緋弾のアリア〜影の武偵〜

□Bullet65
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朝方。世話になった病院を出たオレは、いつもの日常に戻るようにその足を一般教科の校舎へと向けて歩き出していたが、その足取りは若干重い。昨夜から適度な休息を挟みながらもほぼ徹夜に近い状態で夾竹桃から渡された漫画に関する資料を読み続け、それでもまだ頭に入り切らなくて精神的な疲労が蓄積しているのだ。
それでも文句を言える立場にもなかったので、教室へと辿り着いてからまた漫画の資料を取り出して机で寝ながらスクリーントーンのあれこれやらを頭に入れていく。種類が多い……


「おっす猿飛ぃ! って、なに読んでんだよ」


「おはよう猿飛君。復学早々で珍しい組み合わせだね」


そんなオレに気軽に声をかけてきた武藤と不知火が、挨拶と共に早速持っていた資料に興味を示して近くの席に座ってくる。


「必要あってのことだ。詮索されるのは御免だ」


しかし、詳しく聞こうとしていた2人に対して先読みした返答で話を強制的に終わらせたことで沈黙が流れる。それに対して2人も仕方ないといった雰囲気半分。つまらないといった雰囲気半分の微妙な表情で笑ってから、折角話をする体勢になったからと別の話題を掘り下げてきた。


「そういやあのキンジに妹がいたんだとよ。一昨日にインターンの1年で入ってきて、1回この教室にも来たんだが、あのキンジの妹とは思えん美少女でビックリしたぜ」


「噂だともう彼女のファンクラブが結成されてるとかいないとか。その辺の人を惹き付ける魅力は、遠山君のある種のカリスマ性を思わせるかもね」


それで出てきたのは噂のジーフォース。遠山かなめのこと。転入からわずか3日ですでに『遠山キンジの妹』と強く印象づけてるところを見るに、なかなかのやり手だ。真偽のほどは未だ掴めないが、周りがそう思えばキンジも公で妹否定をしにくくなる。
評価に関してもだ。どうやら話で聞く限りだと相当な美少女らしく、今も教室内での他の会話からかなめの名前が聞こえていたが、悪い話は聞こえない。アリア達を襲撃した手前、猫被りな可能性が大だが、そういった周りから囲んでいくタイプは相手としては相当に厄介だ。下手に手を出せばこちらが悪者にされかねないからな。どうやらその辺はもう手遅れみたいで、玉藻様の初動云々の助言は無駄になった。まぁ後手は慣れてるよ。悲しいがな……


「んで、その可愛い妹さんが出てきて、兄貴の方は変化あったか?」


「確実にリア充やってるなあれは」


「はは……リア充かはわからないけど、僕の見立てでは妹さんに振り回されてるところはありそうだね。なんだかんだで遠山君って優しいから、妹のお願いは聞いちゃうって感じで。昨日も放課後に腕を引っ張られてお出かけしてたみたいだし」


「じゃあリア充でいいんじゃね? アリアにバカスカ撃たれてる日々よりよっぽど健全だろ」


そうしてあんまり興味もなさげに会話へと混ざって、しっかりと引き出せる情報は聞き出しつつバカな返しをし、それに2人が軽く笑っていつもの日常の風景とする。露骨にやると鋭いやつらは気付いて余計な探りを入れてくるかもしれないから、そういった意味で武偵高ってのは面倒だ。
その後は武藤の妹持論を持ち出してのああだこうだが始まるが、それを右から左へと流しつつ資料を読んでいたら、噂のリア充キンジが教室へとやって来てオレ達に軽く挨拶し席に座るが、どうもその表情にはいつもの根暗さとは別に疲労がうかがえた。


「妹とは仲良くやってるのか?」


「あんなの妹じゃ……いや、ご機嫌をうかがうので精一杯だ」


武藤の止まらないトークなど不知火に押し付けてキンジへと話しかけてみれば、やはり公では妹を強く否定することはできなくなってるのか言葉を濁して近況を伝えてきた。ということでオレも真意を隠しつつの言葉で情報交換といこう。


「オレが入院してる間に聞いたこともない妹にずいぶん手を焼いてるみたいだな。可愛いって噂だし、オレにもちゃんと『紹介』しろ。キンジの友人として『挨拶』くらいちゃんとやりたいし」


「……あいつ、男は苦手みたいだから仲良くとはいかないかもしれない。それでもまぁ、挨拶くらいなら放課後にでもできるだろうよ」


普通に聞けばまぁ普通の会話。キンジもちょっとだけ考える間を置いてからの返答だったが、要するに今のは遠山かなめとのコンタクトをキンジ仲介で行いたいということ。別に直接接触する危険を冒すこともないが、あっちはオレのことも結構リサーチしているみたいだから、相手と直接対峙し会話することには大きな意味がある。人から聞く話と自分が見たものには絶対に相違が生じるものだからな。それに自分で見たものは他の何よりも信用がある。しかし不用意に接触するのは思わぬ事態にも発展しかねないため、ここでキンジを緩衝材にして不測の事態を回避する算段。あとは一応、敵意はないことも明確に伝えておきたい。具体的なアクションを考えるのはその後になるか。

ということで今日はもっぱら情報収集に徹して大人しく生活をしていったオレは、授業中に漫画の資料を読みながら、アリアと理子のいない比較的静かな教室に少しだけ物足りなさを感じつつ、しかしいつも後ろの理子からシャーペンでツンツン背中をつつかれて絵しりとりなどをさせられたりの邪魔がないのはやっぱりありがたい。
そんな感じでよくわからない気持ちがありつつも、夾竹桃のノルマは無事に達成し特に何事のなく4時間目までの授業を終えてから武藤達の昼食の誘いを断って、教室を出てまっすぐ屋上へと足を運んだオレは、そこで事前に待ち合わせていた人物と合流。実は病院を出るよりも前に連絡を入れて約束のようなものをしていたのだが、張り切ってしまったらしい2人はオレより早く屋上にいてちょっとビックリ。授業終わって3分くらいで来たんだけどな。


「早いなお前ら」


「京夜先輩より遅く来たら厳罰ものですからね」


「京様をお待たせするわけにはいきませんから」


と、オレの近づきつつの問いかけに対して、小鳥も幸帆も同じような返答をして意図的に開けていた輪のスペースにオレを迎え入れてくるので、オレも促されるままにそこに座る。



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