緋弾のアリア〜影の武偵〜

□Bullet49
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変装食堂の衣装作りの仕上げから一夜明け、朝早くからオレは教務科の個室へと招かれて、そこにいた綴先生と対面して座っていた。朝からなんなんだこの拷問は、と思わざるを得ないこの状況で、見るからに眠そうな綴先生は、心底面倒臭そうにオレへ1枚の書類を渡してきた。


「ほら、今回の依頼の内容だ。依頼主から直々のご指名だからなぁ、ちゃんとやれよぉ」


渡された書類を読みながら、綴先生の言葉に耳を傾けていたオレだったが、次に来た綴先生の含みのある笑い声に少しイラッとした。


「しっかしお前、よく似合ってるじゃないか。それなら依頼主が勘違いするのも頷ける」


「……全然嬉しくないですけど……」


と、綴先生が何を見て似合ってると言ったのかと言うと、現在のオレはいつもの武偵高制服を着てはいたのだが、髪は昨夜取り付けたままにしていたエクステがあり、化粧は落としていながらも、まだ女性っぽさを残す感じになっていたのだ。
それを綴先生は似合ってるなどと全然嬉しくない感想を述べて、クスクスと笑っているというわけだ。


「まぁ良い機会だろ。この依頼をお前が完遂できたなら、変装食堂も安泰だわな」


依然笑みを崩さないままにそう言った綴先生に、オレは笑うことすらできなかった。
今回オレが受ける依頼。それは簡潔に言えば『要人警護』。依頼主は昨夜女装をしたオレを指差して「この人がいい!」などと言ってきた金髪の両サイドに縦ロールを携えた少女、有澤燐歌(ありさわりんか)。
警護の対象は有澤燐歌本人となるわけで警護依頼自体は特に問題はなかったのだが、今渡された書類にも書いてあって『女性限定』に絞られていたのだ。
つまり、依頼主である有澤燐歌は、オレが女性だと思って依頼を任せてきたということ。悲しいことだが、オレの女装は一般人を騙せるほどに完成度が高かった。そういうことなのだった。

もちろん依頼を断ることもできたのだが、 どうにも依頼主は相当なわがまま娘のようで、オレじゃなきゃダメだとゴネたらしく、その立場的地位の高さからか、武偵高としても印象を悪くするのはよろしくないというわけで、半ば教務科に脅される形で依頼を引き受けていた。そうなれば必然、オレはこの依頼を女装して挑まねばならなくなるわけだ。


「お前が気を付けるのは2つ。女装はバレるな。失敗するな。これだけだ。簡単だろ?」


「全然簡単じゃないですって……」


「幸いお前以外のメンバーに制約はないし、役に立ちそうな奴を集めてフォローさせろ。私からは以上だ。依頼は今日の夕方から1週間。ほい行けぇ」


それで話は終わりと綴先生はシッシッ、と手で追い出す素振りを見せたので、機嫌を損ねる前に渋々個室を出たオレは、手元の書類に1度目を向けてから大きなため息を1つ吐いてしまった。

しかし、決まってしまったことをいつまでも落ち込んでいるわけにもいかないので、この依頼を無事に終わらせることに頭を切り替えて行動を開始。まずはこの依頼に向いている協力者を募る。

今回の依頼主である有澤燐歌は、大手の化粧品会社『有澤グループ』の社長令嬢。年齢はまだ14歳の中学2年生で、3姉妹の末っ子に当たるらしい。
しかし最近、現在の会社の社長である母親から末期の癌が見つかり、そう永くないことがわかったため、次期社長を娘に立てようとしていたのだが、長女と次女が立て続けに殺害されてしまったとのこと。この事は大々的にニュースでも取り上げられていたので、オレも知ってはいたが、今時珍しいと思えるほどの後継者問題だな程度の認識でニュースで見ていたものが、まさか自分の元へも舞い込んでこようとは予想もできなかった。
それで残された直系家族、三女である燐歌にまで危険が及ぶことが見込まれるので、武偵高に警護の依頼を持ち込んできた。最初は武偵庁に持ち込んだらしいのだが、身の回りを固めるのは全員女性でなければダメという要求によってお払い箱にされたらしい。自分の命が危ないかもしれないというのに、わがままにもほどがある。

と、そんな依頼主のため、選ぶ協力者も女性に限られてくるわけで、最初に声をかけたのは移動の際に車を運転する運転手。これは同じ武偵チームで武藤と並ぶ車輌科の優等生である島苺に頼んでみたが、丁度出払うとの事で断られてしまうが、武藤の妹の貴希にお願いしたら2つ返事でオッケー。まずは1人確保。
続いて彼女の料理を作る料理人。その中の1人に入れられる人物は1人しか思い当たらなかったので、オレの戦妹、小鳥に真っ先に頼めばこれも悩む余地もなく了承。何故か嬉しそうにしていたが、そういえば小鳥と一緒に依頼をこなすのは初めてだったか。張り切りすぎなければいいんだが……。
3人目は監視カメラのモニタリングなどの裏方サポート。最初に無駄とわかりつつ中空知に声をかけるが、話をする前に逃げられてしまったので、幸帆に頼めば大丈夫だとの事なので任せてみる。幸帆はやればできる子なのは知ってるので、あまり心配はない。情報科に入ってからの成長は期待していいはず。
それで保険としてあと1人、オレと一緒の彼女の護衛役を付けようかと思い、目ぼしい人材を当たってみたが、アリアは母親の裁判があるから却下。ジャンヌも未だ音信不通。理子は昨夜の調子から色々と抱えているっぽいので頼るのもはばかられ、小鳥経由で高千穂や風魔、火野などにも声をかけたがダメ。元よりオレが男だとバレるのを防ぐ意味合いが大きいフォロー役のつもりだったので、なしでもいいかと考えたところに、声をかけた火野から1人、頼めそうな人材を紹介されたため、連絡を取ってみれば快く引き受けてもらえたのだった。

これでメンバーは揃えられたかと思い、依頼のために準備をしていたら、余計なやつまで同行すると言ってきたので、この上なく嫌な顔でお断りしたのだが、なんか「連れてきたことを絶対に後悔はさせない」などと自信満々に言って強引についてきたので、もう仕方ないからサポート役として嫌々ながら同行を許可した。マジで嫌なんだがなぁ……後悔だってしない自信の方があるし。



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