緋弾のアリア〜影の武偵〜

□Bullet53
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燐歌への襲撃から8時間。外は完全に夜の闇に覆われて、その間にずっと意識のない沙月さんに寄り添っていた燐歌が、穏やかな寝息を立てながら椅子に座ったままベッドに体を預ける形で寝てしまう。時間も夜の10時を少し回った辺りで、当然と言えば当然の休息。そんな燐歌に毛布をかけてあげて、オレもそろそろ戻ってくるであろう桜ちゃんと貴希を待ちながら体を休めていた。

それで桜ちゃんと貴希が来るより早く携帯に着信があり、誰かと確認すれば相手は幸帆。一瞬、小鳥からの電話かと思ってしまったオレだったが、すぐに切り替えて通話に応じる。


『姉上と連絡が取れました』


「で、何かわかったか?」


『それが……よくわからないんです』


オレは病院に来て落ち着いてから1度、幸帆へと指示を出すために連絡を取っていたが、その際に幸姉から話を聞くように指示していた。
理由は単純。見えざる敵が幸姉と同じ言霊符を使ってきたので、もしかしたら『あの組織』と関係があるかもしれないと予測したから。あそこの理念を考慮するなら、幸姉の言霊符が扱えるやつがいてもおかしくない。
そう思っての指示だったが、何やら幸帆から芳しい返事が返ってこなくて説明を要求。


『姉上の超能力は魔眼以外……つまりは言霊符ですね。それは日本では割とオーソドックスな5大元素を自然の循環の中で操るタイプの超能力で、日本だけでも力の大小を考慮しなければ扱える人はそれなりに多いそうです。ですから特定の人物をしぼり込むといったことは難しいと』


「だが、報告した影の方なら何か特定できる要素があったんじゃないか?」


『そちらもこれといって心当たりはないということでして……でも、何か言葉に詰まった感じを携帯越しに一瞬。もしかしたら何か知っていて「教えられないことがあった」のかと勘ぐったりしたのですが……京様の名前を出した上でのお話だったので、思い過ごしでしょうか』


幸姉でも知らない、のか? うーん、てっきり『イ・ウーの残党』の誰かかとも思ったが……一応もう1人、2人聞いてみるか。


「幸帆、繋がったらでいいが、ジャンヌと理子と……夾竹桃……は無理かな。とりあえず追加で3人にも当たってみてくれ。ひょっとしたら何か掴めるかもしれない」


『わかりました。お三方の共通点がよくわかりませんが、できるだけ当たってみます。桜ちゃんからの追加情報も整理して、気付いたことがあれば改めて報告しますので』


まだ武偵としては駆け出しのはずの幸帆だが、なかなかに落ち着いた様子でオレの指示なしでも動くところは動いてくれて助かる。実際のところ理子やジャンヌはオレから聞いた方が余計な手間が省けるだろうが、今は警護任務中。あれもこれもとやって本業が疎かになれば本末転倒。分担できる役割はそうするべきなのだ。

幸帆との通話が切れた後、30分ほどして現場検証へ行っていた桜ちゃんと貴希が帰ってきて、その際に食料の買い出しもしてきてくれたようで、その中からおにぎりとお茶をもらって、燐歌を起こさないよう注意しながら報告会。ここまで自前の車で走り回ってた貴希は、明日に備えて燐歌の送り迎え用の車に乗り換えに1度帰宅。


「現場を拝見させてもらって、警察の鑑識からもお話を聞いてきたのですが、襲撃された羽鳥さんの車とその周辺にも、会議室の方にも犯人に繋がるような証拠物は一切見つかりませんでした。鑑識がただの現場事故なんじゃないかと疑うほどに、何も」


「あの影の破片か何かでも出てくればと思ったが、それすら出てこないか……」


「羽鳥さんの車の爆発の際、それを近くで目撃した人物の証言では、羽鳥さんと美麗と煌牙が車から転げ出るようにして飛び出した直後に、空から黒い物体が車に物凄いスピードでぶつかってきて爆発したとか。その黒い物体が私達を襲った影と同じものだと見て間違いなさそうなんですが、何か1つでも手掛かりをと思い粘ってみたのですが、何の収穫もなく帰ってきてしまって申し訳ないです……」


「……桜は超能力者との戦闘経験はあるかな?」


「いえ。正直どう対処していいのかわからないほど思考が追い付きませんでした」


「『何でも持ってる桜さん』も、超能力者との戦闘経験は持ってなかったってな」


「そういう意地悪な言い方は嫌いです」


報告するに当たって収穫を得られなかったと落ち込み気味だった桜ちゃん。しかしオレは別にその報告に不満もなかったし、そう落ち込まれても困ってしまうので、この依頼に当たる前に下調べしてわかっていた桜ちゃんの通称を出しつつ気持ちの入れ換えをさせようとしたら、逆効果。難しいな。


「経験にないことをした人に最高の結果なんて求めてないよ。それに何の手掛かりも掴めなかったっていうのは、一般の常識から見た見識。超能力ってのはその常識を越えてるんだから、別の方向から見れば、桜が持ち帰ってきた情報にも新しい手掛かりは見つかるかもしれない。こう言った方がわかりやすかったか。悪いな、人を励ますのは慣れてないんだ」


「励ますつもりだったなら紛らわしく意地悪みたいに言わないでください……お礼が言いづらいです……」


「悪かったよ」


それで少し顔を赤くしてしまった桜ちゃんは、誤解したのを誤魔化すようにしてお茶を口に含んで1拍置く。


「…………ありがとう、ございました」


「ん? 何が?」


「その……今の私への気遣いと……会議室でのことです。猿飛先輩が手を引っ張ってくれなければ、私はどうなっていたかわかりませんでした。その、言いそびれてずっとモヤモヤしてたので、今のと一緒に……」


「依頼主を守るのがオレの役目だけど、仲間を守るのもオレの役目だ。武偵憲章にも1条でそう書かれてるだろ。オレはそれに従っただけ。桜が無事で良かったよ。援護にも助けられたし」


1拍の後に急にお礼を言われてビックリしたが、オレはオレにできることをしたに過ぎないし、桜ちゃんだってオレのピンチにちゃんと援護してくれた。お互い様だと思うし、目の前の危機をどうにかしようとするのは当然の行動。お礼を言われるのはなんだか痒くなる。
そんなオレの言葉に桜ちゃんはまた黙ってしまって、すぐに病室の前の廊下を見張ると言って出ていってしまった。



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