緋弾のアリア〜影の武偵〜

□Bullet45
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「では、古の作法に則り、まずは3つの協定を復唱する。86年前の宣戦会議ではフランス語だったそうだが、今回は私が日本語に翻訳した事を容赦頂きたい。
第1項。いつ何時、誰が誰に挑戦することも許される。戦いは決闘に準ずるものとするが、不意打ち、闇討ち、密偵、奇術の使用、侮辱は許される。
第2項。際限無き殺戮を避けるため、決闘に値せぬ雑兵の戦用を禁ずる。これは第1項より優先される。
第3項。戦いは主に『師団(ディーン)』と『眷属(グレナダ)』の双方の連盟に分かれて行う。この往古の盟名は、歴代の烈士達を敬う故、永代、改めぬものとする。
それぞれの組織がどちらの連盟に属するかはこの場での宣言によって定めるが、黙秘・無所属も許される。宣言後の鞍替(くらが)えは禁じないが、誇り高き各位によりそれに応じた扱いをされる事を心得よ」


今のジャンヌの言葉を要約すればこうだ。
各組織が師団・眷属・無所属を宣言し、その組織の中心戦力をぶつけて戦う。その際に数でものを言わせるような戦いは認めない。師団から眷属へ。また眷属から師団への組織の移動も有り。しかしそれ相応の対応はされる。無所属もまたしかり。といった感じか。


「続けて連盟の宣言を募るが……まず、私達イ・ウー研鑽派残党(ダイオ・ノマド)は師団となる事を宣言させてもらう。バチカンの聖女・メーヤは師団。魔女連隊のカツェ・グラッセ、それと竜悴公姫・ヒルダは眷属。よもや鞍替えは無いな?」


ルール説明を終えたジャンヌは、続けて連盟の宣言に移り、先程のやり取りからメーヤやカツェ、ヒルダを勝手に分けて各々の表情を確認。


「ああ……神様。再び剣を取る私を、お赦し下さい――はい。バチカンは元よりこの汚らわしい眷属共を伐つ師団。殲滅師団(レギオ・ディーン)の始祖です」


「ああ。アタシも当然眷属だ。メーヤと仲間になんてなれるもんかよ」


「聞くまでもないでしょうジャンヌ。私は生まれながらにして闇の眷属――眷属よ。玉藻、あなたもそうでしょう?」


メーヤ、カツェ、ヒルダと宣言に相違ないことを述べると、ヒルダは次にキンジの隣にいた玉藻様を名指しして尋ねる。
その玉藻様は1歩前へ出てヒルダへと向き答えた。


「すまんのぅヒルダ。儂は今回、師団じゃ。未だ仄聞(そくぶん)のみじゃが、今日の星伽は基督(きりすと)教会と盟約があるそうじゃからの。パトラ、お主もこっちゃ来い」


師団に属すると答えた玉藻様は、今度は近所のガキを呼ぶような気軽さでパトラに話しかけて師団に属するように言う。


「タマモ。かつて先祖が教わった諸々の事、妾は感謝しておるがのぅ。イ・ウー研鑽派の優等生どもには私怨もある。今回、イ・ウー主戦派(イグナティス)は眷属ぢゃ。あー……お前はどうするのぢゃ。カナ」


「創世記41章11――『同じ夜に私達はそれぞれ夢を見たが、そのどちらにも意味が隠されていた』――私は個人でここに来たけれど、そうね。無所属とさせてもらうわ」


次々と連盟宣言が成されていく中、カナ。金一さんだけが初めて無所属を宣言。それにはパトラが残念そうにしていた。しかし金一さんは何でこの戦いに参加する意志を見せた? まさかまた幸姉が絡んでやこないだろうな。勘弁してくれよ。


「ジャンヌ。リバティー・メイソンも無所属だ。しばらく様子を見させてもらう」


金一さんに便乗する形で口を開いたのは、リバティー・メイソンの大使であるトレンチコートを着た男。霧が濃くて姿ははっきりしないが、あれも難敵であることに変わりはない。


「――LOO――」


次にそんなルウーという発声? をしたのは、3メートルはある巨大メカ。その体には様々な重武装が施されていて、オレの知識ではすべてを把握はできないが、人間が生身で勝てるような兵器ではない。
そいつはそのあともルウー、ルウーと何かを喋っているようだったが、誰も理解できないので、ジャンヌが『黙秘』と判断し、それでルウーと一声出したそいつはそれ以降黙った。


「――ハビ――眷属!」


そうして唐突に宣言したのは、10歳ぐらいに見えるトラジマ模様の毛皮を着た少女だったが、その少女は自分より大きな斧を軽々と片手で持ち上げてみせてから、それを地面に降ろすと、ずしんっ! と圧倒的な重量感を足に伝えてきた。よく見ればバサバサの髪、跳ね上がった前髪の下に2本のツノが見えていた。これも人間じゃないのね。


「遠山。バスカービルはどっちに付くのだ」


「な、何だ。何で俺に振るんだよ、ジャンヌ」


この場にいる約半数が宣言を終えた辺りに、ジャンヌがここにいる理由が見えなかったキンジに宣言を促す。バスカービルは組織ではないが。


「お前は、シャーロックを倒した張本人だろう」


「い、いや。あれはどっちかっつーと流れで……アリアを助けに行ったら、たまたまシャーロックがいたっていうか……」


「まだ分からないのか? この宣戦会議にはお前の一味、そのリーダーの連盟宣言が不可欠だ。お前はイ・ウーを壊滅させ、私達を再び戦わせる口火を切ったのだからな」


そこでキンジもあれやこれやとジャンヌに抗議をするが、ジャンヌは全く取り合わずにどちらにつくかを問う。
その様子に見かねたヒルダが割って入った。


「新人(ルーキー)は皆、そう無様に慌てるのよねぇ。そこのジャンヌのお付きはなかなかに立派よ?」


そりゃどうも。
そんな意味も込めてオレがヒルダを睨むと、その視線をものともせずに話を続ける。


「聞くまでもないでしょう? 遠山キンジ。お前たちは師団。それしかありえないわ。お前は眷属の偉大なる古豪、竜悴公(ドラキュラ)・ブラド――お父様のカタキなのだから」


「――それでは、ウルスが師団に付く事を代理宣言させてもらいます」


ヒルダの言葉でキンジが師団に付いたとみなされた瞬間、レキが間髪入れずに師団に付く事を宣言。レキ自身もバスカービルの一員だから当然の流れか。


「藍幇の大使、諸葛静幻(しょかつせいげん)が宣言しましょう。私達は眷属。ウルスの蕾姫と真田の従者には、先日ビジネスを阻害された借りがありますからね」


レキの宣言を聞いて眷属入りを宣言したのは、諸葛静幻と名乗った藍幇の大使。レキのみならず何故かオレも敵対されたし。こっちは何もしてこなきゃ何もしないっつの。身勝手だな。

だがこれで宣言を終えていないのは、終始音楽プレーヤーで音楽を聴いていたピエロのような男。
そいつは今までつけていたイヤホンと音楽プレーヤーを足元に捨てて初めて口を開いた。


「チッ。美しくねェ。ケッ――バカバカしいぜ。強ぇヤツが集まるかと思って来てみりゃ、何だこりゃ。要は使いっ走りの集いってワケかよ。どいつもこいつも取るに足らねェ。ムダ足だったぜ」


「GV(ジーサード)――ここに集うのは確かに『大使』。戦闘力ではなく、本人の希望・組織の推薦に加え、使者としての適性、一定程度の日本語が理解できる事などを基準に選出されている。また、義務ではないが――お前のような個人でない限り、大使には宦官(かんがん)ないし好戦的ではない男か、若い乙女を選ぶのが古くからの仕来りだ。お前の求める様な面々ではない事は認めよう。だが、いいのかGV。このまま帰れば、お前は無所属になるぞ」


「――関係ねぇなッ」


「……私達と同じ物を求め、奪い合う限り、いずれは戦う事になる。その際に師団か眷属に付いておけば、敵の数が減るのだ。私達は各々の組織の人数を明かしてはいないが、少なくともここの十余名のうち半数は敵に回さずに済む」


ジャンヌの丁寧な言葉も吐いて捨てたGVは、次は一番強いヤツを連れてきて、そいつを全殺しすると言ってから、文字通り、この場から消えた。オレにもその原理はよくわからなかった。
しかしそれで全ての宣言が済んだことで、進行役のジャンヌが締めの言葉を紡いだ。


「最後に、この闘争は……宣戦会議の地域名を元に名付ける慣習に従い、『極東戦役(Far East Warfare)』――FEWと呼ぶ事と定める。各位の参加に感謝と、武運の祈りを……」


と、解散ムードに変わると思って一瞬気を緩めた瞬間、怪しい笑みを浮かべたヒルダが最後まで聞かずに口を開いた。


「じゃあ、いいのね?」



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