緋弾のアリア〜影の武偵〜

□Bullet62
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その後は何事もなく帰宅できたオレは、待ってましたといった感じの小鳥と羽鳥と一緒に夕食を食べてから、客人――人じゃないがな――が夜遅くに来ることを伝えておいてからサクッとシャワーを浴びて、横になると寝てしまいそうだから久しぶりに小鳥の徹底指導をして玉藻様が来るまでの時間を潰す。途中から羽鳥のやつまで加わって無音移動法(サイレント・ムーブ)やらミスディレクションやらをやるのだが、さすがSランク。現状の小鳥より段違いで上手いので当人が軽くヘコんでしまった。一応前回のランク考査でCランクは取れた小鳥だが、元がどちらかというと探偵科向きなため、技術も徒友解消後に戻るであろう探偵科で活きるものを優先で指導してることもありランク的にはこれが限界だとは思う。探偵科に戻ったらBランクは頑張って取ってもらいたいところ。じゃないと戦兄として無能みたいになるし。
そんな遠くない未来のことをちょっとだけ見据えつつ、日々成長する小鳥の姿を目に焼き付けていると、いつの間にか時間も夜の10時を回っていたのでお開きとすると、今日1日文化祭でも1年故に色々動いていたらしい小鳥はヘトヘトになってシャワーを浴びてから寝室へと直行。羽鳥はいつもこの時間は自室で怪しい薬品実験をしてるのですでに姿は見えない。玉藻様が来られたらオレもすぐ寝よう。
そう思っていたら大きなあくびがつい出てしまい、完全に眠気が飛んでしまわない程度に気を引き締めて待つこと20分ほど。ようやく到着した玉藻様はリビングに入ってくるなり着ていた武偵高のセーラー服と帽子を脱ぎ捨てて「寝間着じゃ猿飛の」とすっぽんぽんで言ってきて、見た目幼女の玉藻様に別段どうという感情もなかったが、すっぽんぽんでうろつかれても困るのでオレのTシャツを寝間着代わりに渡すと、ぶっかぶかのTシャツがほぼ全身を覆ってそれでなんか満足したらしい玉藻様はそのまま寝室へと侵入してまっすぐにオレのベッドへと入ると、オレが入れるスペースを作ってポンポンそこを叩く。マジですか……


「ほれ、何のためにお前さんのところで1泊すると思っとる」


拒否権は、ないだろう。ここで機嫌を損ねられたら面倒だ。幸い玉藻様は見た目幼女。一緒に寝ていても端からはちょっと微笑ましい光景で済む。小鳥も変に言及はしてこないだろう。
などなど色々と後のことを考えていたら、玉藻様のポンポン叩く手が速くなるので仕方なくベッドへと入り布団を被ると、すぐにオレの懐へ入りクンカクンカと匂いを嗅いだ玉藻様は、それ以降すっかりリラックスしたようで穏やかな寝息が聞こえ始めたので、オレももう本当に疲れていたので程なくして意識が遠退いていった。

翌朝、寝相が悪いのか玉藻様に首に抱きつかれて軽く窒息しかけるところで起きれば、丁度小鳥も起きたタイミングで玉藻様を見られたので気まずい雰囲気になるが、幸姉の知り合いと説明したら何故かすんなり納得していつものように朝の準備を始めていき、オレも玉藻様を寝かせたままでたまには小鳥の手伝いをしようと一緒に朝食の支度をしたりし、自室でそのまま寝てたらしい羽鳥も朝食の匂いに釣られて起きてきて、玉藻様も子供のように寝ぼけながら起きてきて、4人で食卓を囲んでから各々支度を済ませていった。

その後は今日もこき使われる小鳥がまず先に登校していき、クラスの女子と文化祭を回る予定だと言う羽鳥が出ていき、昼まで暇だと言う玉藻様が文化祭を見て回ると言い出したのでそれに同行することになったオレは、昨日と同じ格好の玉藻様を肩車しながら文化祭を回っていったが、その途中で何やらオレを探していたらしい風魔と遭遇し、有無を言わせぬままにどこかへ連行しようとするので逃げようとしたが、幸帆まで合流されてはよからぬことではないと思わされてしまい、仕方なく連行されてみれば『美男子コンテスト』なる会場の裏に通されて、そこには不知火や羽鳥までいて嫌な汗が吹き出る。
玉藻様がどんな催しかを幸帆に聞いて「外の面で位を争うとは面妖な催しじゃの」と漏らしていたが、全く以てその通りだと思う。その通りだと思うので何故か勝手にエントリーしてくれやがった運営にはささやかな抵抗としてバックレさせてもらうことでチャラにしてやるが、加担した幸帆にはあとでお仕置きだ。
それで玉藻様と一緒に会場をあとにしようとしたら、玉藻様はどうやら美男子コンテストに興味があるらしく残ると言い出したので、子供じゃない――確か800歳くらいだったはず――からいいかと玉藻様を1人残してオレ1人でその辺をブラブラして時間を潰すことになってしまった。いざ1人になると暇なんだよな……

まぁ暇なら暇で適当な場所で寝るのもいいかと、不知火達男衆で回る昼過ぎまで一般教科の校舎の屋上へと赴いて近くで流される音楽をBGMに寝ようとするが、そこにはすでに先約がいて、誰かとよく見れば3年の時任ジュリア先輩。ロシア人とのハーフである彼女はSSRの首席候補で『脳波計(スキャンメトリー)』と呼ばれる超能力を持ち、大雑把に言って触れた相手の思考を読み取れるらしく、オレも過去に不用意に近づき触れることを拒否されたことがある。


「お1人ですか」


「……なんだ少年か。相変わらず悪趣味な接近だな」


それでフェンス越しに文化祭の様子を見ていた時任先輩に声をかけてみると、それで気付いた時任先輩は薄く笑いつついつもの感じで返してきた。まだ名前で呼んでもらったことないんだよな。


「やっぱり人混みはダメなんですね」


「人で賑わう場所は私にとって苦痛でしかない。少年は何故ここに?」


「ちょっと昼まで寝ようかと思いまして」


「そうか。では私は退散するとしよう。少し気分を変えて来てはみたが、やはりSSRの自室の方が落ち着く」


そんな会話の後に時任先輩はゆったりとした足取りでオレとすれ違い、オレが来た道を引き返すようにして屋上を去ろうとする。


「ああ少年。ついこの前なんだが、ようやく少年とどこで会ったか思い出した。あの時は訳も言わずに拒絶して済まなかったな」


その去り際に急に思い出したのか階段の前で立ち止まって振り返りそう謝罪してきた時任先輩。正直初めて会ったのは今から3年も前なので、気にもしてなかったことを謝罪されてちょっと戸惑うが、気にしてないと答えるとまた薄く笑う。


「少年との距離感は不思議とストレスを感じないな。君は世渡りが上手いのかな」


そして最後によくわからないことを言って去ってしまった時任先輩に、世渡りは決して上手くないと内心でツッコんでおいた。



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