帆の部屋には同居人がいない。それが少し寂しいらしいが、そこは週に2回ほどオレの部屋に泊まりに来ることでまぎらわせるらしい。そうでなくてもクラスメートから人気もあるらしく、寮生同士でお泊まり会なども予定してるとか。まぁ仲良くやれているなら何よりだ。


「失礼する、幸帆」


それでリビングのソファーで幸帆とまったりくつろいでいると、突然インターホンもなしでジャンヌが来訪してきて、隣にいた幸帆が有り得ない挙動でソファーから飛び上がって対応。


「ジャ、ジャンヌ先輩! 入るならインターホンくらいは……」


「む、猿飛もいるからくつろいでいると読んでいたが、何か問題があったか? だとしたらすまない。次からは配慮しよう」


「べ、別に問題はないですけど……もう! お茶淹れてきます!」


何故か言葉を濁した幸帆は、少し怒りながらキッチンの方に引っ込んでしまい、その様子をはて? と思いつつもジャンヌがオレの近くのソファーに座って用件を述べる。って、オレに用かよ。


「猿飛、今夜0時に『宣戦会議(バンディーレ)』が行われる。その場にお前を連れていくことを真田幸音と取り決めていたことを羽鳥のおかげですっかり忘れていた。だから今夜空けておけ」


「……いや、今夜は別に問題ないからいいけどさ、宣戦会議ってなに?」


「ふむ、何と聞かれると、ここには幸帆もいるからな、滅多な言葉では言えないが、要は『開会式』だ」


開会式って……運動会でも始まるのか? とは思ったが、ジャンヌが言葉を選ぶということは、おそらくイ・ウーやそれ関連の物騒な話なのだろう。


「あ! 忘れてました!」


ジャンヌの説明に難しい顔をしていたオレは、お茶を淹れてきた幸帆のそんな声に振り向くと、幸帆はジャンヌにお茶を渡してから、パタパタと自室へと入っていき、すぐに戻ってくると、オレに2つ折りされたメモと封のしてある白封筒を渡してきた。


「あの、姉上から京様に渡すように言われていたものです。なにぶん慌てて出てきたもので、今日まで忘れてましたけど、宣戦会議と聞いて9月中に渡すように言われたことを思い出して……すみません!」


そうやってペコペコ頭を下げてくる幸帆をとりあえず落ち着かせて、渡されたメモを開くとそこには「この手紙を宣戦会議で藍幇の大使に渡しておいて。わからなかったらジャンヌに聞くべし! よろしく!」と可愛らしいフォントで書かれていたが、内容が危険臭漂いまくっている。そのメモをジャンヌに渡すと、ジャンヌはふむと1拍考えてから話をした。


「これで行かない理由もなくなったわけだ。しっかり任された仕事をこなせ。移動手段は私が準備する。待ち合わせ時間はあとでメールしておくから必ず来い。それから武装を忘れるなよ」


そうしてスラスラと事務的に述べたジャンヌは、それで幸帆が淹れたお茶をグビッと飲み干して部屋から出ていき、それだけのためにここに来たのかとオレも幸帆も顔を見合って目をパチクリさせたのだった。

幸姉に頼まれては仕方ない。そう思い込むことでジャンヌとの約束通りの時間。夜11時30分にレインボーブリッジ寄りの学園島の端。そこに行ってみると、そこにはいつかの地下倉庫での戦いで着ていたものより重装の西洋甲冑と聖剣デュランダルを装備したジャンヌが、海に小型のモーターボートを浮かべて待っていた。


「時間もない。早く乗れ。操縦もしてもらうぞ。行き先は空き地島南端、曲がった風車の下だ」


「了解。それよりジャンヌ。そんな重装備だけど、まさか派手なドンパチが起こったりしないよな?」


「保証はない。もしそうなった場合は、迷わず逃げろ」


じゃあ今逃げます。とは言えないか。オレの内心を知らないジャンヌは、言ったあとモーターボートの上に乗って早くしろと促してきたので、この場での逃走を諦めてボートに乗り込み、ジャンヌの指示通りにボートを動かしていった。

レインボーブリッジを潜って辿り着いた空き地島の4月のハイジャックでキンジが飛行機をぶつけて曲がった風車の下には、さっきまでなかった濃霧が立ち込めており、まるでこの辺一帯を覆い隠すように発生していることから、何か人工的なものを感じていた。
そしてジャンヌは辿り着いたその場でデュランダルをザンッ! 地面に突き刺して、その柄頭に両手を添えて立って見せた。


「京夜さん。あなたも来たのですか」


ジャンヌの様子に気を取られていると、不意に風車のプロペラの上から声がして、そこを向くとプロペラに腰掛けたレキの姿があった。
いや、レキだけじゃない。今まで警戒レベルを大分落としていたから気付かなかったが、気配を探ればこの場にいくつかの気配があった。中には殺気のようなものを放つ気配もある。


「ふんふん。おお! 誰かと思えば真田の娘についとったガキか」


そうして警戒レベルを上げた矢先、足下からそんな声がしてそちらを見ると、そこには藍色の和服を着たアリアより小柄な女の子がいて、その切れ長の目と長いキツネ色の髪。そして頭には2本のキツネ耳が。


「玉藻(たまも)……様?」


「いかにも。しかし猿飛の。お主はいい匂いがするのぅ。以前はそんなこともなかった気がするがの」


子供のような見た目のこの玉藻という子は、オレが9歳の時。幸姉が12歳の時に1度だけ会ったことがある、正真正銘の『化生(けしょう)』、天狐の妖怪である。他に『伏見』という同類にも京都で会っているが、あの頃はオレもガキだったからな。話半分で『変な人』というくくりで納得していた。


「いい匂いって、動物に好かれるような匂いですかね?」


「これ! 儂を動物と同類にするでない! しかしまぁ、動物に好かれるような匂いというのは的を射てるの」


2度目の顔合わせということもあり、どう接したものかと考えながら、とりあえず丁寧語にはしてみたが、端から見たら子供に対して頭が低い高校生の図だ。嫌だなぁ。
しかしそれで気を緩めるわけにもいかない。周りには1癖も2癖もありそうなやつらがいる。こうしてオレと普通に話す玉藻様の強心臓が羨ましい。現に姿の見えるジャンヌもレキも一切の気の緩みを感じない。


「む、来たようじゃな」


そこで話をしていた玉藻様が何かを察して後ろを向くので、オレもそちらに目を向けると、そこから霧を抜けてキンジが姿を現した。


「なんだ、猿飛もジャンヌに呼び出されたのか?」


「個人的な用件もあるんだよ。半ば強制だったけど」


猿飛もときたか。どうやらキンジもこの場に来ることを決められていた感がある。オレと同じでこれから何が起こるのか知らない雰囲気も醸し出している。



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