緋弾のアリア〜影の武偵〜

□Bullet62
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時任先輩との会話後、少しだけ寝るつもりが不知火からの電話で起きたオレは、予定通りキンジ、不知火、武藤と一緒に文化祭を回っていき、美男子コンテストの結果だけ聞くと羽鳥が優勝で不知火が準優勝。オレは不参加ってことで処理されたらしいので、ざまぁみろと思いつつ、CVRのダンスショーを見たり、各学科の出し物を見たりで久々に何の気兼ねもなくのんびりと時間を使うことができた。

まぁそこまでは良かった。しかし文化祭の打ち上げはそうもいかない。
午後の7時。体育館へと赴き、そこで行われる武偵高の悪習『武偵鍋』のためにチーム毎で1つの鍋を囲む。
この武偵鍋はチームで食材を持ち寄るが、その食材に必ず『アタリ』と『ハズレ』を用意しないといけない。奇数人数のチームの場合は1人が『調味料』担当になるが、オレの所属するコンステラシオンは癖がありすぎるためにアタリをハズレにするようなやつが混ざってて、そんな悲劇を少しでも減らすためにオレと中空知がアタリ担当になり、普段から通信講座で授業を受けて今日も案の定登校してこない鑑識科の京極めめの代わりにオレ達の鍋に参加させられた羽鳥と鍋文化のないチームリーダーのジャンヌがハズレ担当となり、あと1人。車輌科で武藤と双璧と目される島苺が調味料担当となっていた。
武偵鍋用の鍋は普通の土鍋にシルクハット状の蓋を被せることで中を見えないようにでき、蓋の天井部が開閉されることで中を見ずに取り出せる闇鍋仕様。すでに持ち寄った食材は鍋に投入済みだが、幹事であるオレはその中身を知ってるだけに戦々恐々。必ずひとすくい分は食べなきゃいけないルールによってジャンヌや羽鳥も普段の余裕が若干ないようだ。だがお前らが持ってきた食材がハズレなんだからな。
そして中の具を煮ている最中に、調味料担当の島が到着。どうやって車を運転してるのかわからないほどの体格――135センチ程度――にモカブラウンのふんわりした髪。理子以上のフリフリヒラヒラを盛りまくって原型すら留めていない魔改造セーラー服と頭に特大サイズのピンクのリボンを載せた見た目小学生にすら思える島は「お待たせしましたですの!」と一言オレ達に謝罪してから、何故かあぐらをかいたオレの足の上にちょこんと座ってきた。


「……島、ちゃんとゴザに座れ」


「苺の特等席ですの!」


「頼むから退いてくれ……お前の『妹』にも目をつけられてるし」


「猿飛さんは苺がお嫌いですの?」


それで退いてもらおうと言葉を連ねれば、オレを見上げてうるうるその瞳を潤ませる島。本当にこういうタイプは苦手だ。だからといってこのままもダメだと思うので左隣に座っていたジャンヌにアイコンタクトで助けを求め、溜め息を吐いてから島を抱え上げたジャンヌは、そのまま自分の左隣に着地させて「スキンシップは程度がある」とかなんとか諭して収めてくれた。
そして島が来たことで調味料が追加されることになったが、嬉々として島が取り出し躊躇なく鍋へと投入した調味料は、恐ろしいことにパルスイート。その量たるや250グラムは入ったが、砂糖の約4倍の甘さを誇る人工甘味料だぞ……どうしてくれる……


「島……それはどこから仕入れてきたんだ?」


「理子さんからおすそわけしてもらいましたの!」


ダッ! ドッ! ゴッ!
何の悪気もなく満面の笑みでオレの質問に答えた島に責はない。ないわけじゃないが怒りの矛先は島には向かず、オレとジャンヌは聞いた瞬間にチームバスカービルの鍋に突撃して、そこで呑気に鍋を箸で叩いていた理子にゲンコツを1発ずつお見舞いして打ち倒し、キンジ以外揃っていたバスカービルメンバーにドン引きされるが、それを無視して自分達の鍋へと戻りもはや鍋の中が予測不能になった現状に打ちのめされる。

それでもルールはルール。食べないわけにはいかないので、せめてもと思ってお玉ですくう時の感触で中身を選別しようと先手必勝で動こうとしたら、横から羽鳥にお玉をかっさらわれて「君の分は私がすくってあげよう」などと余計なことをしてくれやがる。そして羽鳥がすくい上げた物は、ジャンヌさんが持ってきた苺大福。さらに余計なチョコまで渡してくれやがったせいで食べなくてもその甘さに悶絶しそうになる。これを食べるというのか……
ジャンヌ達が沈黙する中で覚悟を決めたオレがそれを口に含んで、丸飲みできない物なせいで口の中で何度か吟味する羽目になるが、死にそうだ。これ以降はおそらく甘い物を口にできないほどの地獄を見ながら飲み込んだオレに対して、ジャンヌ達は拍手。さぁ、次はお前らの番だこら……
オレに続いてジャンヌががっつり甘い煮汁を吸い込んだ煮卵を食べてダウン。アタリがハズレになってたので、もう中身は全部ハズレだな。
続けて仕返しにオレのすくい上げた魚のフライを羽鳥に渡して、自分が「フィッシュ&チップスは英国が誇る料理さ」などと豪語していた物を前にして珍しくためらったが、平静を装って食べ切ると速攻でどこかへ立ち去ってしまった。
その後はチョコがほんのりコーティングされたポテトを中空知が食べて泡を吹き、ジャンヌと同じで煮汁をたっぷり吸い込んだ大根を食べた島は、天に召された。

想像を絶する惨劇。オレ以外が息をしていないうちの鍋は周囲からもどよめきが起こり、そんな中でも無事? に全員ノルマは達成したため、捨てるように鍋の中を入れ換えたオレは、出汁からまた鍋を作り始めて、眞弓さん達が気を利かせて持ってきてくれた肉や野菜を入れて完全復活。ジャンヌ達も三途の川を渡る手前で戻ってきて、ようやく平和な鍋が開始された。
ここで初めて中空知と対面で会話ができたが、ジャンヌの忠告通りまともな会話にならなかった――どうやら面と向かってだと緊張するらしく、男は特にダメらしい――のは少々驚いた。オペレートは完璧なんだけどな。そしてクドクドとジャンヌを口説き出した羽鳥に、それを振り払いながらも鍋をつつくジャンヌを横目に、子供のようにじゃれてくる島に戸惑っていたら、近くでバスカービルの鍋をつついていた理子が乱入してきてオレと島の間に割り込んで途端にうるさくなったりと平和な鍋が遠ざかってしまうが、それはそれで楽しいと思えてしまったのだから文句は言えないな。

楽しい思い出半分。辛い思い出半分くらいになった文化祭が終わった翌日。後片付けは1年の仕事なので暇をもて余していたオレは運悪く綴に捕まって臨時のランク考査の手伝いをさせられる羽目となり、1日を無駄にしてしまった。
すっかり暗くなった学園島を歩いて帰宅しながら、一応は貰った報酬に感謝しつつも綴への恨みはややプラスにしておく。

――ガウゥゥン!

そんな銃声がオレの背後から聞こえるより早く、首が勢いよく左に傾いたためにかなり驚くが、そうなったということはオレは今確実に殺されかけた。


「――ハッ! 本当に殺せねェじゃねェか」


途端に警戒して振り向いてすぐにそんな声が聞こえてきたのだが、どこを見ても声の主の姿はなく戸惑うが、不気味な笑い声はいつか聞いたことがあることに気付く。


「……ジーサード、だったか」



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