緋弾のアリア〜影の武偵〜

□Bullet64
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さらに翌日。体の調子は普通に歩けるまでに良くなったので、明日からの生活には問題ないくらいに回復しそうだ。武偵活動をするにしては全然だが、諜報活動にもやり方は色々あるしな。まぁ大丈夫だろ。
それで昨日までにもらったジーフォース。遠山かなめの情報から、少し情報源を増やそうと根回しを始めた放課後にあたる時間。呼び出した人物の到着まで装備の整備をしていたら、ノックもなしにいきなり部屋へと入ってきた人物が。当然呼んだ人物はそんな不躾なことをする子じゃないので誰かと思えば、オレの元へは見舞いになんて絶対来ないだろう夾竹桃の姿があってちょっとビックリ。しかもいつも着ている黒のロングスカートのセーラー服ではなく、黒のカーディガンを羽織った武偵高のセーラー服姿で状況がよくわからなかったが、その日本人形のような容姿の表情はあからさまに怒っている。それはもう誰が見ても黒いオーラさえ見えるほどに。


「あなた、いつまで私のところに顔を出さないつもりなの? 死にたいの?」


「……あー……何で?」


ぶちんっ!
そんな音が夾竹桃から聞こえた気がしたが、何故そんなに怒っているのかまだわからないオレはもう少し思考を巡らせてみる。すると夾竹桃が左手の手袋に手をかけたところで唐突に思い出す。恐怖は人に閃きを与えるのか。


「待って! 思い出した! 思い出しました! 解毒薬の件ね! だからとりあえず話をしよう! 暴力反対!」


とにかく今は戦闘力皆無のオレでは夾竹桃に勝てないので、謝りつつ話し合いに持ち込もうと口を開けば、手袋を元に戻した夾竹桃は小さな威圧感を放ちながらベッドに備えられた椅子に座って足と腕を組む。凄い偉そうだ。


「こっちは文化祭だなんだと言い訳するあなたに仕方なく折れて放置してあげたのに、なに? その文化祭が終わっても私に顔すら見せずにこんなところで油を売って。本来なら即殺ってるところだけど、あなたを殺ると色々面倒なのよ。理子とジャンヌを敵に回したくはないしね」


間近に来てからは余計に感じるイライラな夾竹桃にもう下手に発言するのもためらわれたが、全面的にオレが悪いのは明らかなので謝罪の言葉から会話へと応じる。


「それなんだけどさ。一応聞いておくけど、あの解毒薬をお金で解決するとどのくらい?」


「それを聞いてもあなたの支払いが変わらないくらいのものよ。そうね、あれに使った物の中で1番高価だったのは仕入れでさんじゅ……」


「うん、いつからアシスタントをやらせていただけますか?」


以前、報酬の支払い延期を直訴した時に聞き忘れていたので、とりあえずお金での支払い額を聞いてみるが、最低でもあれな感じだったので速攻でアシスタントを決定。ものわかりの良いオレを見た夾竹桃は、オレを顎で使えるとあってイライラの表情から魔女のような薄い笑いに変化。


「差し当たっては漫画のネタを仕入れて、そのネタを元に漫画にしていくのだけれど、あなたに私の感性が理解できるわけもないでしょうし、ネタ探しは私の方でやるわ。幸いここはネタの宝庫で楽しめているしね。だからあなたは私の呼び出しに迅速に応答して命令通りに働きなさい。それが出来なかった時は解放時期がどんどん延びていくから覚悟なさい」


「それでここの制服にチェンジか? 動くなら確かにそっちの方が自然ではあるな」


「ああこれ? これは明日から正式に通うことになったから、サイズ合わせも兼ねた試着よ。理由についてはジャンヌとそう変わらないわね。ネタ探しのための用意ではないわ」


完全にイライラは治めてくれた夾竹桃。しかしどうやらオレはこれから自由がそんなにないらしく、何か他に優先しようものならアシスタントの解放が延びるみたいで絶望しかない。それから今さらながらに制服について尋ねれば、ジャンヌと同じく司法取引で武偵高に通わされることになったとか。これも今さらな気がしないでもないが、本人がなんとも思ってないならいいのだろう。


「まぁオレがすることはわかった。だがあくまで本分は漫画のアシスタントだろ。オレは明日の朝には退院して明日から日常に戻る。一応今夜は暇ってことになるんだが、その時間はお前の描いた漫画を見てどんな感じかを知っておきたいところ」


「そのくらい最低ラインでやってもらわないとね。それに知るだけでは使い物にならなくてよ。光栄に思いなさい。未熟なあなたのために色々用意したのだから」


そうやって明日から余裕が果てしなく無くなりそうなことを予想して、オレが無駄な時間を少しでも減らそうと要求をしたところ、嬉々として持ってきていた鞄を膝に置き、中から自分が描いたのであろう漫画数冊に『猿でもわかる漫画の描き方』『漫画に息を吹き込もう』『効果的なコマ取りとアイテムの使い方』などなど、漫画に関する本が合計6冊出てきてオレの膝の上に積まれる。


「それ、今日中に読んで理解しておきなさい。実際に働く時にいちいち確認されるのも鬱陶しいし、私も丁寧に指導してあげるつもりはないわ」


「あ、ありがとう……こんな未熟者に勉学の機会を与えてくれて……」


そうして出された資料類に文句でも言おうものなら、また左手の封印が解かれるかもしれないので表面上は感謝しつつ、予想外の資料の多さに今夜は睡眠時間を削ることになりそうで心で泣くのだった。

その後アドレス交換をして特に指示がない場合の合流場所だけ言い残した夾竹桃は静かに部屋を出ていき、嵐が去った後のように安堵の息を吐いたオレは、置いていった資料をパラパラと流し読んで苦笑。これを1晩でってのは厳しいな……
ガックリと肩を落としたところで、申し訳なさそうなノックと共に呼び出していた子が部屋を訪れて、今聞けるだけのことを聞き、それを踏まえて言うべきこととこれから注意すべきことを言ってからすぐに帰宅してもらった。
そしてこの日の夜は夾竹桃の置いていった資料を全部読むことだけに時間を費やされて、全部を読み終わった頃には窓からうっすらと朝日が射し込んでいたのだった。あー、まだ読み終わっただけなんだが……ロスタイムください……

こうしてオレは図らずに3つもの仕事を同時にこなすという波乱の日々を開始するのだった。



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