緋弾のアリア〜影の武偵〜

□Bullet56
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夾竹桃の運転する車は台場を出て墨田区へと突入。途中からオレが発信器の示す場所を見ていたのだが、それが示す場所は一向に動こうとしていないところを見るに、理子はそこから移動していない。しかも示す場所はこの墨田区で、いや、いずれは世界で一番高くなる電波塔を指している。
そうして辿り着いた東京スカイツリーの真下で車を降りたオレは、首が痛くなるくらいに高くそびえるスカイツリーの天辺を見ながら、これでまだ7割の完成度とは思えなかった。


「待ちなさい」


それでここに理子と、おそらくはヒルダもいるとわかっているため、いつかのブラドと対峙した時を思い出して覚悟を決めて歩き出そうとしたところで、夾竹桃がオレを呼び止めて急に何かを投げ渡してくるのでそれを受け取るが、プラスチック性の小型の試験管みたいなケースで、中には粉末状の何か。


「これは?」


「野暮なものよ。必要かどうかはあなたの出来次第だけど、使うタイミングと方法くらいは教えましょう。ただしそれを使ったら、あなたのこれからの日々は私のアシで埋まることになるわ」


アシって漫画のアシスタントだよな……。お金とかを要求されるよりはマシと考えていいのかはわからないが、それに了承してから話を聞いて改めて東京スカイツリー。その建設現場へと足を踏み入れる。
一応不法侵入なので、監視網には引っ掛からないように進むが、500メートル近い建物を足で登るのはしんどすぎるので、先にあった作業用エレベーターを使って上を目指す。辿り着いたエレベーターは、夜は作業などしていないはずなのに動力が入って動いていて、しかも上から降りてきたので、確実に誰かが使っている。それが確認できたオレは、エレベーターに乗り込んで上へと登り、1度では登りきれないエレベーターをいくつか乗り継いでいくが、その途中でいきなりエレベーターが停止。何事かと下を見れば、周囲の街の明かりが消えていて、携帯を取り出すと電波障害のなんたらと出て、停電したことを理解する。何もこんな時に停電しなくてもいいだろとは思うが、この周辺の街だけが停電してるのには少し疑問がある。断線というには1ヶ所では収まらない規模だし。しかしどうすることも出来ないので待つこと数分。無事に復活したエレベーターは再び上昇を始めて、地上350メートルの高さに位置する第1展望台へと到達。工事中のためまだ床をコンクリートで固めた程度で吹き抜け状態。間違って落ちでもしたら確実に死ぬだろうな。
ここからオレも警戒して周囲をうかがうが、人の気配はない。それならばさらに上の第2展望台に確実に誰かいる。少なくとも理子はほぼいるだろう。それで上への道を探して、エレベーターと階段を使って気配を殺しながら地上450メートルに位置する第2展望台の目前まで到達。しかしそこでオレは1度立ち止まり姿を隠す。人の気配がするのだ。しかも複数。音を聞けばチェーンソーの駆動音がするのは嫌な感じだが、耳を澄ませば話し声も聞こえてくる。女、おそらくはヒルダの声と、聞き間違えるはずがない、理子の声。


「――アリアは緋弾の希少な適応者だ。殺したら『緋色の研究』が上位に進めなくなるぞ」


その声に状況は理解すべきと考えて第2展望台を覗き込めば、北側の方に固まって四人いるのが確認できた。駆動するチェーンソーを持つヒルダ。そのヒルダを止めるような形でチェーンソーに手を持っていっている理子。その足下に上着をめくり上げられて下着姿を披露する動けないアリアに、同じく動けずにうつ伏せで倒れるキンジ。ようキンジ。どうやら行く先は同じだったみたいだな。
見ただけだと状況こそさっぱりだが、理子の言葉からなんとなくあのチェーンソーでアリアが何をされそうだったかは理解できる。理子が自由に動けてるところを見ると、ヒルダとは協力関係にでもなっているのか。


「この――無礼者ッ!」


バチンッ! しかしその理子はヒルダが放ったのだろう金色の電光によって倒れてしまい、その背をピンヒールで刺すように踏みつけられる。そして持っていたチェーンソーを投げ捨ててしまったヒルダは、ヒステリーでも起こしたのか、理子に対して激昂。


「理子! お前……見ていて分からなかったの? 私は今、一番いいところだったのよ! せっかく……せっかく、もう少しで上り詰めようとしていた所なのに――お前のせいで、台無しだわ!」


「ア……アリアには、まだ利用価値がある! 殺すな……!」


「『アリアを殺すな』……ですって……? お前、私に忠誠を誓ったのではなかったの? そう。そうなの。また裏切るつもりなのね?」


抵抗を見せない理子を踏みつける力を強くして言い放つヒルダは、忠誠などという言葉を使っていたが、オレから見ればあんなの言葉だけ繕っている支配だ。ブラドと同じで理子を下等生物として見て従わせてるだけに過ぎない。


「理子。私は今夜、お前を試すつもりでいたのよ。アリアとトオヤマを見殺しにできるかどうか……でも、お前はそれに失敗した。ということは、またバスカービルに戻るつもりなのかしら? んん? ええッ?」


ぐりッぐりッ。何度もピンヒールを抉るように動かして話すヒルダに沸々と怒りが込み上げてくるが、ここまでされて何もしない理子が痛々しい。それほどまでにヒルダは理子にとって抗えない存在なのだろう。


「理子。やはりお前は私の下僕に相応しくないわ。ペットに格下げよ。一生、私の部屋で玩具(おもちゃ)にしてあげるわ。首輪をつけて愛玩してあげる。こうやって……こうやって、ねッ! もし次、私に逆らったら――そのイヤリングを弾いて、殺してやるからッ!」


そんな無抵抗の理子を何度も踏みつけながら、ようやく足をどけたヒルダだが、話に出たイヤリングが先ほど夾竹桃が言っていたことと繋がるものだと確信。遠くて現物を確認できないが、それがさらに理子を抵抗できなくしている原因なのは間違いない。


「――理子。私に謝罪なさい。ううん、今のは謝るだけではダメ。この靴に口づけして、永遠の忠誠を誓うのよ。お前はもう、私のものとして生きる道しかないのだからね」


言いながら理子の顔に自らのピンヒールを近付けるヒルダに、理子はほぼ無抵抗でゆっくりとその靴に触れると、言われた通りに口づけするために唇を近付けるが、その目にはいつかのブラドに捕まった時と同じ涙がこぼれ落ちていた。

――助けて――

そんな言葉が、実際に聞こえたわけではなかった。だがオレは、そんな理子を見た瞬間、状況とか何もかもを頭の外へと追いやってその場から駆け出していた。今、頭の中にあるのはただ1つ。

――理子を、助ける!――



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