緋弾のアリア〜影の武偵〜

□Bullet53
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結局、その日はそのまま適度に休憩を挟みながら病院で一夜を過ごしたオレ達。その間に小鳥、幸帆、羽鳥からの連絡はなかったが、早朝の6時を回った頃に小鳥から連絡が入ったので、煌牙に守ってもらったこともあったからか、桜ちゃんが聞き耳を立ててくる中で通話に応じた。


『任務中ですので簡潔に報告します。美麗も煌牙も峠は越えました。今は麻酔も効いてぐっすり眠っていますが、怪我は相当深くて最悪の場合は以前のようなスペックで動くことはできないかもとのことです』


「そう……か。いや、命を繋いでくれただけで御の字だ。小鳥はそのまま美麗と煌牙について……」


『いえ。私もこれから任務に戻ります。美麗も煌牙もちょっとだけ意識が戻った時に揃って「私達のことはいいからご主人を助けてやって」って。昴はフローレンスさんと一緒にいるみたいですし、昴だけでも合流を図っていて私が定位置の有澤邸にいないと対応できませんから』


まず美麗と煌牙が死なずに済んだことは喜ばしいことだ。桜ちゃんもホッと安堵の息を吐いて、オレも少し笑顔がこぼれる。次に聞いた事実では、2匹の今後のことは考えなきゃならないが、今は任務に集中しなきゃいけないので、小鳥には引き続き2匹についてもらおうと思ったら、意外にも小鳥は強い意思を持ってその指示を拒否。携帯の音をよく聞けば、どうやら歩きながらで車の走る音もするので、もう移動を始めているようだった。それに行動理由もしっかりしてる。こんなところで戦妹の成長を実感することになるとはな。


「……わかった。戻ったらまず徹夜してるはずの幸帆に美味しいご飯を作ってやってくれ。それからオレ達も燐歌を連れて戻って会社に行くから、そっちの準備も頼む」


『わかりました。着替えと朝食、昼食を用意しておきます。あと昴と会えたら話を聞いて報告しますので。それでは』


長話をするのは申し訳ないと思っていたのか、小鳥は早回しな口調でそう述べてから通話を切っていき、オレ達も燐歌が目覚めてからすぐに動けるように準備を整えておいた。問題なのは、起きた燐歌がここから動こうとするかだが……。

小鳥からの報告から1時間弱して、沙月さんに寄り添っていた燐歌が目を覚ます。最初は自分がいつ寝たのか把握していなかったようだったが、1度眠る沙月さんの安らかな寝顔を見て笑顔を見せてから、オレに時間を聞いて移動を開始。どうやら会社に行ってくれるようでひと安心。それを信じて準備していたオレ達はすぐに動き出してまずは1度帰宅。各々着替えや朝食を最短で済ませて30分とかけずに出社。燐歌を安心させるために、貴希には病院へ行ってもらい沙月さんが目覚めたら連絡するように言っておいた。

出社後、燐歌はまず昨日の襲撃の際に半壊させられた会議室の修繕を速攻で片付けて、決まりかけていた企画をまとめて不備がないかの最終確認のために上役を集めての集会後、企画を担当するチームを結成して着手させると、社長室に籠って書類作業に追われていった。沙月さんがいないことで作業効率は段違いで落ちてはいたが、昨日の今日で仕事ができているだけでも凄いことだ。それにいつもより時間は押しているが、全部終わらせるまで帰るとは絶対に言わないだろう。そういう子だ。

そうして燐歌の奮闘を見守りながら、昼前から降り始めていた雨が段々と強くなってきたのを確認しつつ、貴希から沙月さんが目を覚ましたと連絡があったのは、「もう少し……もう少し……」と呟きながら作業をしていた燐歌がダウン寸前になる夕方の5時を回る頃。それで沙月さんが目覚めたことを燐歌へすぐに伝えれば、それで目に見えて作業効率が上がったが、もう本当にあと少しだったのか、数分で作業終了。速攻で病院へ向かうと言って移動を開始した。
が、肝心の貴希が今まで病院にいたこともあり、結果として会社のロビーで貴希を待つ羽目となり、物凄く落ち着かない様子で同じところを行ったり来たりする燐歌に苦笑。

そんなタイミングでまたもオレの懐の携帯が振動し、相手を見ると小鳥だったため、燐歌に通話に出る断りを入れてからそれに応じると、小鳥は酷く焦ったような口調でオレに情報を伝えてきた。


『今さっき昴がずぶ濡れで戻ってきたんですけど、昴が言うにはフローレンスさんが酷い怪我をしたみたいで、今も雨の降る場所で身動きがとれないみたいなんです。この雨で追っ手は撒けたみたいで、それで昴もようやく単独で動けたみたいです』


「それで、羽鳥の居場所は?」


どうやら昴が戻ってきたらしく、その昴が言うには羽鳥のやつが負傷して動けずにいるというので、どこにいるのかを問いかけると、丁度そこで貴希が会社の前に到着。しかしオレは小鳥から伝えられた場所を聞いて、急いで貴希を移動させ、悪いと思いつつも燐歌にはオレと桜ちゃんと一緒に移動してもらって、会社の裏口へと向かう。
裏口から外へと出て、近くにあったゴミ集積場に近寄ったオレは、そこに積まれたゴミ袋のいくつかをどけて、その中にいた雨に濡れて全身ボロボロで意識のない羽鳥を引っ張り出して背負うと、裏口に回ってきた貴希の車に押し込んで座席に寝せ、燐歌と桜ちゃんも乗り込んでから病院へと直行。


「すみません燐歌様。お車を汚してしまって」


「い、いいわよそんなこと。それよりその男の人、大丈夫なの?」


「わかりません。とにかくこんなに衰弱してる中で、濡れた服を着てたら体温が下がって危ないです。脱がせますので、抵抗があれば見ないようにしてください」


車が出発して早々に、燐歌の許可を得てから羽鳥の衣服を脱がせるが、燐歌は男への免疫が低いのか、顔を背けた上に目までつむっていた。
しかしそんなことは今はどうでもよく、何の躊躇もなく上半身の丸々晒した羽鳥の体には、すでに完璧な包帯巻きで右脇腹の止血も完了させてあったが、この雨のせいであまり意味のないものとなってしまってる。
続けて下のズボンを脱がせてみれば、こちらには右足に火傷があり、処置はされていたが最低限のもので、ちゃんと治療しないとダメだな。
と、そこまで容態を見たところでオレはあることに気付く。いや、気付いてしまったというのが正しいか。今や黒のボクサーパンツ1丁になってる羽鳥。こうして全身をまじまじ見るのは初めてだったが、直接見た羽鳥の体は、明らかに男の体格をしていなかった。骨格など、腰の辺りはまさにそれそのものだった。

こいつ……『女』だったのか……



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