緋弾のアリア〜影の武偵〜

□Bullet52
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警護任務の3日目。ここまでは何事もなく襲撃などないのではないかと思い始めるところではあるが、そういった油断が生まれるタイミングを知るような奴が犯人だとすれば、むしろここから気を引き締めなければならない。


「それじゃあ1日で考えてきたと思うから、早速会議を始めましょうか」


そんなオレ達の胸中を他所に、昨夜の年相応で本来なら面に出しても不思議はない悲しみと寂しさを吐露した有澤燐歌は、朝に目覚めてからはあれが嘘か別人であったかのように堂々とした態度で振る舞い、昨日保留となっていた会議を始める宣言をして、それに合わせるように横に控えていた沙月さんがホワイトボードを用意して会議の進行を始めた。
一応、ここに来るまでで沙月さんを監視していた羽鳥からは「異常なし」の報告はもらっていたが、桜ちゃんには今日も沙月さんの監視をしてもらっている。

そうして気丈に振る舞っている燐歌を少し心配しつつも、1日寝かせてきた会議だけあって、意見は止まることなく飛び交い、沙月さんによってホワイトボードには次々と分かりやすく要点がまとまったことが書き込まれていく。
オレが理解する必要は特にないのだが、この会議において重要なのは『会議の内容を決定に持ち込むこと』ではなく、別にこの案件が否決に終わっても構わないのだ。重要なのは『会社のために燐歌が持ち込んだ案件を真剣に話し合うこと』だろう。ここで燐歌が「こういうことを考えたから、どうするかを話し合ってくれ」と会議自体を丸投げにするようであれば、途端にこの会議は意味をなさないものへと変わるが、燐歌もこの会議の重要性についてはよく理解できているようで、自分が納得できない意見には積極的に割り込んだりして自分の意見を臆することなく述べている。

そうした燐歌の真剣でひた向きな姿勢に、会議室の空気は変わりつつあった。元々燐歌を支持していたであろう人達は、より一層好感を高めたようだし、燐歌の社長としての能力に半信半疑だったろう人達も、まだ足りないながらもその顔に少しだけ安心感のようなものが見えた。あと数人、頑なに表情を変えない人はいたが、燐歌がこのまま頑張る姿を見せ続ければ嫌でも認めざるを得なくなる。いや、そうなってほしいというのがオレの個人的な願望だな。

そんな会議がおよそ1時間ほど続いて、ホワイトボードにびっしりと書かれた内容がずいぶんとスッキリとして、この案が決定の方向で進んだところで、不意にオレの聴覚があり得ない音を捉えた。

――ドォォン

という何かが爆発したような音。発生源はこの会議室からでは当然ないし、会社内からでもないだろう。おそらくは外。高層階に位置するこの会議室内で気付いたのはオレ1人か。
それでオレは会議の邪魔をしないように桜ちゃんを招き寄せて会議室の窓から外の様子を見てもらう。オレの指示を受けて窓から階下の方を覗き見た桜ちゃんは、何かを捉えたようで視線を固定すると、その映像を分析したのか、数秒でオレの元へと戻ってきて小声で伝えてきた。


「何かが爆発して炎上しているようでした。おそらくは車でしょう。この会社正面玄関のすぐ近くで黒煙が上がってますから、もうすぐ避難警報が出るかもしれませんね」


車が爆発? ガソリン漏れか何かか? と、桜ちゃんの報告を受けて考えようとしたところで、予想通り会議室に非常ベルが鳴り響き、会社の裏玄関に避難誘導をするアナウンスが流れ始めて、会議も中断せざるを得なくなり避難が始まる。
この場合、社長である燐歌をまず逃がすのが当たり前だが、この混乱に乗じて人込みから狙われては守りにくいため、燐歌には最後に避難をしてもらう。一応、沙月さんからも目を離せないので同行を指示しておいた。

それで会議室にオレ達しかいなくなったところで、オレの懐の携帯が着信を知らせてきたので、燐歌達に少し待つように言ってから、通話の相手を確認。羽鳥からだが、何だ?


『会社内では避難誘導が始まってるかい?』


「ああ、外で車が爆発したんだろ?」


『その通り。狙い済ましたようなピンポイントで私の車だ。あとほんの少し脱出が遅れていたら確実に死んでいたね。直前に察知した君の忠犬達に感謝するしかない』


おいおい、それはどういうことだ? 羽鳥が狙われた? 何故? いや、どうやってが最初の疑問か。こいつは依頼主側に知らせずにオレ達とは別行動で動いていたんだぞ。


『すまない。君の忠犬2匹とは脱出の際にはぐれてしまった。それから今も私は狙われてるようでね、生きるか死ぬかの瀬戸際だ。だからそちらとの合流を図る余裕もなさそうだ。しばらく姿を眩ますから、有澤燐歌から絶対に離れるな。どうにも私達の想像よりヤバイのが裏にいる』


それで通話を一方的に切ってしまった羽鳥だが、切ったと言うより切れた感じがした。雑音がしたし。携帯を壊されたか。
しかし、この騒動の原因が羽鳥を引き金に引き起こされたなら、何かこちらで起こっても不思議はない。そう思いつつ警戒を強くして避難を開始しようとしたところで、会議室の窓の外から妙なプレッシャーを感じてそちらを向く。そうすると丁度、窓と桜ちゃんが一直線に並んで自分を見たと勘違いした桜ちゃんが首を傾げたが、オレの視線は窓の外からこちらに一直線で飛来する何かに固定され、このまま突っ込んでくれば桜ちゃんが危ないと判断し考えるより早く桜ちゃんの腕を引き横に投げ飛ばすと、それと同時に窓ガラスをぶち破ってオレへと弾丸のように突撃してきた何かを蛟の昇降装置で天井に張り付くようにして使って避ける。その何かはオレのほぼ真下で床に食い込む形で止まったが、かなりの速度だったにも関わらず床を突き抜けたりはしていなかった。そこまで重量はないっぽいな。
その何かを観察するのも一瞬で、すぐに天井から離れて驚きで固まる燐歌の前に阻むように着地したオレは、思考停止していた桜ちゃんに声をかけて覚醒させて手にクナイを持って飛来した何かに身構える。だが、羽鳥への襲撃にこちらへの奇襲。やはり何かタイミングを計っていたか。



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