緋弾のアリア〜影の武偵〜

□Bullet52
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会議室のほぼ中央に位置取った飛来物はどうやら自分で動けるらしく、人間のようにむくりとその体を起こすが、その体を黒いマントのような布で覆っていて全容が見えなかった。しかしそのマント、オレには見覚えがあった。いや、マント自体にではない。そのマントの裏側に『幸姉が扱う言霊符と同じ文様』が描かれていたのだ。
そしてオレがそれを確認したのと同時にマントを広げた奴は、しかし人ではなかった。全身を黒タイツで覆ってしまったかのような黒い人型をした何か。そう例えるしかないが、そいつ――影とでも呼ぶことにしよう――は広げたマントを右手に持ち替えると、マントは途端に裏側、文様を表にした1本の槍を形作りその手に収まると、顔なき顔でオレの後ろの燐歌へとその視線を向けたのがわかり、それを遮るように立ちはだかると、影は何の躊躇もなくその手の槍でオレめがけて突きを放ってきた。
避けるわけにはいかないオレは、その槍の先端をクナイで弾き軌道を自分の左へと変え、開いた懐へ侵入。腹へと肘を叩き込むが、骨の感触も内臓を刺激した感触も一切無くてすかさず1歩引き右足の回し蹴りで蹴り飛ばして距離を開く。
今の攻防ではっきりしたが、あれは人間でも機械的な何かでもない。おそらくは超能力。遠隔操作か自動操作なのだろうが、どちらにしろ操っているであろう本人は幸姉と同等レベルと見ていい。
オレに蹴り飛ばされて壊された窓際まで後退させられた影は、1度オレを見たような気がしたが、次には持っていた槍をあり得ない速度で投げ放ってきて、避ければ動けずにいる燐歌に当たってしまうことがわかってるオレはその槍を自分の左肩で受けて止める。防弾・防刃仕様のスーツじゃなきゃ穴が開いてたな。まぁ、脱臼するほど痛かったわけだが……

それでオレの左腕が動かなくなって痛みで怯んだのを確認するより早く。到達速度からして槍を投げた瞬間から前に出ていた影は、オレの左側を抜けていこうとしたが、右手の蛟からアンカーボールを引き出して影の背中にくっつけてワイヤーを巻き取る力も利用して後ろへと引き戻してやり、ついでに足元に落ちていた槍を足で掬い上げて槍の先を影へと向いたタイミングで柄頭を蹴ってお返しするが、影は意図も簡単にそれを半身で避けて片手でキャッチ。遠隔操作にしては良い反応だ。
それでオレを抜けないと見たのか、今度は槍を高速で回して攻防一体の突撃をしてきたわけだが、完全にオレの排除へ意識が向いていた影は、真横から放たれた1発の銃弾をその側頭部に命中させられてその動きが鈍る。その隙に槍を右手で掴んで影から奪い取り、再び回し蹴りで距離を開いて、オレから離れたところを今フォローしてくれた桜ちゃんが追撃して3発。眉間、右肩、腹へと銃弾を撃ち込んだ。


「桜、近付く……ないでね」


「自分の力量はわかってますのでご心配なく」


ギリギリのところでオレは女装してることを思い出して、言葉遣いを改めて桜に警告すると、桜も影が危険なものだとわかっていてひと安心。わかってなきゃ迷いなく即死する場所を撃ったりはしないだろうがな。

しかし、銃弾を受けた影は倒れることなく立ち続けて、オレを見て、桜ちゃんを見て、もう1度オレを見ると、オレの手にあった槍を凝視した、ような素振りをすると、槍は途端に発火して一瞬で燃え去ってしまい、不覚にもそれに驚いてしまった隙を突いて再び影が接近。だが今度はオレに抱きつこうとする挙動で両手を広げてきた。
だが、ビックリすることにたったそれだけの挙動に対して、オレの体は危険信号を発して『死の回避』が発動。後ろの燐歌を無視した回避行動をしようとしたが、それを抑え込んで踏みとどまる。何が起きるのかは知らないが、ここで避けるわけにはいかない!
死ぬかもしれない影の行動に反射で動こうとする体を押さえつけるという命令で動きが止まってしまったオレが、影に抱きつかれる直前。オレの後ろから白い影が迫る影へと突進してそれを阻んだかと思うと、勢いそのままに影を倒して床に伏せる。


「美麗!」


それを行ったオレの仲間、美麗は、影を押さえつけながらオレを見てウォン! と1度吠えて何かを訴えてくるので、何かと思えば、押さえつけられている影が内部から膨張していて、赤々となりながら熱を生み出しているのだ。
それを確認して慌てて近くのテーブルを立ててバリケードを作り燐歌を守ったオレは、すぐに襲ってきた猛烈な爆発から必死に燐歌を守って、爆発が収まってから燐歌の無事を確認し会議室へと目を向ければ、爆心地である影がいた場所は階下へと大穴を開けて焼け焦げていて、それを直前まで押さえつけていた美麗は部屋の端まで吹き飛んで、綺麗だった白い毛色が赤黒い血の色に染まっていて、桜ちゃんは美麗と一緒に部屋に侵入してきた煌牙に覆い被さられる形で爆発から守られたようだったが、盾となった煌牙は力なく倒れてしまっていた。嘘、だろ……


「美麗……煌牙……」


「沙月!!」


オレがその光景に思考が回らなくなりそうになったところで、ほぼ同時に燐歌も大声をあげたため、それで思考を呼び戻したオレは燐歌を見ると、そこには爆発の余波でできた瓦礫で頭を強打し意識をなくして倒れている沙月さんの姿があった。
その沙月さんに泣きながら必死で声をかける燐歌を見て放心してる場合じゃないと完全に覚醒したオレは、桜ちゃんに救急の連絡をするよう指示して外れた肩を力ずくで入れ直してから沙月さんの頭の止血と容態を確認し、下手に動かさないよう言ってから、血まみれの美麗と煌牙を診る。が、ヤバイ。出血もそうだが、なにより傷が深い。意識もないようだし、止血だけではどうにもならないかもしれない。
とにかくここも安全とは言えないため、美麗と煌牙をカートに乗せ、沙月さんをオレが背負って桜ちゃんと協力して慎重に下の階へと運んで駆けつけた救急へと引き渡してそのまま病院へ。美麗と煌牙は動物病院へと運ばれたので、そちらには貴希と小鳥を向かわせた。

――オレは……何をやってるんだ……リーダー、失格だ……


沙月さんを乗せた救急車の中でオレは、そうやって自分の力のなさがどうしようもなく情けなく思っていた。



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