緋弾のアリア〜影の武偵〜

□Bullet47
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――ぎゃー!

宣戦会議のあった翌朝。いつものように小鳥の朝食を食べていると、下の部屋からアリアのそんな甲高い悲鳴が聞こえてきて、聴覚の優れる美麗と煌牙がビクンッ! と顔を上げるが、オレや小鳥は至って普通にそれを聞き流す。どうやら玉藻様やシスターメーヤの言った通り、すぐにどうこうなることはないらしい。
しかし、いつ寝てるのかさっぱりわからない新しい住居人、羽鳥・フローレンスは、その声に聞き覚えがあるような表情で当たり前のように食べていた朝食を中断。こいつからも食費は徴収しなくちゃな。


「小鳥ちゃん、今のはアリアかな?」


「あ、はい。たぶんそうだと思います。もしかしてこちらに来てからまだ会われてないんですか?」


「残念ながらね。彼女とは不思議とすれ違いが多くてね。会おうとすると会えないんだよ。だから私も時の運に身を委ねているのさ」


ウザ……。きっとアリアのやつもこいつのウザさが嫌で避けてるんだな。こいつが転入したことくらいはもう耳に入ってるだろうし。

そんな予想をしながら、朝食を終えて各々が準備をして登校していって、最後にオレが部屋を出る直前になって、そこで携帯に着信があった。
着信はメールのようで、送信者は昨夜から眷属の誰かを追っていって姿をくらませたジャンヌ。
何か知らせるためにメールしたのかとすぐに内容を読むが、別にそうではなかった。メールには短い文で「クジ引きは頼んだ」と。
はて? と一瞬考えてしまったが、これは今日の4時間目の3クラス合同のLHRで決める『アレ』だとすぐに思い当たる。ああ……そんなのあったなぁ。

そうしてジャンヌからの頼まれ事を頭に入れて登校していったオレは、教室に入ってから微妙な顔をするキンジを発見。その原因がアリアにあるとすぐに見抜いたオレは、ザッと教室を見回してみたが、アリアがいない。


「またアリアと喧嘩でもしたのか?」


「してない。よくわからんがあいつが勝手に騒いで突っぱねられたんだ。というかなんで俺の顔を見て最初の質問がそれなんだ?」


「お前がそんな顔するのはアリア関連くらいだろ。不知火とかも言うと思うし。んでアリアは?」


「知らん。学校に行けないじゃないって騒いでたし、今日は来ないかもな」


それでキンジは自分の席にとっ伏してしまい、もういいだろ的な雰囲気を醸し出したので、毎度ご苦労なキンジに両手を合わせてから自分の席に着いて一般授業を受けていったのだった。

英語、化学、漢文といたって普通に授業をこなして、3クラス合同のLHRが行われる体育館に移動する直前。来ないかもと言っていたアリアが、昨夜ヒルダに噛まれた首筋に絆創膏を貼って姿を現した。
何やらキンジを警戒してる素振りを見て取れたが、2人の関係に割って入るのもそれなりの勇気が必要なためスルー。厄介そうなことには首を突っ込まない。賢明だ。

そんなわけで体育館に移動を終えると、騒がしく自由な2年の生徒が思い思いに誰かと会話をしていて、うるさい。しかもその内容がほとんどこれから行われる『アレ』なのが鬱になる。


「ガキども! それじゃ文化祭でやる『変装食堂(リストランテ・マスケ)』の衣装決めをするぞッ!」


ドンッ!

騒がしい生徒を天井への威嚇射撃で黙らせて、蘭豹がそう叫ぶ。
静まったタイミングで今度はタバコを吸いながらの綴がむせながらチームごとに分かれるように指示を飛ばし、オレはジャンヌがリーダーのチーム『コンステラシオン』のメンバーと合流したが、何故か中空知だけチームメンバーの1人の後ろに隠れてオレを避ける。
あー、前にもジャンヌに「視界に入るな」って注意されたっけ。嫌われてんのかねぇ、オレ。夏休みのあの事件でふざけたからかなぁ。

などと中空知に嫌われる原因について考えていると、手伝いの1年生、幸帆が上に丸い穴の空いた箱を持ってこちらに近寄ってきた。
箱の中には、オレ達2年の一部が担当する『変装食堂』。そこで着る衣装を決めるためのクジが入っていて、ジャンヌがメールで言ったクジ引きはまさにこれ。
変装食堂は普通の高校で言うところのコスプレ喫茶のような出し物だが、ここは武偵高。着た衣装の職業をきちんと演じ、それらしく振る舞う事が求められるのだ。つまり『なんちゃって』は許されない。真面目にやらないと教務科による体罰フルコースもあるとあって、みんな命がけである。
変装自体は諜報科のオレにはあまり抵抗はなく、大抵の職業なら即決する覚悟はある。しかし引き直しは1度のみ。2度目に引いた衣装は確定となるため、連続して苦手な職業などを引けば、地獄を見ることになる。だから気楽には引けない。


「どうぞ京様。京様ならどんな衣装も絶対に着こなせますよッ!」


「その根拠はどこから来るんだ……」


そうやって目をキラキラさせながらに箱をオレの前に差し出した幸帆は、幸帆なりにクジを引くのをためらうオレを励ましたのだろうが、どんな衣装もというのは無理がある。何故ならこのパンドラの箱には、オレが最も嫌う『ハズレ』まで、容赦なくぶちこまれている。それを引いた日には……自殺も考えよう。


「あ、待った幸帆。先にジャンヌの分のクジを引きたいんだが」


直前になって1度インターバルを置きたくなったオレは、そこでジャンヌの分のクジを先に片付けることを思い付き幸帆に進言すると、幸帆は快く承諾し、持っていた男子用の箱から女子用の箱に持ち替えた。
オレはその中から適当に手に取った4つ折りの紙を引き抜きその紙を開いた。

『ウェイトレス(アットホーム・カフェテリア)』

うん。確かジャンヌは可愛い衣装は好きだったはずだし、以前読んでいたファッション雑誌にもそれらしいものに丸印が点いてたから問題ないな。
そうして引き直しをせずにジャンヌの衣装を決定させたオレは、それで軽く息を吐いて落ち着くと、今度は自分の分のクジに手を伸ばそうとした。


「ぎゃー! 寄ってくるなー!」


そんな時にアリアの甲高い声が体育館に響き、思わずそちらに目を向けると、そこではホルスターからガバを抜き臨戦態勢のアリアが、ニコニコ笑顔で近寄ろうとする羽鳥のやつを牽制していた。ああ、ついに遭遇したか。


「酷いなぁアリア。私はこんなにも再会を待ちわびていたというのに」


「こっちは待ってなかったわよ! とにかくあたしの半径10メートル以内に近寄らないで! この、お、女たらし!」


「女性を大事にするのは私のポリシーさ。それを女たらしなんかと一緒にされるのは心外だよ。みんなもそう思うよね?」


どうやら予想通り良好な関係ではないらしいアリアは、羽鳥を相当毛嫌いしていて、そんなアリアにも終始笑顔を崩さない羽鳥は、言って周りの女子達に賛同を求めると、女子の半分以上が賛同。他は判断が難しいといった感じで、男子に至っては心底呆れた顔を浮かべていた。オレも今そんな顔をしているだろう。間違いない。



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