緋弾のアリア〜影の武偵〜

□Bullet46
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宣戦会議の締めを語っていたジャンヌに割り込むように不穏な言葉と怪しい笑みを浮かべたヒルダ。どう考えても良いことは起きないだろう。


「……? ――もう、か?」


「いいでしょ別に。もう始まったんだもの」


「待て。今夜は……ここでは、お前は戦わないと言っていなかったか」


「そうねぇ。ここはあまりいい舞台ではないわ。高度も低いし、天気もイマイチよ。でも、気が変わったの。折角だし、ちょっと遊んでいきましょうよ」


そう話しながらにオレとキンジを見るヒルダとジャンヌ。よく見ればジャンヌはマバタキ信号で「逃げろ」と送ってきている。
その間、同時にデュランダルを持ち上げたジャンヌは、その刃に氷を纏わせ、ヒルダは足元の自分の影に溶け込んで姿を消した。
その光景に驚愕するキンジは棒立ち。手に持つベレッタも対象が定まってない。


「遠山、逃げろッ! 30秒は縛る!」


影に潜んだヒルダがキンジへと近寄ってくる中、ジャンヌは叫んでデュランダルをうごめく影に投げつけてザクッ! と影と地面とを縫い付けた。


「臆すな! バカキンジ!」


それでもまだうごめく影に危機感を持ったオレは、棒立ちのキンジの尻に割と加減なしのキックをお見舞いして無理矢理に動かす。こっちだって逃げたいんだ。だがお前を置いてくと怖い巫女さんやら何やらがいるんだよ。
そうしてキンジに活を入れた矢先。不意に視界に入った玉藻様が、学園島の方を向いていることに気付き、オレもそちらを見ると、ゾロゾロと他のやつらもそちらを向いた。
その数秒後、その方向から小型のモーターボートの走る音が聞こえてきて、この空き地島に接舷(せつげん)する音がしてから、その辺りから見覚えのある姿が現れた。


「SSRに網を張らせといて正解だったわ! アタシの目の届くところに出てくるとはね。その勇気だけは認めてあげるッ! そこにいるんでしょ!? パトラ! ヒルダ! イ・ウーの残党! セットで逮捕よ! 今月のママの高裁に、手土産(ギフト)ができたわね!」


神崎・H・アリア。そのカンの良さは認めるが、状況把握が全くできてないぞ。今お前が暴れたところで、命を無駄に散らせるだけだ。


「ア、アリア! 今はマズい! ここには……」


キンジも叫ぶが、アリアはその手にガバを抜いて尚も接近してくる。
そのアリアに振り向くLOOと音を上げる巨大メカ。その動作で警戒レベルを上げたアリアが、いきなり発砲。巨大メカの頭上に位置していた風車のプロペラを折ってその重量で巨大メカを潰した。
あれ、まだ敵かどうかも微妙だったよな。

その様子に心底楽しそうに踊り始めたのは、身の丈以上の斧を軽々と持つツノ少女ハビ。こいつは無視していいのか?
それと同じように潰れた巨大メカに爆笑していた魔女カツェ。その背後にはそろりそろりと大剣を振りかぶるシスターメーヤが。


「厄水の魔女……討ち取ったりィーーーーッ!」


……取る気あるのか? 折角の背面攻撃を台無しにしてる。
しかしそのメーヤに最初から気付いていたらしいカツェは、その手に西洋短剣を持ち出して切り結んだ。


「あー、メーヤ……お前ホント、いっぺん死なないと治らねェなァ。そのアホさ」


オレと同じようなことを言葉にしたカツェは、短剣で大剣をいなすと、大剣は足元のコンクリートに落ちて突き刺さった。


「お、大人しく斬られないとは……ああ神よ、この者の罪をお許し……いえ、許さなくて結構です! 神罰代行ッ! 謹んで務めさせていただきます!」


そう言うメーヤは、すでに肩で息をしながら大剣を下段に構える。スタミナないなぁ。
そんなメーヤに対して、カツェはその懐から骨董品のような形状の銃を取り出しメーヤに数発ほど発砲するが、明らかに有効距離内にも関わらず、その弾は1発としてメーヤには当たらなかった。そのメーヤも当たらないのがわかっていたような顔である。


「チッ。やっぱダメかよ。とことん運のいいヤツだな」


やっぱ、と言った辺り、あらかじめ予測していた節のあるカツェは、その銃をすぐにレッグホルスターに収めて短剣を構え直しメーヤめがけて駆ける。
2人が切り結ぶ直前。その間に素早く割って入った人物がいて、その人物、カナさんは、持っていたサソリの尾の鎌の背で大剣を、鎌の柄で短剣を器用に静止させていた。ホントズルいよな、HSSって。
そうして動きを止めてすぐに腕の方向を変えてメーヤとカツェのバランスを崩して転ばせた。


「お2人さん。今はまだ――ちょっと早いわ。もう帰りましょう? ね?」


転んだ2人に笑顔で語ったカナさんは、それでまた霧の中へ後退。
そのタイミングでアリアがオレとキンジの元まで辿り着いた。


「アリア、今はギャアギャア暴れてる場合じゃないぞ。そのくらいわかるな」


「ギャアギャアなんてしてない! でもそうらしいわね。最初は霧でよく分かんなかったけど……」


オレの言葉に1度噛みついたアリアだったが、そんなこともどうでもよくなる状況だと理解はしたようで、その手のガバを威嚇するように周囲に向けた。


「パトラはキンジのお兄ちゃんと一緒みたいだし――ヒルダは、逃げたみたいだし」


アリアに言われてさっきデュランダルに縫い付けられていたヒルダを見てみると、確かに影はなかった。
でもなぁ、オレのカンはアリアより冴えてる時がある。こと危険予知に関しては、だが。それによると、非常に良くない空気だ。
それで改めて周りを見回してみると、リバティー・メイソンを名乗ったトレンチコートを着た男はいなく、キンジの足元には手毬(てまり)に化けた玉藻様。さらにさっきの巨大メカの中から出てきたスクール水着みたいな紺色のコスチュームを着た女の子が、アリアを指してルールー! と喚いてどこかへと逃げてしまった。


「なぜ来た、アリア……! 気をつけろ、ヒルダはまだいるッ。それも、近くに……! 逃げるぞ! ヤツはイ・ウーから――『緋色の研究』を盗んでいる! 危険だ!」


そこへ地面からデュランダルを抜いてジャンヌが近寄ってきて、この周囲にダイヤモンドダストの霞を作り出しオレ達の姿を隠していく。このダイヤモンドダストに紛れて逃げる算段だな。
ジャンヌの意図を瞬時に理解したオレは、そのダイヤモンドダストが濃くなるのを待ち、タイミングを図っていたのだが、不意にアリアの影の中からヒルダが現れて、その背後を取った。


「――Intâi gândeste, apoi porneste. Prilejul te face hot...(よく確かめてから来れば良かったのにねぇ。まるで飛んで火にいる夏の虫……)」


おそらくルーマニア語で何か言ったらしいヒルダは、その左手でアリアの後ろ首を掴んで捕らえる。


――パァン!

そのヒルダに対して先手を打ったのは、プロペラの上にいたレキ。
レキの撃った弾はヒルダの頭部を左上から右下へ貫通。したのだが、そのヒルダはアリアから手も放さずに頭をグラリとさせただけ。やっぱりブラドと同じ、か。



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